評論家のいう「雑なアクション大作」、
映画「マーフィーの戦争」最終回です。
ナチスに殺害されたエリス中尉が乗っていた水上艇を修理し、
撃沈され、全滅した商船の仲間とエリス中尉の仇を取るために、
Uボートとたった一人で戦争する気になった男、マーフィー。
・・・とここまで書いて、映画ではここに至るまで、
マーフィーという人物が一体どういう立場で商船に乗っていたのか
まったくわからないのに気がつきました。
さて、こちらは終戦のニュースを聞いたUボートの乗員御一行。
甲板で記念写真を撮ったり、寝転がってビールを飲んだりと、
それなりにまったりした時間を過ごしています。
彼らの表情が明るいのも、負けたとはいえ命存えたからでしょう。
乗員と一緒にお酒を飲んでいた艦長に、甲板から連絡がきました。
頭に包帯をしているのは、マーフィーの爆撃で負傷した副長と思われます。
「変な音がします」
姿を現したオンボロ船を見て彼らは愕然とします。
あの「しつこい男」が諦めていないことを知ったのでした。
これはあれだな、戦争が終わったことを知らないに違いない。
と思った艦長は、メガホンで
「イギリス人!イギリス人!戦争は終わったぞ!」
「戦争は終わった!ドイツは降伏したぞ!
そのまま進むなら攻撃する!」
マーフィーは、憎々しげに
「何か叫んでやがる」
とタバコを咥えながらも手を止めず、一緒に乗っているルイがそれを聞いて、
「終戦だと言ってるぞ!」
というと、
「あいつらの戦争はな。俺のはまだだ」
説得が通じないと悟った艦長は、艦内に総員配置を命じました。
さすがはUボート、その一声で全員が瞬時に戦闘モードに。
機銃の照準はこちらに向かってくるボロ船に合わせられました。
「フォイヤー!」
魚雷も発射準備完了。
もうすっかりUボート本気モードです。
はいこれはなんですか〜?魚雷発射のスコープですね。
引きつけるだけ引き付けて2番発射管(前方)から魚雷を放つのです。
「フォイヤー(2)」
面舵を切ってなんとか魚雷を回避することができました。
ってか、マーフィー、なんで操舵ができるんだろう。元船員?
魚雷が外れたので船との衝突を避けるため艦長は潜航を命じました。
本当にこの潜水艦は潜航を行います。
最初にも言いましたが、操艦はすべてベネズエラ海軍が協力しています。
魚雷回避のために思いっきり舵を切ったはずのマーフィーの船は、
瞬く間に90度転舵して、再び潜水艦に向かっていきました。
すげー、もしかしたらプロか?
そして、潜航していく潜水艦に船体をぶつけようと
必死で進むのですが、惜しいところで逃げられてしまいます。
もしぶつかっていたら自分もただでは済まなかったと思うけど。
ところが逃げたはずの潜水艦は、浅瀬に乗り上げてしまいました。
それを知ったマーフィー、これで勝つる!と大興奮。
何をするかというと、岸に打ち上げられたさっきの魚雷、
これを船のジブで吊って、奴らの上に落としてやるというわけです。
もはや狂気としかいいようがありません。
(ひくわー・・・・)
ルイは黙って船を降り、岸に向かって歩き出しました。
そして、マーフィーに向かって、一言、
”Let them die in peace.”(静かに死なせてやれよ)
そりゃそうです。
浅瀬に座礁し、おそらくそのまま死ぬであろう彼らの上に
危険を冒してまでなんで魚雷を落とさなくてはならないのか。
そもそもなんでそこまでやらねばならないのか。
親でも殺されたのか。
観客の全てが思っていることをルイが代弁しています。
もし逃げられたら2度と捕まらん!と叫ぶマーフィーに、
そうかもしれないがもう十分だ、と去っていくルイ。
一人じゃ無理だ、と半泣きで叫ぶマーフィーに、ルイは
吐き捨てるようにこう言い残すのでした。
”You're a small and lonely man, Murphy.
Like me.
The world will never build us a monument.
The difference is I know that.”
「アンタは小ちゃくて孤独な男だ、マーフィー。
俺みたいに。
俺たちのために記念碑は建たない。
アンタと俺の違いはそれを知ってるかどうかだ」
かつてここまで痛烈にその人格を否定された映画のヒーロー?
がいたでしょうか。
こちら、座礁したUボートでは必死の脱出努力が続けられています。
今や何もすることのない魚雷室の乗員は天井を眺めながら、
「鉄十字章は無理かな」
まーね。戦争もう終わってますし。
ルイに見捨てられ、砂浜にへたり込んだマーフィー、
普通ならそこであきらめそうなものですが、こいつは普通ではない。
なんと魚雷をジブで釣り上げ開始。
もしかしたらクレーン免許と玉掛け作業の免許も持ってるとか?
Uボートは発射管からの排気と後進でなんとか抜け出そうとします。
しかし・・・艦長の表情もさすがに悲痛に歪み、
乗員の中に諦めの沈黙が広がっていきました。
と、そのとき、彼らは聴いたのです。
あの男が帰ってきた音を。
マーフィーはさっきまで泡の立っていた場所に船を止め、川面を凝視します。
正確に狙いを定めるために。
そして舌舐めずりしながら泡の出たところに船を動かし、
・・・そのまま魚雷を一気に落としてしまいました。
魚雷は水中のUボートに命中し、爆発音が轟きます。
「やった!」
しかし同時にクレーンが倒壊して倒れ、マーフィーは見事その下敷きに。
爆発はUボートを一気に押しつぶさず、あちこちに穴を開けました。
艦長が脱出を叫びますが、艦体はその後爆発を起こしました。
そして船の方も沈没し始めます。
クレーンに挟まれたマーフィーはそのまま船と一緒に沈んでいきました。
クレーンで真下、しかも浅瀬に魚雷を落とした場合、
真上にいる船がどうなるかということくらい想像できなかったのでしょうか。
というわけで「マーフィーの戦争」はやっと終わったのです。
ベネズエラ海軍に感謝を捧げる字幕でこの後味悪い映画は終わります。
さて、それではお約束通り、最後に本家の「マーフィーの法則」から
この映画を表す言葉を抜粋してみましょう。
「クレーンは必ず倒れてほしくない方向に倒れる」
(『パンは必ずバターを塗った側を下に落ちる』から)
「何か失敗する方法があれば必ずそれをやってしまう」
そして、
"Anything that can go wrong will go wrong."
「うまくいかない可能性のあることは必ず失敗する」
終わり。
ヲタク集団が、実行者だとかそういったありきたりの名誉も何も欲していないところに惹かれます。歴史の闇に消えて行く。いいなぁ。マーフィーさん、お見事でした!