会社を終え、帰宅途中の電車の中。いつもの様に読書に耽っておりました。ふと目を上げると、いつの間に現れたのか、ガラの悪そうな若造が1人座っています。ズタズタに破れたデニムを腰履きして、腰にはチェーン、腕にはタトゥー、唇、鼻、瞼、耳にそれぞれ痛そうなピアス、ヘッドフォンからは耳障りなシャカシャカ音があたり構わず響き、ガムをくちゃくちゃという輩・・・。目は虚ろで、手は携帯を弄び、3人がけのシートを1人で独占しているという、絵に描いたような「迷惑な光景」です。けっこう混んだ車両でしたが、彼の前に立つ乗客は少なく、必然的に彼と私の間には妨げるものは無く、どうしても目が合ってしまいます。「あぶなそうなガキだなあー、ぜったいナイフ持ってんなあ」とか思っておりましたところ・・・。彼、携帯に飽きたのか、ポケットからやおら文庫本を出して読み始めます。「何読んでんだろう、似合わねえなあ」と見ておりますと、カバーなんか掛けてないその本の表紙が見えました。何と・・・、それは芥川龍之介「地獄変」・・・でした。何かの課題図書でしょうか(でも絶対学校に行ってる姿には見えないし・・)、けっこう真剣に読んでいます。その時私が読んでいたものは、P・G・ウッドハウスの「エッグ氏、ビーン氏、クランペット氏」という、何とも御気楽な小説で、「地獄変」に比べると格段に比重の軽い読書です。思わず「カバー掛けといてよかった・・・」と安堵してしまうとともに、ちょっと自分が恥ずかしくなりました。全身が「地獄変」のような姿の彼ですが、彼なりに人生の苦楽を学んでいるのかもしれません。
今日の教訓
人を外見で判断してはいけない。特にその人が「地獄変」を読んでいるときは。