主演役者に不安を感じたものの、むちゃくちゃ面白そうだった『悪の教典』を観てきました。
原作は未読です。
★★★★★
わたくし、心理描写モノ好きなのでこういうの大好きです。
どんな原作でも難なく一定水準以上の映画に仕上げてしまうことで、大人向けからファミリー向けまで最近特に原作もので引っ張りだこの三池崇史監督。
これは近年の最高傑作になったんじゃないだろうか。
目につくのが、心理描写と映画的には展開の上手さ。
主人公目線と同時進行する群像劇の部分のカット割り、順序。全く無駄がなく進行がとてもスピーディーで、そんな中にもちょいちょい伏線を張りながら、先が見えたとしても演出でドキドキさせてくれるのは怠らない。
上映時間内にギッシリ詰め込まれたエピソードの数々、2時間ちょいもある事を感じさせない、見せ場の大虐殺シーンにあれだけ時間を割いてよくこれだけ描いたと大充実感を与えてくれた。
ネタバレ
十代の頃から殺人を繰り返してきたシリアルキラーが主人公。
冒頭のシーンでは学生時代に彼の行動に気づいた両親が手にかけられ、そんな彼が何故か高校の教師をしている場面に飛ぶ。
どんな生活をしてきたのか、彼はいつ殺人をここで開始するのか…。
最初に学生の姿で登場した彼と現在の学生たちとをだぶらせ、予告編からもう犯人は主人公だと確信持たせているにも関わらず、もしかしたら学生の誰かが冒頭の子なんじゃないかという匂いを漂わせる描き方がうまい。
そのくらいに教師ハスミンにはシリアルキラーの側面が見えないよう描く序盤に、わかっていても混乱させられる。
予告編も原作本も何も知らずに観た方はもっと楽しめる映画に違いない。
本性はもう予告編で知ってるはずなのに、不気味に爽やかさを湛える主演教師。
異様なのはがそこだけでは無いのがミソで、共同体である高校では他にも数々の異常事態が潜んでいる様子が描かれる。
モンペによる学校への圧力、集団カンニング、教師による性的虐待、教師と生徒間の同性愛等、一見平和な中に様々な問題が隠れて確実に存在していた。
そんな学校の中で上手く立ち回り、生徒たちからも同僚たちからも信頼される主人公。
しかし、そんな信頼感とは裏腹に、彼が欲したのは過ごしやすい生活で、その為の手段として教師の職に没頭していただけ。
どうしても我慢ならないのは自分の穏やかな生活が脅かされる事と、脅かされた時に沸き起こる抑えきれない殺人の衝動。
人気教師の表の顔がはがれた後に露呈したのは、命乞いする教え子たちを虫けらのように躊躇なく殺害するシリアルキラーの本性であり。
殺害する事に興奮を感じていた訳ではなく、邪魔者を人生から消去して来た男の顔。
元々備えた天才的頭脳と社交性、高校教師という立場を悪意に生かし、綿密でゲーム性を帯びた罠に相手を陥れられるよう常に周囲を監視していた彼は、米国でパートナーだったサイコキラーに影響されたのか、終には殺人に快楽を得て教え子たちを次々に殺して周る。
この時の表情から、教師として社会に溶け込んでいた姿がやっぱり彼にとってはゲームの一部であって、子供たちに対しては1ミリの興味も無かったという事が見て取れる。
全く期待していなかった伊藤英明を、ここまでやれる役者としてスクリーンで見せた三池崇史監督は偉大過ぎる。
伊藤英明は本来どうでも良く、他の役者の贅沢な使い方にも注目。
『ヒミズ』のコンビ、染谷将太と二階堂ふみの抜擢が気になってたのだけれど、二人ともやっぱ上手い、改めてカンヌの実力は外人目線だけでは無かった。
自由演技の許される三池崇史映画でもこんなにのびのびと魅せてくれるとは、邦画の未来はまだまだ大丈夫。
染谷将太は一癖有る役に集中しているのが逆に将来的に振り幅狭くしてしまいそうなので、そろそろ違うのもやってみた方が良いかもなんて思ってしまうところではある。
そんな彼らがやっぱ最後まで残るのかと思うキャスティングで、染谷将太の方だけが心外にも先に手をかけられてしまう。
この事で『ヒミズ』効果が発動、二階堂ふみが芝居の中以上に『ヒミズ』での二人を彷彿とさせて悲しみを感じさせる一度限りの早い者勝ちキャスティングの成功。
先に死んでしまうと言えば、予告編から死亡フラグが立っていた吹越満の演じた劣等感と嫌悪感にまみれながら本当は生徒思いだった教師も、本人のキャラクターメイクから、短いカットで入る背景の描き方も秀逸で、殆ど登場しないのに存在感が強くて印象的。
結構重要なファクターなのでこの存在感は必要。
そうそう、殆ど登場しないと言えば山田孝之も、『クローズZERO』以来三池崇史繋がりなのか、他の映画じゃ絶対に無いような人気役者がしなさそうな役柄を友情出演的なキャスティングでさらに殆ど登場しないのに存在感を煽って上手い。
有り得ないと言えば、教師との同性愛で生徒を演じた林遣都が『パレード』に続いてまたゲイの役。
デビュー当時の美男子から大分崩れてさらに頬がコケ、チワワみたいな顔になってしまった感は有るけど、ここまで演じちゃう?ってところまでやるし、大虐殺シーンでの真に迫った表情が痩せてる効果で余計に可哀そうに感じさせる。
本当に可哀そうにと言えば…、ってしつこいかw
では最後、大虐殺のシーンは生徒たちが本当にボロ雑巾のように、虫けらがあしらわれているかのように軽く撃ち殺されてすっ飛ばされていく。
ここがね、これまで観た映画だと撃たれた時の表情とか死ぬ芝居なんかを特に哀れんでクローズアップして撮った映画が多かったと思うんだけど、もう涙流して命乞いするところなんてお構いなし、銃弾が当たった後はすっ飛んで行って関係無しっていう超非情な描き方。
どこぞの映画は殺されるまでに散々語って、「ちゃっちゃと死ねや」なんて思った記憶も有りますが、この映画に余分な間は皆無。
シリアルキラーにとってはああいう目線で物事が進んでいくんだろうな…なんてそこはかとない恐ろしさを感じました。
エンドロールで、本当は続かなさそうな「To Be Continued」が出てくるのもハスミンがシミュレートしている次のゲームを想像させて面白い。
原作は未読です。
★★★★★
わたくし、心理描写モノ好きなのでこういうの大好きです。
どんな原作でも難なく一定水準以上の映画に仕上げてしまうことで、大人向けからファミリー向けまで最近特に原作もので引っ張りだこの三池崇史監督。
これは近年の最高傑作になったんじゃないだろうか。
目につくのが、心理描写と映画的には展開の上手さ。
主人公目線と同時進行する群像劇の部分のカット割り、順序。全く無駄がなく進行がとてもスピーディーで、そんな中にもちょいちょい伏線を張りながら、先が見えたとしても演出でドキドキさせてくれるのは怠らない。
上映時間内にギッシリ詰め込まれたエピソードの数々、2時間ちょいもある事を感じさせない、見せ場の大虐殺シーンにあれだけ時間を割いてよくこれだけ描いたと大充実感を与えてくれた。
ネタバレ
十代の頃から殺人を繰り返してきたシリアルキラーが主人公。
冒頭のシーンでは学生時代に彼の行動に気づいた両親が手にかけられ、そんな彼が何故か高校の教師をしている場面に飛ぶ。
どんな生活をしてきたのか、彼はいつ殺人をここで開始するのか…。
最初に学生の姿で登場した彼と現在の学生たちとをだぶらせ、予告編からもう犯人は主人公だと確信持たせているにも関わらず、もしかしたら学生の誰かが冒頭の子なんじゃないかという匂いを漂わせる描き方がうまい。
そのくらいに教師ハスミンにはシリアルキラーの側面が見えないよう描く序盤に、わかっていても混乱させられる。
予告編も原作本も何も知らずに観た方はもっと楽しめる映画に違いない。
本性はもう予告編で知ってるはずなのに、不気味に爽やかさを湛える主演教師。
異様なのはがそこだけでは無いのがミソで、共同体である高校では他にも数々の異常事態が潜んでいる様子が描かれる。
モンペによる学校への圧力、集団カンニング、教師による性的虐待、教師と生徒間の同性愛等、一見平和な中に様々な問題が隠れて確実に存在していた。
そんな学校の中で上手く立ち回り、生徒たちからも同僚たちからも信頼される主人公。
しかし、そんな信頼感とは裏腹に、彼が欲したのは過ごしやすい生活で、その為の手段として教師の職に没頭していただけ。
どうしても我慢ならないのは自分の穏やかな生活が脅かされる事と、脅かされた時に沸き起こる抑えきれない殺人の衝動。
人気教師の表の顔がはがれた後に露呈したのは、命乞いする教え子たちを虫けらのように躊躇なく殺害するシリアルキラーの本性であり。
殺害する事に興奮を感じていた訳ではなく、邪魔者を人生から消去して来た男の顔。
元々備えた天才的頭脳と社交性、高校教師という立場を悪意に生かし、綿密でゲーム性を帯びた罠に相手を陥れられるよう常に周囲を監視していた彼は、米国でパートナーだったサイコキラーに影響されたのか、終には殺人に快楽を得て教え子たちを次々に殺して周る。
この時の表情から、教師として社会に溶け込んでいた姿がやっぱり彼にとってはゲームの一部であって、子供たちに対しては1ミリの興味も無かったという事が見て取れる。
全く期待していなかった伊藤英明を、ここまでやれる役者としてスクリーンで見せた三池崇史監督は偉大過ぎる。
伊藤英明は本来どうでも良く、他の役者の贅沢な使い方にも注目。
『ヒミズ』のコンビ、染谷将太と二階堂ふみの抜擢が気になってたのだけれど、二人ともやっぱ上手い、改めてカンヌの実力は外人目線だけでは無かった。
自由演技の許される三池崇史映画でもこんなにのびのびと魅せてくれるとは、邦画の未来はまだまだ大丈夫。
染谷将太は一癖有る役に集中しているのが逆に将来的に振り幅狭くしてしまいそうなので、そろそろ違うのもやってみた方が良いかもなんて思ってしまうところではある。
そんな彼らがやっぱ最後まで残るのかと思うキャスティングで、染谷将太の方だけが心外にも先に手をかけられてしまう。
この事で『ヒミズ』効果が発動、二階堂ふみが芝居の中以上に『ヒミズ』での二人を彷彿とさせて悲しみを感じさせる一度限りの早い者勝ちキャスティングの成功。
先に死んでしまうと言えば、予告編から死亡フラグが立っていた吹越満の演じた劣等感と嫌悪感にまみれながら本当は生徒思いだった教師も、本人のキャラクターメイクから、短いカットで入る背景の描き方も秀逸で、殆ど登場しないのに存在感が強くて印象的。
結構重要なファクターなのでこの存在感は必要。
そうそう、殆ど登場しないと言えば山田孝之も、『クローズZERO』以来三池崇史繋がりなのか、他の映画じゃ絶対に無いような人気役者がしなさそうな役柄を友情出演的なキャスティングでさらに殆ど登場しないのに存在感を煽って上手い。
有り得ないと言えば、教師との同性愛で生徒を演じた林遣都が『パレード』に続いてまたゲイの役。
デビュー当時の美男子から大分崩れてさらに頬がコケ、チワワみたいな顔になってしまった感は有るけど、ここまで演じちゃう?ってところまでやるし、大虐殺シーンでの真に迫った表情が痩せてる効果で余計に可哀そうに感じさせる。
本当に可哀そうにと言えば…、ってしつこいかw
では最後、大虐殺のシーンは生徒たちが本当にボロ雑巾のように、虫けらがあしらわれているかのように軽く撃ち殺されてすっ飛ばされていく。
ここがね、これまで観た映画だと撃たれた時の表情とか死ぬ芝居なんかを特に哀れんでクローズアップして撮った映画が多かったと思うんだけど、もう涙流して命乞いするところなんてお構いなし、銃弾が当たった後はすっ飛んで行って関係無しっていう超非情な描き方。
どこぞの映画は殺されるまでに散々語って、「ちゃっちゃと死ねや」なんて思った記憶も有りますが、この映画に余分な間は皆無。
シリアルキラーにとってはああいう目線で物事が進んでいくんだろうな…なんてそこはかとない恐ろしさを感じました。
エンドロールで、本当は続かなさそうな「To Be Continued」が出てくるのもハスミンがシミュレートしている次のゲームを想像させて面白い。
悪の教典 上 (文春文庫) | |
クリエーター情報なし | |
文藝春秋 |
悪の教典 下 (文春文庫) | |
クリエーター情報なし | |
文藝春秋 |
伏線が至る所に貼ってあって「?」なところはないですね。
ただ釣井先生が警察にハスミンの前いた学校を教えるのだが警察は何の疑問も感じなかったし。
つか釣井先生、刑事になればよかったんじゃね?みたいな。
準主役でもある生徒たちも良かったですね。