国際情勢の分析と予測

地政学・歴史・地理・経済などの切り口から国際情勢を分析・予測。シャンティ・フーラによる記事の引用・転載は禁止。

『中国化する日本』(與那覇 潤・著)

2011年12月22日 | 日本国内
「中国化する日本」を読んだ。この本は、明治維新以来の日本人の意識転換を迫るものである。この本では、宋が貴族制を打破して科挙官僚を通じた皇帝の権力強化に踏み切ったことと貴族の荘園から農民が解放されて居住や職業選択の自由が実現したことを重視し、宋が世界で最も早く近世に移行した国であると説く。そして、近代の欧州の躍進は宋の哲学の影響を受けたものであり、逆に欧州の様な後進地域が世界の最先進地域に躍進できたことが最大の謎であると主張している。また、源平の争いは宋銭を大量に輸入して日本も宋の経済圏に参入しようとする平家と従来の農業主体の経済に固執する源氏の対立であり、源氏の勝利の結果日本は長い武家政治の期間中経済の停滞を経験、対照的に宋や清では経済が発展し人口も急増したと指摘している。著者の主張は多くの引用文献で裏付けられたおり、既に歴史学の定説になりつつある様だ。 1970年代末から中国と米英の三カ国で開始された新自由主義も宋の改革理念を実行したものであり特に中国で大成功を収めたとの認識の元に、著者は日本も中国的な社会に移行していく運命にあると予測している。一見欧米化している様に見えても、欧米の変化のお手本が中国である以上、それは中国化なのだという。 現在の日本では終身雇用制が崩壊し始めている。終身雇用制では多数の正社員に安定し上昇し続ける年功給を支払い続ける義務があるが、現在の様な低成長で競争が厳しく先行きが見通せない時代にはそのような雇用システムには無理がある。また、IT化の進行と貿易の拡大で、モジュール化された製品を賃金の安い途上国で生産し組み立てて先進国に輸出するというビジネスモデルが大成功を収めており、非モジュール化製品に強みを持っていた日本の製造業は苦境にある。この現状で終身雇用にこだわる日本の企業は少数の若手社員が膨大な雑用に追いまくられ、仕事に見合わない高給を得る多数の中高年社員を支えるという不合理な状況になっている。また、海外に留学した大学生・社会人や文系院卒、出産した女性などの「大卒一括採用終身雇用」システムから一度離脱した人々が能力とは無関係に雇用の機会を失っているという現実がある。城 繁幸などの多数の論者が指摘するとおり、終身雇用の崩壊は避けられないだろう。 . . . 本文を読む
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