長岡京エイリアン

日記に…なるかしらん

9割がた「龍」なんだけど……最後の最後で蛇尾ったワン ~映画『八犬伝』~

2024年11月11日 09時24分56秒 | ふつうじゃない映画
 はいはいど~もみなさま、おはようございます! そうだいでございまする。いや~、いよいよ秋めいてまいりましたねぇ。

 さてさて、今年の秋、だいたい映画『箱男』くらいから始まりました、極私的な「秋のおもしろ新作ラッシュ」も、ついにおしまいを迎えることとあいなりました。『黒蜥蜴2024』でしょ、『カミノフデ』でしょ、『傲慢と善良』でしょ、『ジョーカー フォリ・ア・ドゥ』でしょ……うん、こうやって振り返ってみると、ぜんぶがぜんぶ大当たり!というわけでもなかったのですが……まぁ、新作なんてそんなもんですわな。

 そいでま、今回取り上げるのは、それら秋の強化月間の掉尾を飾る、この一作でございます。


映画『八犬伝』(2024年10月25日公開 149分 キノフィルムズ)
 『八犬伝』は、山田風太郎(1922~2001年)の長編小説『八犬傳』(1982~83年連載、現在は角川文庫より上下巻で発刊)を原作とする映画作品である。
 江戸時代の読本(よみほん)作者・曲亭馬琴(1767~1848年)の長編伝奇小説『南総里見八犬伝』(1814~42年)をモチーフに、28年もの歳月を費やし失明してもなお口述筆記で書き続け全106冊という大作を完成させた馬琴の後半生や浮世絵師・葛飾北斎(1760~1849年)と馬琴の交流を描く「実の世界」と、『南総里見八犬伝』作中での、安房国大名・里見家にかけられた呪いを解くために八つの珠に引き寄せられた八人の剣士たちの運命を描く「虚の世界」との2つの世界が交錯する物語となっている。
 本作の撮影は、香川県琴平町の旧金毘羅大芝居(金丸座)、兵庫県姫路市の姫路城・亀山本徳寺・圓教寺、滋賀県長浜市の大通寺、山梨県鳴沢村などで行われた。

あらすじ
 時は江戸時代後期、文化十(1813)年。
 人気読本作家の曲亭馬琴は、親友の浮世絵師・葛飾北斎に新作読本の構想を語り始める。それは、由緒正しい大名・里見家にかけられた恐ろしい呪いを解くために、里見の姫が祈りを込めた八つの珠を持つ八人の剣士たちが運命に引き寄せられて集結し、壮絶な合戦に挑むという、壮大にして奇怪な物語だった。
 北斎はたちまちその物語に夢中になるが、馬琴から頼まれた挿絵の仕事は頑なに断る。しかし頻繁に馬琴を訪ねては物語の続きを聞き、馬琴の創作の刺激となる下絵は描き続けるのだった。やがてその物語『南総里見八犬伝』は、馬琴の生涯を賭けた仕事として異例の長期連載へと突入していくが、物語も佳境に差し掛かった時、老いた馬琴の目は見えなくなってしまう。苦悩する馬琴だったが、義理の娘のお路から「手伝わせてほしい」と申し出を受ける。
 馬琴は、いかにして失明という困難を乗り越え、28年もの歳月を懸けて物語を書き上げることができたのか? そこには、苦悩と葛藤の末にたどり着いた、強い想いが込められていたのだった。

おもなキャスティング
曲亭 馬琴 …… 役所 広司(68歳)
葛飾 北斎 …… 内野 聖陽(56歳)
滝沢 お路 …… 黒木 華(34歳)
滝沢 鎮五郎 / 宗伯 …… 磯村 勇斗(32歳)
滝沢 お百 …… 寺島 しのぶ(51歳)
渡辺 崋山 …… 大貫 勇輔(36歳)
葛飾 応為 …… 永瀬 未留(24歳)
四世 鶴屋 南北  …… 立川 談春(58歳)
七世 市川 団十郎 …… 二世 中村 獅童(52歳)
三世 尾上 菊五郎 …… 二世 尾上 右近(32歳)
丁字屋 平兵衛   …… 信太 昌之(60歳)
歌舞伎小屋の木戸番 …… 足立 理(36歳)

里見 伏姫   …… 土屋 太鳳(29歳)
犬塚 信乃   …… 渡邊 圭祐(30歳)
犬川 壮助   …… 鈴木 仁(25歳)
犬坂 毛野   …… 板垣 李光人(22歳)
犬飼 現八   …… 水上 恒司(25歳)
犬村 大角   …… 松岡 広大(27歳)
犬田 小文吾  …… 佳久 創(34歳)
犬江 親兵衛  …… 藤岡 真威人(20歳)
犬山 道節   …… 上杉 柊平(32歳)
大塚 浜路   …… 河合 優実(23歳)
玉梓の方    …… 栗山 千明(40歳)
金碗 大輔 / 丶大法師 …… 丸山 智己(49歳)
金椀 八郎   …… 大河内 浩(68歳)
里見 義実   …… 小木 茂光(62歳)
扇ヶ谷 定正  …… 塩野 瑛久(29歳)
船虫      …… 真飛 聖(48歳)
網乾 左母二郎 …… 忍成 修吾(43歳)
赤岩 一角   …… 神尾 佑(54歳)
大塚 蟇六   …… 坂田 聡(52歳)
犬田屋 文吾兵衛 …… 犬山 ヴィーノ(56歳)
姨雪 世四郎  …… 下條 アトム(77歳)
姨雪 音音   …… 南風 佳子(60歳)
足利 成氏   …… 庄野﨑 謙(36歳)
横堀 在村   …… 村上 航(53歳)
河鯉 守如   …… 安藤 彰則(55歳)


おもなスタッフ
監督・脚本 …… 曽利 文彦(60歳)
製作総指揮 …… 木下 直哉(58歳)
撮影    …… 佐光 朗(66歳)
音楽    …… 北里 玲二(?歳)
配給    …… キノフィルムズ


 いやぁ、八犬伝ですよ。ここにきて、日本文学史上に燦然と輝く大名作『南総里見八犬伝』を原作とした作品のご登場でございます!

 私はねぇ……『南総里見八犬伝』には、ちとうるさ……いというほどでもないのですが、色々と思い入れはあるんですよね。
 まず、大学時代に専攻ではないのですが『南総里見八犬伝』研究の大家である先生の講義や実習を受けたことがありまして、まぁ真面目に受講していなかったので身につくものはほとんど無いダメ学生だったのですが、最低限、曲亭馬琴のことを「滝沢馬琴」と呼んでは絶対にいけないというルールくらいは覚えました。
 その後、千葉暮らしの劇団員だった時に劇団の公演で『南総里見八犬伝』を元にした舞台の末席に加えさせていただきました。なんてったって千葉県ですから、そりゃ『南総里見八犬伝』はやりませんとね。里見家とは直接の関連は無いのですが、千葉市は亥鼻公園にある天守閣を模した外観の千葉市立郷土博物館を前に、物語の登場人物を演じることができたのは、分不相応ながらも良い思い出であります。その頃、下北沢の古書ビビビで購入した岩波文庫版の『南総里見八犬伝』全10巻を読破したのはうれしかったなぁ~。江戸文学、がんばれば読めんじゃん!と。
 そして、最近ともいえないのですが、6、7年前に仕事の関係で『南総里見八犬伝』にまた関わることがありまして、その時は原書に加えて、学研から出ている児童向けコミカライズや、講談社青い鳥文庫、角川つばさ文庫のジュブナイル版などを参考にしました。あと、2006年の TBSスペシャルドラマ『里見八犬伝』(主演・滝沢秀明)や1983年の映画『里見八犬伝』(主演・薬師丸ひろ子)も当然、観ました。映画の『里見八犬伝』はクソの役にも立ちませんでした。
 惜しむらくは、NHKで放送されていた伝説の連続人形劇『新八犬伝』(1973~75年放送 人形制作・辻村ジュサブロー)を観れていないことなんですよねー。人形はジュサブローさんの美術展で観たことあるんだけどなぁ。

 まぁ、そんなこんなで要は、わたくしは『南総里見八犬伝』が大好きだということなのであります。好きなキャラは籠山逸東太(こみやま いっとうだ)です!

 そんな私が、今回の映画『八犬伝』の公開を心待ちにしていたことは火を見るよりも明らかであったわけなのですが、ここで注意しておかなければならないのは、本作が曲亭馬琴の『南総里見八犬伝』の直接の映画化作品では決してない、ということです。ややこしや!

 そうなんです、上の Wikipedia記事にもある通り、この映画はあの「忍法帖シリーズ」で戦後昭和のエンタメ界を席巻した人気小説家・山田風太郎の長編小説『八犬傳』を原作としているのです! そして、山田風太郎にはこの『八犬傳』の他にもう一つ、曲亭馬琴の『南総里見八犬伝』に想を得た『忍法八犬伝』(1964年連載)という奇想天外忍術時代小説も存在しているのです! うわ~、沼また沼!! 八犬伝ワールドは広大だわ……

 え? 読みましたよ……そりゃあーた、『八犬傳』も『忍法八犬伝』も、どっちも読んだに決まってるじゃないですか。残念ながら映画を観るまでには間に合わなかったのですが、どっちも読みましたよ、だって面白いんだもん!!

 正直申しまして、山田風太郎の2作品のうち、面白いのは圧倒的に、映画化されなかった方の『忍法八犬伝』のほうなのですが、こちらはもはや「メディア化なんてクソくらえ!!」とばかりに、撮影技術的にも放映倫理的にも映像化300% 不可能な桃色忍術合戦のオンパレードになっており、山田風太郎の小説かエロゲーの中でしかお目にかかれないようなバカバカし……幻惑的なイリュージョンが目白押しの一大絵巻となっております。すばらしすぎる。そりゃ角川春樹も映画化しないわ。
 ちなみに概要だけ触れておきますと、こちらの『忍法八犬伝』は曲亭馬琴の『南総里見八犬伝』の続編のような内容となっており、馬琴の物語で大団円を迎えた里見家と八犬士の子孫たち(約120年後 里見家当主は里見義実の9代あとの里見忠義)が、江戸時代初期の「大久保忠隣失脚事件」(1613年)に連座して改易された史実を元にした……んだかなんだかよくわかんない崩壊劇となっております。でも、史実を最大限遵守したタイムスケジュールになってるのがすごいんだよなぁ。
 ほんと、ものすごい「里見一族の滅亡」ですよ。あの、八犬士たちの高潔な志はどこにいったんだと……まさに国破れて山河在りといったむなしさで、ペンペン草ひとつ残らない気持ちいいまでのバッドエンドは、まさに山風ならではのニヒリズムといった感じなのですが、そのラストシーンに、読者の誰もがその存在を忘れていた「あの人」がふらふらと通りすぎるというオチは、もう見事としかいいようがありません。あ~、君いたね~!みたいな。ほんと、読者をたなごころでクルクル回す手練手管ですよね。曲亭馬琴もすごいけど、山田風太郎も相当やっべぇぞ!!

 え~、いつも通りに脱線が長くなりました。

 それで今回映画化された小説『八犬傳』についてなのですが、こちらはほぼほぼ、映画版と同じ筋立てとなっております。つまりは「江戸時代の曲亭馬琴パート」と「南総里見八犬伝パート」のか~りぺったか~りぺったで物語が進んでいくスタイルですよね。

 ほんで、この『八犬傳』は1980年代前半の小説ということで、山田風太郎の還暦前後の作品ということもあってか、約20年前に『忍法八犬伝』に見られた全方位に噛みつくごときアグレッシブなストロングスタイルはさすがに鳴りをひそめて、かなり忠実に曲亭馬琴の『南総里見八犬伝』の世界をなぞりつつ、その一方でそういった「正義の叙事詩」を世に出した、出さなければならなかった馬琴の実人生を克明に小説化した端整な物語となっております。うん、映画化するんなら絶対こっちのほうだわ。

 ただ、ここで大きな問題となってくるのが、この小説『八犬傳』のあまりにも落ち着きすぎた締めくくり方なのでありまして、端的に言ってしまうと、「馬琴はなんとか『南総里見八犬伝』を完成させましたとさ。おしまい!」みたいな感じで、かなりスパッと終わっちゃうんですよね。正直申しまして、「風太郎先生、電池切れたな……」と察せざるを得ない、余韻もへったくれもないカットアウトなのですが、小説はそれでいいとしても、2時間30分も観客を引っ張り続けた映画は、そうはいきませんやね! 今作は、そういうところでかなり苦労したのではなかろうかと。

 実のところ、私が今回の映画作品を観て強く感じたのも、「この風呂敷、どうやってたたむんだろう?」というところ、ほぼ一点でした。

 だって、『南総里見八犬伝』のダイジェストに加えて、失明してもなお執筆をやめなかった馬琴の生涯を描くんでしょ? 主演、役所広司さんと内野聖陽さんなんでしょ!? 玉梓の方を栗山千明姫が演じるんでしょ!? 面白くならないはずがないじゃないですか。
 だとしたら、その際限なく豪華絢爛になってしまった物語をどう締めるのか。ここが唯一最大の課題だと思うんですよ。そして、残念ながらその解決策は、肝心カナメの原作小説には存在していないのです……どうする!?

 そんでま、それに対する映画版オリジナルのエンディングは、確かに用意されていました。されてはいたのですが……
 う~ん、THE 無難!! まぁそうなるかなという、100人が考えたら80人くらいが思いつきそうな『フランダースの犬』オチとなっていたのです。

 いや、うん、わかる! だいたい、原作の風太郎先生がほっぽっちゃってるんですから、それよりひどい締め方にはなりようもないはずなのですが、も~ちょっとこう、ねぇ! そんな小学生向けの学習マンガみたいな安全パイじゃなくて、「令和に『八犬伝』を世に出した曽利文彦ここにあり!!」みたいな、観客に爪跡を残す伝説を創ってほしかったなぁ、と。

 惜しい! 実に惜しいんですよね。そこまでけっこう面白かったんですから!
 まず、正義をつらぬく八犬士たちが悪をくじいて平和を勝ち取るという『南総里見八犬伝』の世界に反して、やることなすこと上手くいかず家庭もほぼ崩壊という悲劇に見舞われる曲亭馬琴という対立構造が非常に興味深く、なんとか息子の嫁お路の献身的な協力を得て『南総里見八犬伝』を完結させた馬琴ではありましたが、その怪物的な創作エネルギーの犠牲になったかのようにこの世を去って行った息子・宗伯や妻・お百の存在価値とは一体なんだったのかというところが、映画『八犬伝』なりの大団円を迎えるためのキモだったと思うのです。

 ところがどうでい! あんなエンディングじゃあ、馬琴は浮かばれたとしても、宗伯やお百の魂魄は地上に縛られたまんまじゃねぇんですかい!? そんな自分勝手なカーテンの閉め方、あるぅ!? 寺島しのぶさんが化けてでるわ!!
 とにかくどんな言葉でもいいから、苦悶の表情を浮かべて死んでいった宗伯やお百に対する馬琴の姿勢のようなものは見せてほしかったです。あれじゃ馬琴自身がボケて2人のことを忘れちゃってる可能性すらある感じでしたからね。カンベンしてよ~!!

 いや~、ほんとこの映画、最後の最後までは面白く観たんだよなぁ。特に現実の江戸世界のパートに関しては、もう文句のつけようもないくらい最高のキャスティングと演技で、いつまでも、2時間でも3時間でも観ていられる感じだったのですが。

 主演の役所さんも内野さんも当然すばらしく、お路役の黒木華さんも言うまでもなく最高だったのですが、私が特に目を見張ってしまったのは、「フィクションだからこそ正義が勝つ!」という創作哲学を堅持する馬琴に大いに揺さぶりをかける、「悪が勝つのが現実じゃござんせんか」理論を展開したダークサイドの売れっ子作家・四世鶴屋南北を見事に演じきった立川談春さんの大怪演でした。これ、ほんとすごかった!
 正義至上主義の馬琴に対して、へらへらと嗤いながらも昂然と反駁する舞台奈落のブラックすぎる南北……絵的にも、地下から見上げる馬琴と地上の舞台装置から顔を逆さまにして見下す南北ということで、まるでトランプのカードのような対称配置が非常に面白い会話シーンだったのですが、ここ誇張表現じゃなく、あの『ダークナイト』(2008年)を彷彿とさせる正義と悪の名対決だと思いました。それで、正義派の馬琴が結局は南北に言い負かされた形で終わっちゃうんだもんね! 南北もまた、ものすごい才能だったのね~。

 ところで、史実の南北は馬琴の12歳年上だったらしいので、実際には『スター・ウォーズ』サーガの銀河皇帝パルパティーンみたいなヨボヨボのじいさまが、「ふぇふぇふぇ……馬琴くんも、まだまだ若いのぉ。」みたいな感じであしらう雰囲気だったのかも知れませんね。ま、どっちでも面白いけど!
 余談ですが、映画のこのシーンで、馬琴と北斎を舞台奈落に案内する、いかにも歌舞伎の女形さんっぽいナヨッとした木戸番さん(演・足立理)がいたじゃないですか。「あの、そろそろ蝋燭が消えます……」って言ってた人。
 あの人、風太郎先生の小説にもちゃんと出てくるのですが、小説ではなんと、江戸時代でもかなり有名な「あの人」の仮の姿という設定になってるんですよね! 話がややこしくなるので映画でカットされちゃったのは仕方ないですが、気になった人はぜひとも原作小説を読んでみてください。いや~、化政文化、激濃な才能が江戸に集まりすぎよ!!

 まぁまぁ、こんな感じで馬琴の現実パートはほんとに面白かったんですよね。

 もちろん、それに対する『南総里見八犬伝』パートも負けずに楽しかったのですが、やっぱりまともに全部映像化するのは絶対にムリということで、犬村大角の発見以降の物語の流れがいきなり雑になってしまったのは、予想はつきつつも、やっぱり残念ではありました。いや、しょうがないんですけどね!
 この、『南総里見八犬伝』における「犬村大角が出たとたんにザツ化問題」は、八犬士を探すために東日本各地に散った主要メンバーが、再び安房国(房総半島のはしっこ)に集結するまでの「帰り道でのなんやかやがめんどくさすぎ」であることと、八犬士の大トリである『ドラゴンボール』の悟空なみにチートなスーパーヒーロー少年・犬江親兵衛の登場&加入を物語るパートの「規模が京都まで拡大してめんどくさすぎ」であることが起因しているわけなのですが、これをまともに追うわけにはいかない大抵のダイジェスト小説や映像作品は、このあたりをまるっとはしょって、「まぁ色々あったけど八犬士が集まって、玉梓の方が転生した悪者をやっつけたヨ!」という、まさに今回の映画版がそうしたような雑な RPG的展開に堕してしまうのです。

 いや、しょうがねぇよ!? しょうがねぇけど、この場合、いちばんの被害を被ってしまうのは、満を持しての大活躍をほぼ全てカットされてしまう犬江親兵衛くんなのでありまして、今回の映画を観た人の多くも、「なんだ? あの唐突に馬に乗って現れた親兵衛ってガキは?」という印象を持ったかと思います。親兵衛かわいそう! さすがの藤岡マイトくんをもってしても、あのとってつけた感を拭い去ることはできなかったでしょう。
 あと、最後の八犬士 VS 玉梓の方の決戦シーンも、なんだかほんとに典型的な RPGの魔王の城といった感じで、右手だけムッキムキになって定正を締め上げる玉梓も、な~んかチープになっちゃいましたよね。あれ、 CGでちょろっとでもいいから、ムキムキになった腕を袖の中にしゅるっと引っ込める描写を入れたらよかったのに、それをやらずにムキムキ腕の造形物を着けた栗山さんだけを撮っちゃうもんだから、コントみたいな肉じゅばん感が増しちゃったと思うんだよなぁ。あそこ、残念だったな……どうせ栗山さんなんだから、思いきって20年ぶりにあの射出型モーニングスター付き鎖鎌「ゴーゴーボール」を復活させればよかったのに! 栗山さん、たぶん喜んでやってたよ!?
 「八犬士が玉を集めたら勝てました。」っていうのも、ねぇ。ちょっと安易だけど、まぁフィクションなんだから、しょうがねっか。

 それはまぁいいとして、こちら『南総里見八犬伝』パートで輝いていたのは、やはり実質主人公格である「名刀村雨丸」の使い手・犬塚信乃を好演した渡邊圭祐さんと、今年の NHK大河ドラマ『光る君へ』であんなにか弱い一条帝を演じたのに、本作では一転して悪辣非道な中ボス・扇ヶ谷定正を嬉々として演じていた塩野瑛久さんのお2方でしたね。

 いや~、渡邊さんはほんとにいい俳優さんですね! まさか、『仮面ライダージオウ』であんなに怪しげな3号ライダーを演じていた彼が、大スクリーンでこんなにもド正統な正義のヒーローを演じきる日がこようとは……非常に感慨深いです。
 古河御所・芳流閣における古河公方のリーサルウエポン犬飼現八との対決なんか、CG による誇張も非常にいいあんばいで手に汗握る名勝負だったのですが、あそこ、小説ではかなりタンパクに描かれているのですが、映画版は現八の武器である捕縄をうまく使って、いったん屋根から転落した信乃が捕縄を命綱にして城壁を垂直に走り、また屋根に登ってくるというムチャクチャなアクションを映像化してましたよね。あれ、絶対に小説版の『魔界転生』へのオマージュでしょ! やりますねぇ!!
 渡邊さん、かっこよかったなぁ~。アクションもカッコいいんですが、ふと俯き加減に黙り込むと、あの天本英世さんをちょっと思い出させるような知性もにじみ出るんですよね。これからの活躍にも期待大です! 祝え、大名優の誕生を!!

 いっぽうの塩野さんなのですが、完全にやり慣れていないド悪役を、ムリヤリ悪ぶって演じているという不自然さが、「実は小物」という定正のキャラクターと妙にリンクしていて最高だなと思いました。これはキャスティングの勝利ですね! こんな定正、絶対に根っからの悪人じゃないもの! ちょっと酒グセと女性の趣味が悪いだけなんだもの。

 その他、『南総里見八犬伝』パートに出ている俳優さんで気になった人と言えば、2024年の映像界でいきなり有名になった河合優実さんが実質ヒロインの浜路を演じている点なのですが、いやいや、こっちのパートはフィクション世界なんですから、なんでそんなに「リアルな」お顔立ちの河合さんがヒロインを演じてらっしゃるのかな、という疑問は残りました。どう見たって現実パート顔でしょ。馬琴の近所の娘さんって顔じゃないの……いや、もうこれ以上は申しません。

 ヒロインと言えば、かつてあの『るろうに剣心』3部作で、あれほどキレッキレのアクションを見せていた土屋太鳳さんが、本作ではまるで身体を動かさない伏姫を演じるベテラン感をみなぎらせていたのにも、時の流れを痛感して感慨深くなりました。そうよねぇ、もうお母さんなんだものねぇ。


 と、まぁ、そんなこんなでありまして、もともと『南総里見八犬伝』ファンである私にとりまして今回の映画『八犬伝』は、直接の映画化作品ではないにしても、おおむね期待した以上に満足のいく作品でございました。単純に、観ていて楽しかった!
 ただ、それだけに惜しいのは、やっぱり最後の締め方なんですよね。そこさえ、他の作品に無い「なにか」を提示してくれさえすれば、邦画史上に残る完全無欠の名作になったはずなのですが……そこが非常に残念でなりません。役所さんだったら、どんな展開でも対応できたはずなのに、なんであんなに無難な感じになってしまったのか! まさにこれ、龍頭蛇尾。

 でも、現状可能な限り、最高級の逸材が集結した豪華絢爛な映画作品に仕上がったことは間違いないと思います。小さな画面じゃなくて大スクリーンで見ることができて良かった~!!


 いや~、『南総里見八犬伝』って、ホンッッッットに! いいもんでs……

 あ、思い出した。うちの積ん読に、あの桜庭一樹さんの『南総里見八犬伝』オマージュの『伏 贋作・里見八犬伝』(2010年)が未読のまま塩漬けになってたわ……プギャー! これ、『伏 鉄砲娘の捕物帳』(2012年)っていうアニメ映画にもなってるの!? エー、あの桂歌丸師匠が馬琴を演じてたの!?

 こここ、これを読まずして、観ずして『南総里見八犬伝』ファンだなどとは片腹痛し! おこがましいにも程がある!!

 また、出直してまいります……やっぱ『南総里見八犬伝』は広大だワン☆
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