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『座頭市』<三池崇史版>@梅田芸術劇場

2007-12-29 | ステージれびゅー
2007年の観劇キャンペーン、最後を飾るのは三池崇史版の『座頭市』です。

哀川翔主演なんて言うもので、どうせ鼻にかかった高い声が気になって楽しめないだろうと敬遠気味だったのですが、11月に劇場窓口で空席状況を確認したら、13列目が空いているとの事でついつい衝動買いw
いやー、良かった、買っておいて。

映画監督の演出した舞台は、塚本晋也演出の『哀しい予感』以来2度目だけど、やっぱり見せ方が違う。
カメラアングルを相当意識したセットの形、並び、俳優の動かし方で、生で映画を観ているような感覚になりました。

舞台の短い奥行きをまるでどこまでも続く荒野のように歩かせてみせたり、同じ場所でも毎回セットの位置を変えて違う角度から描いたり。
本筋と関係のないところで人の息づく様子を垣間見せるアングルがあったりと、もうこれはライブだけれど映画の世界です。

今年13本舞台を観て来た中で思ったんだけど、俺ってやっぱり基本的に映画好きで、舞台は舞台で映画的な演出なものが好みなのかも。
犬顔家の一族の陰謀』なんかは、あからさまに数々の映画のパロディーも有って面白かったっけ。

「今回、あえて映画じゃなくて舞台にしたのには理由が有るので、観て感じてください」
なんて、種明かし無しで宣伝されていたので、いろいろと考えながら観ていたんですが、やっぱあれでしょうか?“時代の流れ”。
『座頭市』っていろんな時代で映画化されてきてますが、後になるほど自由に描けない大人の事情が増えていく。
差別的な表現は、それ自体がテーマな映画でも無い限り使えなくなってしまったし、汚い言葉はそれ自体が悪とされて、物語の影の部分をえぐり出す為にも使えない。
使えない言葉のせいで台詞のテンポや語呂の楽しみが損なわれてしまいかねない。

関係無いけど、昔テレビで放送されていた『妖怪人間ベム』なんかは、再放送されるたびに台詞のカットが増えていた。
今、放送しようとしたら無音部分が多すぎて放送に耐えないだろうな。
いや、ほんとに関係ない話でしたけど。

そんなこんなで、どんどん華やかに、CG使えば何でも表現できちゃうようになった映画の時代の流れに反して、舞台じゃなければ出来ないことが増え過ぎたので、今回は舞台を選んだのじゃないかな?

そこで気になるのは、来年2月のWOWOWでの放送。
WOWOWって、“製作者の意図を尊重して”ほぼ無修正で放送しちゃうステキな局なので、せっかく舞台にしたのにも関わらず、結局映像作品化されてしまうのでは?
今年劇場で観た内の2作品、『哀しい予感』と、『コンフィダント・絆』は、観客を入れていない劇場を使った完成度の高い映像作品として撮影され、放送されていました。
恐らくこの舞台も同様に…となると、俺の想像は間違ってるのかもしれませんね。
ごめんなさい浅くて(汗)

等と、前置きがまたまた相当長くなってしまいました。
この先ネタバレ交えて書きます。

まず、ちょっと敬遠気味だった主演の哀川翔。
役作りなのか、単に体調を壊しただけなのか、ゲッソリと痩せて登場。
今までに感じたことのない気迫と、かっこ良さで、登場した瞬間にこれはアリ!と新しいダークヒーロー座頭市に前のめりで殺陣シーンに見入った。

ただ、気のせいであって欲しいんだけど、舞台上で遠藤憲一に嫌がらせをしていたような…。
シリアスな場面で遠藤の台詞の間違いを指摘するかのように言葉を被せて言ったり(遠藤「…鳥」、哀川「渡り鳥」)、遠藤憲一最大の見せ場で咳き込んだり。
意図した演出なのかどうか、一度の公演だけしか観ていないので分かりませんよ。
でも、意図した演出だとしたら理解出来ないタイミングなんです。
主演なのに一番台詞が聞き取り辛かったのも事実で、酔ってるように呂律が回っていないところも多々。
序盤と終盤だけは気合入っていて良い感じだったんですけど、中盤の長台詞はせっかく言えてるのに聞き取れない。
同じ事を初めてやるように全力で何度も演じる舞台には、ちょっと向いてない人なのかな。

同じ事をやるクオリティーと言えば舞台にはハプニングが付きもので、丁半賭博の下に敷く布が空気で膨らんで不恰好なまま芝居を続けたり、それを片付けようとした人が転んだり。
はたまた市が真っ二つに切るはずの障子が、切る前から半分に割れて落ちてしまったり。
ひょっとしたら、ひょっとしたらですよ、こういう生のハプニングもひっくるめて全て演出で、映画を生でやろうとするとこんな風に完璧なものにはならないと言いたかったのかな?
…有り得ないw
1日2回公演の二度目だったから、全員の気が緩んでただけよな、きっとw

さてさて、黒い話はこの辺にして、それらを除けば素晴らしく引き込まれる舞台でした。

阿部サダヲは、阿部サダヲキャラクター全開で、同監督の『妖怪大戦争』で演じた河童のようにやりたい放題、アドリブ言いたい放題の“八”を熱演。
というか“耳の聞こえない阿部サダヲ”を熱演w
完全に主役を食っちゃってます。
キャバレー』でも彼が出てくると全部持っていくキライがあったけど、今回は前半全部持っていってます。
後半は主役を立てる為に若干出番も減って、若干控え目。
それがちょっと物足りなく感じてしまうくらいにハマルキャラクターなんですけどね。

他の俳優さん達もベテラン揃いで安心して観れたのですが、若手も面白い。
RIKIYAのオイシイ女形役は今後観られない貴重な役かも。
黒蝮の涼役の青山草太はそろそろブレイクしてもおかしくない若手なんだけど、完全にイロモノ役で、顔も塗ってて誰だかわからない状況。
もったいないやらそれはそれでオイシイやらw

やりたい放題とか、イロモノ役とかシリアスな舞台に似つかわしくないと思われるかも知れませんが、三池崇史監督、今回は彼の数ある引き出しからコメディーの引き出しをひっくり返して、笑いの絶えない舞台に仕上げてくれました。

かと言ってこの舞台自体がコメディーなのかと言えばそうではなく、締めるところはしっかり押させていて、人間ドラマが面白い。
映画的な見せ方で迫ってくるチャンバラの臨場感の凄さは鳥肌もの。
音と光の演出も見事で、背中から汗が噴出しそうになるくらいに観ていて熱くなった。

墓掘り人役の長門裕之が凄い。
まるで妖怪のようにヒョコヒョコと歩く姿は、微笑ましいけれど人生を通して背負う不幸は笑顔からにじみ出てきている。
カーテンコールの会場総立ちのスタンディングオベーションの中、満面の笑みで両手を振る姿には、他の俳優の誰よりも本物のオーラを感じた。

2007年の観劇キャンペーンはこれでおしまい。
2008年は…新年早々『テイクフライト』と、『ビューティ・クイーン・オブ・リナーン』を観てきます。
来年も同じペースで行くことになりそうな予感w

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