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オフィサーズ ワードルームの「序列」〜USS「エドソン」

2023-11-30 | 軍艦

ミシガン州ヒューロン湖のサギノー湾から流れ込む
サギノー川ぞいに退役後の姿を留める駆逐艦、
USS「エドソン」の内部を探訪するシリーズ。

ブリッジの階から一階下の艦長・副長室、通信機器室、
そしてトップシークレットである通信傍受室まで見てきました。

ここでさらにもう一階下のフロアに移動します。



ドアの上の「艦内アドレス」はI-59-I、

WR MESS RM WR LOUNGE
8 FWD BAT. DRESSING STA
(ワードルーム メスルーム、ワードルームラウンジ、
8フォワードバッテリー、ドレッシングステーション)

ワードルーム単体の意味は、軍艦における将校のための娯楽室・食堂、
またはコミッションオフィサーそのものを指します。
ここでは「ワードルーム」を「士官」という意味で使っています。

また、ドレッシング ステーションは、戦闘時に負傷者が出た場合、
応急手当てなどをする部屋のことで、その際はテーブルがベッドになります。

ここにあったワードルームそのものの説明によると、

ワードルームは士官が食事をしたり、会議を行ったりする場所でした。
このメスは各士官からの寄付によって賄われていたものです。

ワードルームパントリー勤務の士官付きの料理人は、
士官用の調理は厳密に下士官とは別に行うことになっていました。



士官用の調理を行ったWR手前のキッチン

そこは、フォーマルな食事、適切な服装、厳格な行動規範を備えた
一種の
「ジェントルマンズクラブ」に似た雰囲気を持っていました。

この傾向は、艦の規模が大きくなればなるほど顕著になります。

特に海軍では艦内にスペースのない潜水艦であっても、
厳密に士官と下士官兵の食事場所は分かれていましたし、
使われる食器も陶器製にこだわる、などという違いはありましたが、
どうしてもキッチンは同じにせざるを得ない場合もありました。


■ 「ラインオフィサー」と「スタッフオフィサー

特に海軍ならではというか、ワードルーム内における序列もあって、

キャビンの使用も暗黙の了解のもとに、

ライン-オフィサーは右舷側
スタッフ-オフィサー
は左舷側

と昔から決まっており、現在も変わっていません。

このライン-オフィサーとはなんぞや、って話ですが、
「ライン-オフィサー」または「オフィサー・オブ・ザ・ライン」とは、
アメリカ海軍またはアメリカ海兵隊の将校または准尉であり、
一般的な指揮権を持ち作戦指揮の地位に就く資格を持つ将校のことです。

オフィサー・オブ・ザ・ライン(Officer of the line)

という表現は、18世紀から19世紀にかけてのイギリス海軍で、当時は
シップ・オブ・ザ・ライン(Ships of the line)
と呼ばれていた大艦艇そのものの呼称に由来しているという説があります。

語源は、当時は艦砲が船に横付けされていたため、この効果をあげるために
帆を動力とする軍艦を「ライン」に組織したことから来ています。

つまり戦術または戦闘部隊の指揮を行う資格を持つ将校を意味しますが、
この用語は一般的に米陸軍では使用されません。

具体的には、

海軍航空士官および海軍飛行士官

水上戦士官
潜水艦戦士官
海軍特殊戦/海軍特殊作戦 (NSW/NSO) 士官
(SEALsから成る、 特殊戦戦闘機 (SWCC)士官
爆発物処理(EOD)士官(海軍潜水士官で構成される)


などを指し、さらにラインオフィサーの中でもこれらの士官を


「非制限(Unrestricted,URL)ラインオフィサー」

と称します。
それでは逆の


「制限付き(Limited Duty)ラインオフィサー」

は何かというと、

情報、暗号、海洋学/気象学、工学任務、
航空工学任務、航空機整備、広報

などの分野に所属する士官のことです。

「原子力潜水艦の父」ハイマン・リッコーヴァーが少将になったとき、
これに強く反発し反対したのは、「非制限ラインオフィサー」でした。

彼らの中では、あくまでも、
「アンレストリクテッド LO」>「リミテッドデューティLO」
だったということを表します。

そしてスタッフ-オフィサーは、非戦闘専門分野を任務とする将校であり、

弁護士、チャプレン(従軍牧師)、土木技師、
医療サービス専門家、兵站・財務管理専門家

などを指します。
言及されてませんが、軍楽隊の指揮官もこちらに含まれるでしょう。

スタッフオフィサーのことは「幕僚団士官」ということもあります。

しかし、海兵隊は海軍とは異なり、幕僚隊が存在しないため、
機関将校や補給将校、法律関係将校は「全てラインオフィサー」です。

ちなみに、海兵隊の医務隊、歯科医務隊、看護師隊、
チャプレン隊には士官はいません。
その役職が必要な場合は、海軍から派遣されます。

空軍はというと、医務、看護、歯科、医療サービス(医療管理)、
生物科学、法務官、チャプレン隊に配属されるのは「専門将校」と呼ばれ、
法務官はラインオフィサーともみなされ、空軍の一線(LAF)に属します。
(ちなみに空軍には准尉はいない)

そして、「ライン-オフィサー」の発祥の地であるイギリス海軍では、
その連邦加盟国ともども、この言葉もその地位も消滅し、存在しません。


■ ワードルーム Ward Room



・・・と散々説明してきたわけですが、

「エドソン」のように「右舷と左舷」にシートが分かれていない場合は、
(窓際のシートはすべて左舷側にある)
制限なしもありも、そもそも序列もあったもんじゃない気がしますね。



このシートの中でもどこが「上席」とか、暗黙の了解があったとかかな?



まあそんなことはどうでもよろしい。

ワードルームメスの奥に目立っているこのボロボロの星条旗ですが、
わたしの想像通り、やはり特別なイベントを経験していました。

1941年12月7日、真珠湾攻撃があったとき、
駆逐艦USS「セルフリッジ」DD-357に翻っていたものだそうです。



U.S.S セルフリッジ

1942年1月15日
司令官より
米艦隊司令へ

題;1941年12月7日 真珠湾における行動についての報告

当艦は、1941年12月7日の空襲中、
真珠湾とそこに拠点を置く船舶の防衛に参加す。
空襲発生当時係留せし岸壁X-0、ほぼ北東に艦首をむけていた。

艦外右舷側に「ケース」「リード」「タッカー」
「カミングス」「ホイットニー」。

作戦開始時、すべての機銃に対し、
0.50 口径と 1.1 口径の弾薬が箱で用意されていた。
銃は有人で装填するのみの状態ですぐに使用できる状態にあった。

乗艦していたのは9人の士官と乗組員の99%。

朝のモーニングカラーズ(旗掲揚)の約 4 分前に、
甲板士官が日本軍の飛行機から発射された魚雷が
USS「ラレイ」(Raleigh)LPD-1 に命中したのを目撃。

ほぼ同時にシグナルブリッジから海軍航空ステーションが火事と連絡あり。
甲板士官はジェネラルクォーターズのアラームを鳴らし、
状況を確認したうえで、出港のため機関室にボイラーの点火を命ず。

0758頃、セルフリッジの50口径機関銃、日本軍機に向けて発砲し、
すぐに1.1口径機関銃が続いた。
これらはこの地域における攻撃後の最初の発砲とされる。

砲撃を受けた敵機2機が墜落。
1機は「カーチス」に向かってダイビング中1.1銃が命中したものである。
翼がもぎ取られた飛行機はベコニングポイントの海岸近くに墜落した。

「セルフリッジ」の西に向かって低空飛行していた別の飛行機が、
ノース海峡のUSS「ラレイ」に爆弾を投下した。

3機目の飛行機は、1.1インチの砲撃の中を飛んでいたが、
丘の中腹にある生け垣の陰に消えるのが目撃された 。

4機目は、左舷の50口径機関銃で胴体下部を撃たれ、煙を上げ始め、
最後に目撃されたときはセルフリッジの北のサトウキビ畑に向かったが、
その後この飛行機が墜落したことが確認されている。

戦闘中m850発の1.1インチ口径弾と2,340発の.50口径弾が消費された。
人的被害はなかった。

唯一の物的被害は、右舷側にある小さな円錐形のへこみであり、
これは小銃の銃弾によって付いたと考えられる。

艦の装備性能は、乗組員の能力と同様優れていた。
襲撃中、弾薬供給の中断によって発砲が滞ることは一度もなかった。
銃撃に加わらない乗組員も、最も効率的かつ迅速な方法で弾薬を補給した。

戦闘部隊としての乗組員の行動、協力、冷静さ、士気は素晴らしく、
誰か特定の士官や兵士の行動が傑出していたというものではない。

行動調書




本棚にあるのはほとんどが艦艇年鑑などの関係書ですが、
左上にジャック・ロンドンの「アドベンチャー」が見えます。



長いテーブルを挟んで両側に椅子が並びます。
ワードルーム士官たちはここで食事を取ったのでしょう。
それにしても、このテーブルの並びも艦体に対して横向きですので、
「左舷側」「右舷側」の階級分けはできません。

「エドソン」のラインとスタッフオフィサーはどう住み分けていたのか。



トイレが広すぎい!
これ、個室ですよね。



■ ステートルーム State Room

ここは区画名でいうと「ステートルーム」とされています。
士官の寝室ということですが、艦長、副長ときてNo.3となると、
自衛隊でいうところの「船務長」「砲雷長」でしょうか。


■ 支払い事務所(Disbursing Office)

ここは海軍艦艇の会計事務所です。
このオフィスは乗組員の給料日を管理する任務も負っています。
少なくとも過去にはそうでした。

「エドソン」の給料支払いは、通常 2 つの場所のいずれかで行われました。
食堂デッキで行われることもあれば、
この支払事務所の窓の外で行われることもありました。

ただし、変わらないことが 1 つありました。

給料日にはいつも衛生兵「コーアマン」Corpsmanがいたことです。
なぜ衛生兵か。


USS 「エドソン」は比較的小型の船であったため、
乗組員が一つのところに集合することはめったにありません。

衛生兵の任務の一つは、乗組員に必要な予防接種を受けさせることですが、
この要件を全員に遵守させるのは非常に困難なことでした。

しかし、給料日になるといずれにしても誰もが同じ場所に集まり、
必ず全員がお金のある場所に集中することになります。

そこで衛生兵たちは、彼らのブースを支払い事務所の前に設置して

予防接種を受けないと給料がもらえないシステムにしていました。

現在、軍の全てで乗組員は乗艦中に自分のお金にアクセスするため、
直接預金システムに参加することが義務付けられていますし、
アメリカ海軍は船舶にATMを装備しているのが標準となりました。

(すげー)

給料受け取りたかったら注射を受けろ、という技が使えなくなったのです。

しかし、コロナ以降、予防注射に対する考え方も随分変わって、
むしろワクチンを打たなければ勤務に参加できない、
などの縛りができているはずなので、そちらは無問題となっています。



■ 人事部(Personnel Office)

NAV/X 部門に配属された職員 をパーソネルマン(PN) といいます。
パーソネルマンもまた、(艦のヨーマンとともに)
個人の人事経歴記録の管理について責任を負っていました。

ここでは、22人の士官と315人の下士官兵に関する記録について、
大手企業や会社で保管されているものと同様の業務を行っていました。



タイプライターはアタッシェケース付きのモバイル式。
電化製品の仕様に時代が感じられますね。


続く。





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2 Comments

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Line OfficerとStaff Officer (Unknown)
2023-11-30 14:49:06
「Wardroom Pantry」は「士官食器室」だと思いますが、調理室で作った食事を士官用の食器に盛り付けするだけで、ここで調理している訳ではありません。調理が出来る程、広くはなかったはずです。

「Line officer」と「Staff officer」は、職種というより「乗組士官」(個艦乗員)と「司令部勤務者」(駆逐隊等の乗艦司令部勤務者)ではないかと思います。司令部が乗艦する船は、士官室とは別に司令部公室という、士官室と丸々同じ作りの区画があり、司令部勤務者はそちらで執務し、喫食します。この船は駆逐艦なので、司令部がフルフル乗艦出来る(司令部公室を作れる)スペースはなかったんじゃないかと思います。

米軍の司令部は、小さくても「Destroyer Squadron」(駆逐隊)で、隊司令(大佐)の下に士官と下士官で合計20人くらいになります。

自衛隊だと、数隻で編成される「護衛隊」と8隻の「護衛隊群」があり「護衛隊」だと、隊司令の下に幹部、海曹が数人です。幹部は、乗艦している護衛艦の士官室に雑居しますが、着席順は個艦の幹部に混ざって先任順になり、左舷になるような決まりはありません。そもそも、士官室や司令部公室のテーブルはすべて船の左右方向に設置されているので、左舷側には座れないようになっています。

艦長がお誕生日席で、副長(次席)が艦長から見て左側(テーブルの艦首側)その次の序列の人がテーブルの艦尾側で、それ以降、序列に応じて、テーブルの艦首側、艦尾側に着席します。異動がない限り、着席順は一定になります。

「護衛隊群」司令部は、米軍の駆逐隊に近い大所帯なので、司令部公室がある「DDH」ないしは「DDG」に乗艦します。視察等特殊な事情があって「DD」に群司令が乗艦する際には、司令部勤務者(幕僚)は副官と訓練幕僚等、最低限しか移動しません。司令部公室がなく、個艦の士官室に雑居しないといけないので、たくさん移動して来ると居場所がないからです。
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士官公室 (お節介船屋)
2023-11-30 10:05:20
全士官数が定員となるため、司令部が居ればそれも足した人数分となりますが広さも狭く、椅子の数が少ないように見えます。
また通常は内張がありますが壁部分は装備されていますが天井部分に内張がありません。
治療室用の無影灯も簡単なもののように見えます。
写真や楯が飾ってありますが士官公室には通常装備される金庫、機密図書箱、拳銃格納箱、弾薬庫鍵箱、傾斜計、自記気圧計、テレトーク等の装備品が見えません。
現役時代とは違う艤装となっているようです。

参照海人社岡田幸和著「艦艇工学入門」
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