長岡京エイリアン

日記に…なるかしらん

魔人・子安武人、みなとみらいでまたチビッコをビビらす  ~映画『プリキュアオールスターズ NewStage』~

2014年11月14日 23時35分32秒 | アニメらへん
映画『プリキュアオールスターズ NewStage みらいのともだち』(2012年3月17日公開 72分 東映)


 映画『プリキュアオールスターズ NewStage みらいのともだち』は、「プリキュア」シリーズの歴代クロスオーバー作品の第4作目である。「プリキュア」シリーズの劇場版作品としては第12作目。
 キャッチコピーは、「女の子は誰でもプリキュアになれる!! プリキュアオールスターズ、新たなるステージへ――」。

 これまで製作されてきた『プリキュアオールスターズ DX 』シリーズは、2011年3月公開の『プリキュアオールスターズ DX3 未来にとどけ!世界をつなぐ☆虹色の花』が最終作とされていたが、「新たな展開」として製作された。
 本作では、『 DX3』に登場した21名のプリキュアに加え、『スイートプリキュア♪』からキュアビートとキュアミューズ、さらに劇場版初登場となる『スマイルプリキュア!』に登場するキュアハッピーら5名のプリキュアを含めた28名のプリキュアが総登場する。物語のメインは『スマイル』と『スイート』の登場人物たちで進められていく。その反面、本作では『 Go Go!』までのプリキュアと妖精には声は当てられていないが、これは全員にセリフを用意すると難が生じるために行われた大きな決断であった。また、シリーズ初となる劇場版オリジナルのプリキュア「キュアエコー」が登場し、彼女を含むことで、本作ではプリキュアが総勢29名となることが明かされた。キュアエコーは初の「オールスターズ映画のオリジナルプリキュア」、「現実世界の日本(横浜)で誕生したプリキュア」となる。
 その一方で、本作からオールスターズ映画ではプリキュア強化モードは登場しなくなった。

 物語は『オールスターズ DX 』(2009年)の後日談にあたり、舞台も同じ横浜みなとみらい21が中心となる。『 DX 』の敵キャラクター「フュージョン」がプリキュアに倒されて分裂したかけらの一つと、それに出会った少女を中心に物語が展開する。
 前作同様に、新規参戦の『スマイル』はこれまでのプリキュアたちと関係性を持っておらず、妖精同士のみが既に知り合っているという状態でスタートし、劇中で『スマイル』は他のプリキュアの存在を初めて知るようになる。また、歴代シリーズ作品に登場したキャラクターたちが横浜を歩く人々として、セリフなしで出演している。
 本作ではゲスト声優として、フュージョンのかけらである「フーちゃん」役に子役の熊田聖亜(せあ)が、また、本作の鍵を握る少女・坂上あゆみの母親役としてフリーアナウンサーの赤江珠緒(当時37歳)が出演する。赤江がプリキュアシリーズに出演するのは、映画『ふたりはプリキュア Max Heart 』(2005年)の妖精騎士ハート役以来で、TV シリーズでも『スマイルプリキュア!』の第8話(2012年3月25日放送)に本人役として出演している。
 全国172スクリーンという規模での公開ながら、2012年3月17・18日の初日2日間で興行収入約1億9,500万円、動員約17万5千名となり、映画観客動員ランキングで初登場第3位となった。最終的な興行収入は約10億2千万円。


あらすじ
 横浜みなとみらいに出現したフュージョンを倒したプリキュアたちの話題で、街は持ちきりとなる。しかし、転校してきたばかりの坂上あゆみはいつもクラスから孤立していた。ある日、あゆみは学校からの帰りに謎の生き物と出会う。彼女はこの生き物に「フーちゃん」と名付けて仲良しとなるが、この生き物は分裂したフュージョンのかけらだった。フーちゃんはあゆみを思うあまり、次第にあゆみの嫌いなものを飲み込んでいき、大きくなろうとし、ついには全てを消してリセットしようとしてしまう。あらゆるものが消失し混乱した街と、フーちゃんの暴走を悲しむあゆみを救うため、プリキュアたちが再び立ち上がる。


おもな登場キャラクター
『スマイルプリキュア!』より
星空 みゆき / キュアハッピー  …… 福圓 美里(30歳)
 フュージョン探しにおける紆余曲折から、他の仲間に先んじて『スイートプリキュア♪』のメンバーやあゆみと出会い、さらに緑色のフュージョンとも遭遇する。
日野 あかね / キュアサニー   …… 田野 アサミ(25歳)
 フュージョンに遭遇した際、襲われそうになったみゆきを救う。
黄瀬 やよい / キュアピース   …… 金元 寿子(24歳)
 『スイートプリキュア♪』のメンバーと初めて遭遇した際、自己紹介しようとしていた。
緑川 なお / キュアマーチ    …… 井上 麻里奈(27歳)
青木 れいか / キュアビューティ …… 西村 ちなみ(41歳)
 キャンディの依頼から、フュージョン探しに乗り出すことになる。暴走したフーちゃんとも戦うが、その性質に苦戦を強いられる。

キャンディ …… 大谷 育江(46歳)
 ハミィとは旧知の仲である。響に「子ブタ」呼ばわりされる。フュージョン探しをみゆきたちに頼んで同行するが、自身もフュージョンのことはあまりよく知らない。

『スイートプリキュア♪』より
北条 響 / キュアメロディ  …… 小清水 亜美(26歳)
南野 奏 / キュアリズム   …… 折笠 富美子(37歳)
黒川 エレン / キュアビート …… 豊口 めぐみ(34歳)
調辺 アコ / キュアミューズ …… 大久保 瑠美(22歳)
 歴代プリキュアと共にフュージョン戦に勝利した後、分裂したフュージョン探しに参加してスマイルプリキュアのメンバーと出会う。その後は、暴走したフーちゃんとも戦った。奏(キュアリズム)とアコ(キュアミューズ)の声付き出演は、『 NewStage 』では本作のみ。

ハミィ      …… 三石 琴乃(44歳)
 キャンディとは旧知の仲であり、奏が作ったカップケーキをプレゼントしていた。ミラクルライトでプリキュアを応援する他、プリキュアを呼び寄せるために呼びかけを行なう。
フェアリートーン …… 工藤 真由(25歳)
 青いフュージョンが紛れ込んだ際、逃げ惑う妖精たちの中で、揃って立ち向かった。また、フュージョン探索中はハミィと共に全員でトウモロコシを食べていた。なお、ハミィとフェアリートーンの声付き出演は、『 NewStage 』シリーズでは本作のみ。

『ハートキャッチプリキュア!』より
花咲 つぼみ / キュアブロッサム   …… 水樹 奈々(32歳)
来海 えりか / キュアマリン     …… 水沢 史絵(32歳)
明堂院 いつき / キュアサンシャイン …… 桑島 法子(36歳)
月影 ゆり / キュアムーンライト   …… 久川 綾(43歳)
 暴走したフーちゃんとの戦いに加勢しようとするが、えりか(キュアマリン)が道に迷ったために出遅れる。変身後、マリンが同じく仲間を迷わせたラブ(キュアピーチ)と共感し合う。あゆみを到達させるために囮になった。いつき(キュアサンシャイン)とゆり(キュアムーンライト)の声付き出演は、『 NewStage 』シリーズでは本作のみ。

シプレ …… 川田 妙子(47歳)
コフレ …… くまい もとこ(41歳)
 序盤の祝勝会で、中華まんをつまみ食いしようとしたポプリを咎めた。コフレは落語でフュージョンをシプレたちに解説して怖がらせていた。ミラクルライトでプリキュアに力を与える他、決戦に向けてプリキュアたちを呼び寄せる。
ポプリ …… 菊池 こころ(29歳)
 序盤の祝勝会で中華まんをつまみ食いしようとするなど、相変わらずワガママ振りは健在。プリキュアたちとともに駆けつけ、あゆみの危機を自身の能力で救っている。なお、シプレ・コフレ・ポプリの声付き出演は、『 NewStage 』シリーズでは本作のみ。

『フレッシュプリキュア!』より
桃園 ラブ / キュアピーチ   …… 沖 佳苗(27歳)
蒼乃 美希 / キュアベリー   …… 喜多村 英梨(24歳)
山吹 祈里 / キュアパイン   …… 中川 亜紀子(38歳)
東 せつな / キュアパッション …… 小松 由佳(34歳)
 暴走したフーちゃんとの戦いに加勢しようとするが、ラブ(キュアピーチ)が道に迷ったために出遅れる。変身後、ピーチが同じく仲間を迷わせたキュアマリン(えりか)と共感し合う。あゆみを到達させるために囮になった。美希(キュアベリー)と祈里(キュアパイン)の声付き出演は、『 NewStage 』シリーズでは本作のみ。

シフォン …… こおろぎ さとみ(49歳)
 超能力を使い、青いフュージョンを瓶の中に封じ込めた。シフォンの声付き出演は、『 NewStage 』シリーズでは本作のみ。
タルト …… 松野 太紀(44歳)
 本作ではミラクルライトの管理を主に行なっている。また、序盤では妖精たちによる祝勝会の幹事を務めていた。

坂上 あゆみ / キュアエコー …… 能登 麻美子(32歳)
 本作の主人公で、プリキュアにあこがれている中学生の少女。髪は茶色のツインテールであり、水色のジャケットと青色のスカートを身につけている。
 父親の仕事の都合で横浜に引っ越してきたが、引っ込み思案な性格のために街や学校のクラスにもなじめず、母親(声・赤江珠緒)との関係もよくない。
 偶然にフュージョンの欠片の一つと出会い、「フーちゃん」と名づけて友だちになるが、フーちゃんが自分の発言が原因で暴走し、プリキュアたちと対決したうえに母親の存在までも消滅させたことで心を痛める。
 次作『プリキュアオールスターズ NewStage2 こころのともだち』(2013年)ではモブとして登場していたが、次々作『プリキュアオールスターズ NewStage3 永遠のともだち』(2014年)ではふたたびゲストキャラクターとして登場した。

本作の敵
フュージョン …… 子安 武人(44歳)
 かつて映画『プリキュアオールスターズ DX みんなともだちっ☆ 奇跡の全員大集合!』(2009年)に登場し、当時の14名のプリキュアに倒された悪意の塊。
 本作では怪獣のような姿で復活して横浜の街を破壊しようとするが、今度は23名のプリキュアによって再度倒される。その後は身体を無数に分裂させており、虎視眈々と集合復活のときを狙っていた。
 欠片はそれぞれ異なる色の個体が存在し、戦闘能力は高い。『 DX 』の時の過去の怪物を復活させる力は無くなっているものの、プリキュアの技や物体を吸収して力を増幅させる能力は健在であり、さまざまな形に変形し、多数に分裂することが可能である。
人格は、フュージョンとしての邪悪さのみが備わっている。
 本作ではスマイルプリキュアのメンバーを襲い、彼女たちの技を吸収してパワーアップした。

フーちゃん …… 熊田 聖亜(10歳)
 フュージョンの欠片のひとつ。坂道であゆみに出会ったとき、「フー」と鳴いていたことから「フーちゃん」と名づけられた。他の欠片と比較して身体が小さく、力も弱い。体色は黄色で、頭と身体にあたる部位しかないが、あゆみのためにブレスレットや船の模型に変身することもあった。
 成長するにつれて言葉を覚え、手足が形成されていき、あゆみとゲームができるほどになる。あゆみと行動を共にして触れ合いを重ねるうちに、フュージョンから独立した人格をもち、あゆみに懐くようになる。
 やがて、あゆみの力になりたい一心で自身を成長させるために、他の欠片たちに集合復活を呼びかけ、あゆみが漏らした「全部なくなっちゃえばいいのに。」という言葉をストレートに捉えて意思が暴走し、再び横浜を消滅させようとする。


その他の歴代プリキュアと妖精
 横浜を破壊しようとしたフュージョンを倒すために現れたプリキュアたちは、分裂したフュージョン捜索のシーンには登場しなかったものの、後半の決戦時にはミラクルライトの呼びかけに応じ、仲間の危機に駆けつけた。変身前の姿はラストシーンで登場する。いずれも声の出演はなし。
 妖精たちは、冒頭のフュージョン戦において一部(『 MaxHeart 』のルルン、『 Splash Star 』のムープとフープ、『5 / GOGO!』のココ・ナッツ・シロップの計6名で、全て変身アイテムやプリキュアに変身しない妖精たち)が劇中に登場するのみである。

本作のプリキュアについて
 冒頭で横浜を荒らしまわっていたフュージョンを退治した少女たちとして登場する。本作では大々的に市民から応援を受け、さらにその事件を通じて『横浜を救った伝説の戦士』として報道されたことによって、多くの人々からプリキュアという戦士の存在を認知されている。

関連アイテム
ミラクルデコルライト
 劇中では「ミラクルライト」と略称される。先端に「キュアデコル」を模した蛍光部が付いている。本作ではプリキュアに力を与えるほか、仲間を呼び寄せるための目印として使用されたり、キュアエコーをフーちゃんの居るタワー屋上へ導くための「光のレール」を作った。

キュアエコー
 キュアハッピーをかばってフュージョンに飲み込まれた坂上あゆみの心に呼応して突如誕生した、29人目のプリキュア。
 サイドポニーが大幅に長くなり、それを結っていた赤いヘアゴムが淡いピンク色のリボンに変わる。髪色と瞳がこげ茶色から金色に変化する。イメージカラーは白で(白のプリキュアはキュアホワイト、キュアイーグレット、キュアリズムに次いで4人目)、衣装には若草色のアクセントが入る。腰周りのリボンと肩周りは淡いピンク色。胸にはスマイルプリキュアのメンバーと同じブローチをつけているが色は白銀となり、中の「P」は緑色になっている。また、スマイルプリキュアと形がほぼ同じ白のロングブーツを履いている。
 他のプリキュアたちのように明確な変身シーンや技を放つシーンは存在しないため、変身方法をはじめその詳細は不明。ただし、キュアデコルに似たアイテム「エコーキュアデコル」がある。変身時のセリフは、「思いよ届け!キュアエコー!」
 本作でデビューしたが、次作『プリキュアオールスターズ NewStage2 こころのともだち』にキュアエコーは登場せず、プリキュアの総数もキュアエコーを除く本作の28名と、新参入の『ドキドキ!プリキュア』の4名を加えた「32名」と紹介されていた。ただし、あゆみは級友とともに咲のパン屋「ベーカリー PANPAKAパン」の前を通るシーンでセリフなしで登場する。
 2014年3月公開の次々作『プリキュアオールスターズ NewStage3 永遠のともだち』では、『 NewStage2』の主人公だった妖精グレルとエンエンの力でふたたびキュアエコーに変身できるようになり、必殺技「プリキュア・ハートフルエコー」を披露した。そして、エピローグで妖精界の「プリキュア教科書」にキュアエコーの項目が追加され、同時にグレルとエンエンはキュアエコー(あゆみ)のパートナー妖精となった。なお、『 NewStage3』エンディングのダンスシーンで、キュアエコーは『ハピネスチャージ』のキュアハニーと同様にダンス自体には参加しなかったが、ビルの大画面ビジョンに1カットだけグレルやエンエンとともに映る場面がある。

エコーキュアデコル
 形状はスマイルプリキュアのメンバーが変身に使用するキュアデコルと同様だが、色が白い。変身解除後もあゆみが所持し続けていたことが、次々作『プリキュアオールスターズ NewStage3 永遠のともだち』で確認された。


主なスタッフ
監督 …… 志水 淳児
脚本 …… 成田 良美(38歳)
キャラクターデザイン・作画監督 …… 青山 充(58歳)
音楽 …… 高梨 康治(48歳)
アニメーション制作 …… 東映アニメーション

主題歌
オープニングテーマ『プリキュア 永遠のともだち』(歌唱・工藤真由)
エンディングテーマ『イェイ!イェイ!イェイ!』 (歌唱・吉田仁美)
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さよなら……そういうらへんのやつ!!  ~映画『少女革命ウテナ アドゥレセンス黙示録』~  資料編

2014年11月09日 09時37分27秒 | アニメらへん
『少女革命ウテナ』とは……

 『少女革命ウテナ(しょうじょかくめいウテナ)』は、J.C.STAFF制作のアニメ作品。TV アニメシリーズとして1997年4~12月にテレビ東京系列で放送された。全39話。

 アニメ『美少女戦士セーラームーン』シリーズのシリーズディレクターなどを務めたアニメ演出家の幾原邦彦が、少数精鋭のスタッフと少女マンガ家さいとうちほを集めて制作集団「ビーパパス(Bepapas)」を結成し、世に放った異色作。
 男装の麗人、書き割りの様な背景、影絵のようなデザインの少女たちによる不可思議な劇中劇など、宝塚歌劇と前衛舞台劇を折衷したような徹底したアバンギャルドな演出が特徴。また、学園の姿を借りた閉鎖世界や「薔薇」や「王子様」といった少女マンガ的モチーフを中心に、おとぎ話や西洋の貴族のような決闘、同性愛や近親愛まで多くの要素を扱い、かつ哲学的な言辞と象徴や図式を大小、首尾一貫してちりばめている。合唱曲『絶対運命黙示録』など、かつて寺山修司の「演劇実験室・天井桟敷」で舞台音楽を担当していた J・A・シーザーのアンダーグラウンドな楽曲を採用したことも、独特の世界観を作り上げる大きな要因となった。

企画
 ビーパパスは幾原邦彦がオリジナルアニメ作品の制作のために作ったチームで、その名前は「大人になろう」の意。従来は著作者として認められることがほとんどなかったアニメーションの制作スタッフが、原作者の立場で表に立つということも目的としていた。
 当初の企画として最初に形になったものは、大人のコアターゲットを狙った OVAだったが、幾原がさいとうちほのマンガ作品と出会ったことで、より一般向けの TVシリーズを志向するようになる。さいとうにキャラクター原案を依頼した時点では、主人公が誰かとキスすることで男装の美少女に変身するという、玩具メーカーをスポンサーに想定した子ども向けアニメに設定されていた。
 幾原は、主人公格のウテナとアンシーを親密な仲にする構想を持っていたが、さいとうは主な視聴者である少女が望むものではないとその構想を強く否定していた。ただし、『少女革命ウテナ』の TV放送終了後にさいとうは、ビーパパスの影響で同性愛的なものを肯定するようになったと心境の変化を語っている。
 その後、キングレコードの大月俊倫プロデューサーの目に留まることで企画はより本格的な制作体制に移り、大幅な変更が行なわれて完成した。

演出・美術
 作品には幾原監督の作家性が色濃く出ているが、他のスタッフもまた自発的に様々なアイディアを投入している。例えば、影絵少女は幾原ではなく、シリーズ構成の榎戸洋司の発案だった。
 美術監督を務めた小林七郎は当時64歳の大ベテランだった。小林によれば、幾原監督は理詰めでなくイメージを重視した指示を出し、そのような発想の飛躍は自分にはないものであり、いい刺激になったと語っている。また、建物の大半をデザインした長濱博史についても、その重力や力学を無視した自由な発想に小林はショックを受け、その良い部分を生かすようにしたという。

メディアミックス
 TV アニメ放送時にさまざまなメディアミックス展開が行われ、マンガ、ゲームの他、ミュージカル、演劇公演やノベライゼーションなども発表された。また、さいとうちほによるマンガ版『少女革命ウテナ』が TV放送に先んじて世に出ている(1996年5月~99年8月連載)が、TV シリーズの制作が決定したことを受けての連載だったため、原作ではなくコミカライズと位置づけられており、原作者もさいとう個人ではなくビーパパスである。
 TV アニメ版、マンガ版、小説版、劇場版ではそれぞれ、物語の展開や設定が異なっている。


主なスタッフ
企画・原作      …… ビーパパス(幾原邦彦、さいとうちほ、榎戸洋司、長谷川眞也、小黒祐一郎)
監督         …… 幾原 邦彦(32歳)
コミカライズ     …… さいとう ちほ
シリーズ構成     …… 榎戸 洋司(33歳)
キャラクターデザイン …… 長谷川 眞也(28歳)
コンセプトデザイン  …… 長濱 博史(27歳)
美術監督       …… 小林 七郎(64歳)
音響監督       …… 田中 英行(55歳)
音楽         …… 光宗 信吉(33歳)
合唱楽曲       …… J.A.シーザー(48歳)
合唱         …… 杉並児童合唱団、東京混声合唱団、演劇実験室・万有引力
プランニング     …… 小黒 祐一郎(32歳)
アニメーション制作  …… J.C.STAFF

主題歌
オープニング
『輪舞 revolution 』(歌・奥井雅美)
エンディング
『 truth 』(第1~24話 歌・裕未瑠華)
『バーチャルスター発生学』(第25~38話 歌・上谷麻紀)
『 Rose&release 』(最終話) (作曲・編曲 - 矢吹俊郎 / コーラス - 奥井雅美)
挿入歌
合唱曲『絶対運命黙示録』、『 when, where who which 』、『肉体の中の古生代』、『スピラ・ミラビリス劇場』、『天使創造すなわち光』、『ゲルツェンの首』、『さかさまボクとボクの部屋』、『ラスト・エヴォルーション 進化革命前夜』、『封印呪縛』、『何人も語ることなし』、『不人幻魂合体術』、『架空過去型《禁厭》まじない』、『地球は人物陳列室』、『円錘形絶対卵アルシブラ』、『幻燈蝶蛾十六世紀』、『成熟年齢透明期』、『ワタシ空想生命体』、『平俗宇宙に不滅の皇帝』、『天使アンドロギュヌス』、『わたし万物百不思議』、『天然同胞宮殿遠近法の書』、『寓意・寓話・寓エスト』、『体内時計都市オルロイ』、『ミッシング・リンク』など(全作曲・J.A.シーザー)


あらすじ
 幼い頃に助けてくれた王子様に憧れ、王子様になりたいと願うようになった少女・天上ウテナは、入学した鳳学園で「薔薇の花嫁」と呼ばれる少女・姫宮アンシーと出会う。エンゲージした者に「永遠」に至る「世界を革命する力」を与えるという「薔薇の花嫁」をかけて戦い続ける生徒会役員(デュエリスト)たちは、ウテナがかつて王子様からもらった指輪と同じ「薔薇の刻印」と呼ばれる指輪を持っていた。そしてウテナもまたこの決闘ゲームに巻き込まれ、その背後にある「世界の果て」へと迫っていく……
 TV シリーズでは第1~13話が「生徒会編」、第14~23話が「黒薔薇会編」、第24~33話が「鳳暁生編」、第34~39話が「黙示録編」となっている。


劇場版『少女革命ウテナ アドゥレセンス黙示録』(1999年8月公開 87分 東映)
 完全新作の長編アニメーション映画として、劇場版のオリジナル35ミリフィルムを使用して、TV シリーズ版よりも過激かつ華麗にリニューアルしたオリジナル作品。さいとうちほによるコミカライズ版もある。

あらすじ
 全寮制の名門学校・鳳学園に転校してきた天上ウテナは、「薔薇の花嫁」と呼ばれる謎の美少女・姫宮アンシーに出会い、生徒達との決闘ゲームに巻き込まれる。ウテナは徐々にアンシーと親しくなるが、その中でアンシーに隠された秘密を知り、彼女を連れて「外の世界」への脱出を試みようとする。

主なスタッフ
企画・原作      …… ビーパパス
監督         …… 幾原 邦彦
コミカライズ     …… さいとう ちほ
製作         …… 大月 俊倫(37歳)
プランニング     …… 小黒 祐一郎
脚本         …… 榎戸 洋司
キャラクターデザイン …… 長谷川 眞也
絵コンテ       …… 五十嵐卓哉、金子伸吾、細田守、高橋亨、長濱博史、長谷川眞也、幾原邦彦
演出         …… 金子伸吾、高橋亨、桜美かつし
作画監督       …… 林明美、武内宣之、長谷川眞也、川嶋恵子、相澤昌弘
メカニックデザイン  …… 長濱 博史
美術監督       …… 小林 七郎
音響監督       …… 田中 英行
音楽         …… 光宗信吉、J.A.シーザー、天利英跡
アニメーション制作  …… J.C.STAFF
配給         …… 東映

オープニングテーマ
『薔薇卵蘇生録』(作曲・J.A.シーザー)
挿入歌
『輪舞 revolution 』(歌・奥井雅美)
『時に愛は』(歌・奥井雅美)
合唱曲『甦れ!無窮の歴史「中世」よ』、『シュラ 肉体星座αψζ星雲』、『絶対運命黙示録』(全作曲・J.A.シーザー)
エンディングテーマ
『フィアンセになりたい Adolescence Mix 』(歌・及川光博)
 ※及川光博の6thシングル(1997年12月10日リリース)で、もともと本作とは無関係だった曲を映画用にアレンジしている。


主な登場キャラクター
 鳳学園の生徒会執行部のメンバーは、気高さを持つ者として「世界の果て」から選ばれたデュエリストである。合い言葉は「卵の殻を破らねば、雛鳥は生まれずに死んでいく。雛は我らだ、卵は世界だ。世界の殻を破らねば、我らは生まれずに死んでいく。世界の殻を破壊せよ、世界を革命するために」。これは、ドイツの文豪ヘルマン=ヘッセの代表的小説『デミアン』(1919年)がモチーフになっているものと思われる。なお、学園を舞台とした同性愛的な描写も『デミアン』と共通している。
 デュエリストの名前には、全てに植物と関係のある文字や単語が入っている。

天上 ウテナ(てんじょう ウテナ)…… 川上 とも子(27歳 2011年没)
 本作の主人公。鳳学園中等部二年の14歳。12月29日生まれのやぎ座。血液型はB型。
 幼い頃に両親と死別した際に白馬に乗った「王子様」に救われ、彼に憧れるあまり自身も王子様になろうとする男装の少女。一人称は「僕」。中等部では主に女子生徒たちの人気の的。「王子様のように気高くかっこよく」生きることを信条としており、スポーツ万能で正義感が強い。幼い頃出会った王子様にもう一度会いたいと願っている。親友・若葉の恋心を踏みにじった西園寺莢一の言動を非難したことを機にデュエリストたちの決闘ゲームに巻き込まれていく。決闘の際の武器は、主に「ディオスの剣」。服装は基本的に、鳳学園の女子制服ではなく上のみ黒い学ランに下は赤いスパッツという出で立ちである。劇場版では、序盤は白と黒の学ラン上下に白い帽子をかぶっているが、後に TV版に似た上のみ白と黒の学ランに下は白いスパッツになる。
 後に同じデュエリストとして戦うことになる西園寺莢一や桐生冬芽とは幼い頃に会ったことがあるのだが、本人は覚えていない。
 名前の「ウテナ」は、花の「がく」のことを指す。ピンク色の髪に水色の瞳。TV 版では長いストレートヘアだが、劇場版ではウェーブがかったロングヘアをショートカットに編みこんで男子の短髪のようにしている。デュエリストの衣装に変身するとズボンはスパッツになり、衣装の白と黒の基色には赤のさし色が入り、ロングヘアにほどく。
 劇場版では他校からの転校生、冬芽とは幼なじみという設定になっており、「王子様になりたい」と願うのではなく、王子様を失った傷心を抱えながらも志高く生きようとする少女として登場する。また、冬芽に好意を持っていることが明確になっている。物語の終盤でアンシーを連れて「外の世界」へ脱出しようとした際にピンク色のスポーツカーに変身し、アンシーを乗せて旅立っていった(ラストで元の姿に戻る)。

姫宮 アンシー(ひめみや アンシー)…… 渕崎 ゆり子(28歳)
 鳳学園における決闘の勝者に「世界を革命する力」を授ける「薔薇の花嫁」として、デュエリストたちに争われる少女。中等部二年の14歳。2月29日生まれのうお座。血液型は AB型。
 日々、温室のバラ園の管理をしており独自の人付き合いが無いなど、所有者(エンゲージした決闘勝者)に従属して主体性を感じさせない存在だが、ウテナとの関わりによってのちに精神的な変化が見られるようになる。チュチュという猿のようなペットを飼っており、自然や動物をこよなく愛する。ウテナとエンゲージしてからはウテナのルームメイトになる。丸メガネをかけている。
 TV シリーズ中盤の「黒薔薇会編」で、鳳学園理事長代行・鳳暁生の妹であることが明かされる。さらに物語後半では、暁生の過去の姿であるディオス(王子様)の妹でもあり、かつて人々の願いを叶えすぎて疲弊し傷ついたディオスを封印したが、その代償として彼女は「魔女」と見なされ、ディオスに救ってもらうはずだった人々によって無数の剣で刺し貫かれ、それ以降、人々の憎しみから成る「憎悪に光る百万本の剣」を受け止め続ける運命を背負っている。
 兄であるディオス(暁生の前身)の「理想」の化身である「ディオスの剣」を心に封印している。この剣は、エンゲージしたデュエリストのみがアンシーの心から引き抜くことができる。
 「抑圧された自我」の象徴であり、この「自我の解放」すなわちアンシーの精神的革命が、本作のテーマとなっている。
 名前の「アンシー」はギリシャ語で「花ひらく」という意味。紫色の髪に緑色の瞳、褐色の肌という容貌で、額にヒンドゥー教徒のビンディーのような赤い印がある。ウェーブがかったロングヘアをショートカットに編みこんで短髪のようにしている。
 劇場版ではメガネをかけておらず、髪も長いストレートヘアで、TV 版のウテナと似たデザインとなった。また、TV 版とは異なり、ウテナとは名前を呼び捨てにして話し方も敬語を使わないといった対等な友人関係になっており、行動力もある。兄の暁生を「私の王子様」として強く慕っており、彼との肉体関係についてさえも「王子様だから好きにしていい。」と言い切るほどだったが、その過剰な想いが結果的に暁生を自殺に追いやることになる。それ以来、アンシーは暁生の幻影に支配され続けている。物語終盤でウテナが姿を変えた車に乗って「外の世界」への脱出を試みた際に兄の幻影を振り切ることに成功し、ウテナと共に「外の世界」へと旅立っていった。

チュチュ …… こおろぎ さとみ(34歳)
 アンシーのペットであり、友達。キーホルダー付きぬいぐるみ程度の大きさで、耳の大きな猿に似ている。オス。鳳暁生とお揃いのネクタイとイヤリングをつけている。アンシーの心のメタファーとしての役割も持っている。
 劇場版には「牛のナナミ」が登場するシーンにわずかに登場するだけで、本筋に関わることは無かった。

桐生 冬芽(きりゅう とうが)…… 子安 武人(29歳)
 鳳学園の高等部二年で生徒会長。6月4日生まれの双子座。血液型は A型。
 鳳学園一のプレイボーイ。桐生七実の兄。西園寺莢一とは幼なじみで、同じ剣道部に所属している。生徒会メンバーで唯一「世界の果て」と呼ばれる人物と通じ合っており、更にウテナに決闘で勝利したことのある唯一の人物でもある。前髪に朱色のメッシュを入れた赤いストレートの長髪に青紫の瞳。決闘の際は日本刀も騎士剣もどちらも使用できる。
 養子として育った過去があり、劇場版では養父に性的虐待を受けていたと思われる描写があった。TV 版では、上昇志向で周囲の者を利用し、陰謀によって勝利し、「薔薇の花嫁」も形式的にしか尊重しない徹底した利己主義者であり、「本当に友達がいると思ってるやつは、バカだよ。」とまで言い放つ。
 子供の頃に西園寺と共にウテナに出会った経験があるのだが、本人はその事実に物語の終盤になるまで気づかなかった。
 劇場版ではキャラクター設定が TV版と大きく異なっており、ウテナとも幼なじみになっている。裏表がありつつも高い志をもつ人物として描かれ、TV 版における御影草時や土谷瑠果、そしてディオスの役割を兼任している。物語の後半で、実は過去に、溺れた幼少期の有栖川樹璃を助けようとしてウテナの目の前で死んだ人物であったことが明かされる。そのため、ウテナ以外の学園の生徒たちは冬芽の存在を感知できないと思われる示唆も劇中で描写されていた。

桐生 七実(きりゅう ななみ)…… 白鳥 由里(28歳)
 冬芽の妹。13歳で中等部一年生。8月8日生まれの獅子座。血液型はB型。
 気が強く高飛車、非常にプライドの高い性格でお世辞にも人間が出来ているとは言い難い人物だが、心優しい一面も持っている。所謂極度のブラコンであり絶対的な存在である兄に近づく女は誰であろうと許せず、特にウテナとアンシーを事ある毎に目の敵にするが、その度に酷い災難に遭うというギャグキャラ的な側面も担っている。彼女がメインとなるエピソードでは、物語の本筋とまったく関係のない、シュールかつコメディタッチのものも見られる。
 実は彼女もデュエリストであり、兄にそそのかされる形でウテナに二度決闘を申し込む。武器は主に曲刀と隠し持っている短刀の二刀流で、兄に仕込まれた剣術の腕は侮れないものがある。薄いブラウンのウェーブがかった前髪を編み込んだセミロングの髪に黒目がちな紫色の瞳をしており、中学一年ながらも身長はアンシーよりも高い。当初は鳳学園の女子生徒の制服を着ていたが、冬芽がウテナに敗北してからは兄に代わって生徒会をまとめるようになり、決闘のときに着用する黄色い上着に黒ズボンの制服を常に着用するようになった。
 劇場版には「桐生七実」というキャラクターは登場せず、本筋にまったく関係のないお遊び映像に「牛のナナミ」が登場するのみだった。

西園寺 莢一(さいおんじ きょういち)…… 草尾 毅(31歳)
 鳳学園高等部二年で生徒会副会長にして剣道部の主将。8月25日生まれの乙女座。血液型は O型。
 ウテナの前の「薔薇の花嫁」所有者。冬芽とは幼なじみで、同じ剣道部に所属している。硬派として女子に非常にもてるが、実は間の抜けた部分もあることを知る友人からは影で「生徒会のピエロ」や「道化」と馬鹿にされている。不器用で単純、粗暴な性格で、女性に対しても純情と横暴の交錯するさまが描写されている。名前の「莢」は豆などの「さや」のこと。ウェーブがかかった緑の長髪に薄紫色の瞳。決闘に使用する武器は日本刀。
 子供の頃に冬芽と共にウテナに出会った経験があるのだが、本人はその事実に物語の終盤になるまで気づかなかった。冬芽とは旧知の間柄であり親友であると同時にライバルとしても意識していたが、次第に彼の表裏が激しい人間性を信頼しきれなくなり、現に幾度も彼の謀略によって貶められ関係が悪化したが、そういった徹底した利己主義こそが彼の強さであることを知る冬芽の数少ない理解者であり、後半以降は歪ながらもお互いに歩み寄り関係を修復しようとする姿勢が見られ、冬芽の心境の変化もあり、かつての少年時代の信頼関係を取り戻していった。
 劇場版でも最初に登場したアンシーの所有者であり、彼女への暴力からウテナは怒りを爆発させ、決闘を行った。終盤ではジープに乗って樹璃や幹と共に「外の世界」へ脱出しようとするウテナとアンシーを助け、別れ際にアンシーに「外で会えたら今度は堂々と口説き落としてみせる。」と言い残した。

有栖川 樹璃(ありすがわ じゅり)…… 三石 琴乃(29歳)
 生徒会メンバーでフェンシング部長代行(部長である土谷瑠果が病気休学中のため)。高等部一年の16歳。12月1日生まれの射手座。血液型は A型。
 高級ブランドのモデルに抜擢されるほどの美貌を持つ男装の麗人であり、彼女に逆らえば教師すら学園にいられなくなるという噂も流れる、誰もが恐れる不良としての一面も持ち合わせている。しかし、その美貌と男性的かつ凛然とした佇まいで、学園内での女子人気はあの冬芽にも匹敵するほどだった。幼なじみで親友の高槻枝織を長年に渡り密かに意識し、彼女の写真をペンダントに入れている。枝織に自分の本心を伝え、結ばれることを願いつつも、それを自ら否定する葛藤の中で決闘ゲームに参加している。オレンジ色の縦ロールの髪に青い瞳。決闘に使用する武器は主にフェンシングのエペ。
 TV 版では二度ウテナと決闘するが、偶然の事故や自分からの決闘放棄で敗北したため、剣の実力で敗北したことはない。
 劇場版では枝織との関係が TV版と大きく異なっており、束縛と服従を強要する枝織を振り払いたがっている。過去に重要な接点があったために冬芽のことは知っているが、彼女自身の発言から、冬芽が彼女にとって会うことの叶わない人物であることが伺える。終盤で西園寺や幹の乗るジープを運転して現れ、「外の世界」へ脱出しようとするウテナとアンシーを助けた。ジープには「 WAKABA 」というロゴとともに若葉マークのステッカーが付けられていたが、彼女が運転の初心者かどうかは不明である。なお、日本の公道でジープを運転できる年齢制限は18歳以上である。

薫 幹(かおる みき)…… 久川 綾(28歳)
 生徒会の役員で、13歳にして大学生のカリキュラムを受ける秀才の少年。中等部一年生。5月28日生まれの双子座。血液型は O型。
 フェンシング部に在籍する優秀な選手で、優れたピアノ演奏者でもある。中性的で整った外見をしており素直で人当たりの良い性格から、上級生のファンも多い。「薔薇の花嫁」としてのアンシーを求め、同時に彼女を一人の女性としても愛する。青い髪に青い瞳。物語の終盤で決闘ゲームに不信感を抱くようになり、決闘から手を引くことを決意する。その後、生徒会の集まりで決闘制度を取りやめようと提案する。
 劇場版でも TV版と同様に決闘者ではあったが、ウテナと決闘をすることは無かった。また、冬芽のことを知らないという発言があり、この場面は冬芽がすでに死亡していることを暗示していた。終盤で西園寺や樹璃と共にジープに乗って現れ、「外の世界」へ脱出しようとするウテナとアンシーを助けて、自分達もいずれは後に続くつもりだと伝え、「外の世界で会おう。」と言い残し別れた。

薫 梢(かおる こずえ)…… 本多 知恵子(34歳 2013年没)
 薫幹の双子の妹。13歳の中等部一年。5月28日生まれの双子座。血液型は O型。
 幹との現在の仲はよくない。毛先が外にはねた青い髪に青い瞳。幹に対して非常に屈折した愛情を抱いており、幹の心が常に自分のことで傷ついているように、幹の嫌がるような節操のない恋愛を繰り広げて傷ついた自分自身を幹に見せつける毎日を送っていた。その一方で、幹に親しく接する人物を攻撃することもいとわない。
 親と不仲らしく、学生寮に手紙が来ても読まずに捨ててしまう。「鳳暁生編」で、世界の果てからの手紙や親の再婚など、大人の都合に振り回される幹に「周りが汚れていたら、自分も汚れてほしいものを手に入れるしかない。」と、アンシーを手に入れるために二度目の決闘をするようにそそのかす。
 男性から人気があるらしく、友人からまた彼氏を変えたのかと問われると「変えてないよ、増やしただけ。」と返した。
 劇場版では、自分から離れようとする幹を刃物を持ち出してまで引き留めようとする。その後は登場しなかったが、学園の車庫に格納されていてクライマックスでウテナとアンシーを追い詰める大量の黒い車のひとつのナンバープレートに、梢の名前が書かれているという描写があった。

鳳 暁生(おおとり あきお)…… 及川 光博(29歳)
 鳳学園の理事長代行にして、アンシーの兄。9月15日生まれの乙女座。血液型は A型。
学園理事長の娘・香苗と婚約し、鳳家の養子となっている。理事長が病気で臥せっているため代行を務めているが、後にこれは暁生の策略の一環であったことが判明する。「黒薔薇会編」から登場する。
 「ディオスの剣」を委ねる決闘ゲームを仕組んだ「世界の果て」の正体であり、ディオス(王子様)の現在の姿である。いつからデュエリストたちが鳳学園に集まるように仕向け、鳳学園を実質的に支配していたのかは不明である。また決闘ゲームだけでなく、物語中盤の黒薔薇会による決闘を仕組んだ黒幕でもあった。当初は自分の後継者を選ぼうとしていたが、物語の後半でアンシーがウテナの身体からディオスの剣を引き抜く場面を目撃し、計画を変更して「王子様」に近い力を持つデュエリストの剣を用いて過去の能力を復活させようと企む。そのために自らウテナに近付き、彼女と恋愛関係に発展するという行動に出た。年齢に関しては不明な点が多く、数十年前から現在と変わらぬ容姿で学園の理事会関係者と会っている。
 ウェーブがかった長い銀髪に緑の瞳、褐色の肌。決闘に使用する武器は、ディオスの剣に似た黒いサーベル。
 「理想(本物のディオスの剣)」を失った王子様(ディオス)の「成れの果て」であり、「理想」に代わり「野望」を追い求めるという、ディオスとは対極的な存在となっている。野望の達成のためには犠牲もいとわず、鳳香苗を始めとする数々の女性を手篭めにして懐柔、従属させるなど異性を篭絡する術に非常に長けており、その結果として学園で最高の地位と権力を掌握している。
 劇場版では TV版と違って短髪になっているほか、体つきも痩身。妹であるアンシーに密かに想いを寄せ、眠る彼女を抱いていたが、ある時アンシーが自分を「王子様」として見ていたことを知り、それによって「外の世界」へ出るための「車の鍵」を失くして錯乱し、自殺してしまう。それ以降は冬芽と同様に「死んだ王子様」として登場し、アンシーを支配し続けていた。物語の終盤でウテナとアンシーが「外の世界」へ脱出しようとした際に巨大な車と化した「城」と共にアンシーの前に立ちはだかり、アンシーを永遠に縛り続けて二人の脱出を阻もうとしたが、二人に撃破され消滅した。
 当初の設定では、ウテナを影から見守るさわやかなキャラクターであったが、TV 版で暁生の声を担当した小杉十郎太(当時39歳)の演技によって性格が大幅に変更され、ストーリー全体にも影響を与えることとなった。

鳳 香苗(おおとり かなえ)…… 折笠 愛(33歳)
 鳳学園理事長の娘にして鳳暁生の妻。高等部三年。優しく女性らしい丸みを持った美人だが、内心ではいつまでも自分になつかず不可解な行動をとるアンシーに対して強い恐怖と嫌悪を抱いている。当初、暁生とは仲が良かったが、「鳳暁生編」では二人の仲が微妙なものになりつつあることを示す描写が出てくる。薄緑の髪に緑の瞳。
 劇場版では、暁生と婚約した当時の記録映像の中で暁生のスポーツカーに無言で微笑みながら乗っているカットと、発見された暁生の死体を見て泣き叫ぶシーンのみでの登場だった。

篠原 若葉(しのはら わかば)…… 今井 由香(26歳)
 ウテナの親友でクラスメイト。中等部二年生。3月14日生まれの魚座。血液型は O型。
 憧れていた西園寺に出した手紙が、ウテナが決闘ゲームに巻き込まれる発端となる。明るく人懐っこい明朗快活な性格でミーハーでもあるが、好きな人には尽くすタイプ。
 「黒薔薇会編」では、退学処分になった西園寺を匿う形で同居生活が始まり、密やかな幸せを得るが御影の策略によって破局。決闘ゲームに参戦することになり、親友ウテナと戦うことになってしまい彼女への羨望やアンシーへの嫉妬心を吐露するが、敗北することによって救われた。その後は何事もなかったかのように日常へ戻ったが、アンシーへの複雑な感情は完全に消えることはなかった。決闘に使用した武器は日本刀。
 劇場版では、序盤に転校生であるウテナに鳳学園の案内をするが、それ以降は活躍しなかった。終盤でウテナとアンシーを助ける樹璃たちの乗るジープに「 WAKABA 」のロゴと若葉マークが付けられていたが、このジープが車に変身した若葉かどうかは明言されていない。ラストシーンで1カットだけ、ウテナとアンシーのいなくなった学園で風見達也と一緒に歩く姿が映った。

風見 達也(かざみ たつや)
 若葉の小学校以来の幼なじみ。中等部二年生。「黒薔薇会編」から登場する。
 若葉が好きで、彼女の親友のウテナにラブレターを渡すように頼む。ウテナの助言により達也は若葉に想いを告げようとするが、若葉には意中の人(寮に居候させている西園寺)が他にいると知り、悩む。
 劇場版では若葉のボーイフレンドという設定だが、セリフはなく画面を横切る姿でしか登場しない。

高槻 枝織(たかつき しおり)…… 西原 久美子(32歳)
 樹璃の幼馴染み。高等部一年生。2月2日生まれの水瓶座。血液型はB型。
 おとなしく繊細なように見える外面とは裏腹に、彼女を知る者からは「花を腐らせる毒虫」と呼ばれるほど卑屈かつ狡猾、自己中心的な性格。幼なじみである樹璃に対して、劣等感から生まれた愛憎入り混じった感情を抱いており、彼女が自分に庇護的かつ優しく接するのは見下し馬鹿にしているからだと被害妄想を持っていた。樹璃と自分の関係を「光と影」と表現する。中等部までは鳳学園に在籍していたが一時転校し、その後「黒薔薇会編」で学園に再転入してくる。決闘に使用する武器はエペ。身長は幹と同じ。
 再転入後、かつてのような樹璃との交友関係を取り戻そうと接近していったんは拒絶されるが、樹璃の自分へのひそかな愛を知り、精神的優位に立てると喜びながらもそれを受け入れることができないことに悩む。
 劇場版では TV版の桐生七実や薫梢の役割を兼任し、幼少期に樹璃とともに冬芽を慕っていたという設定が加えられている。そのため、水難事故によって結果的に「私の王子様(冬芽)」を死なせてしまった樹璃をいまだに赦さず、一生「王子様」の代役を務めさせ続けようとして暗躍する。劇中で冬芽と会話していた数少ない人物のひとりだが、彼女と冬芽がいる空間には必ず他に誰もいない。終盤で攻撃的なデザインの紫色の車に変身して「外の世界」に脱出しようとするウテナとアンシーを追って妨害するが、最後は防音壁に激突して大破した。車になったときは時速500km で走行できる。

影絵少女 E子 …… 川村 万梨阿(35歳)
影絵少女 F子 …… こおろぎ さとみ
影絵少女 C子 …… 渡辺 久美子(31歳)
 夕方になると現れ、珍妙な、しかし意味深な影絵芝居を繰り広げる謎の存在。鳳学園中等部の演劇部に所属する生徒らしいが、学園内の看護士やラジオ番組の DJとしても登場している。TV 版では当初は A子と B子のみの登場で、C子は「黒薔薇会編」から登場した。
 劇場版では放送部員という役割で E子と F子が登場。C子はそのまま登場し、更にクライマックスでは、ウテナとアンシーの脱出劇の解説ナビゲーターとして無数の影絵少女が登場した(髪型は各自異なる)。ラストでウテナとアンシーが「外の世界」へ出た後、影絵少女たちは藁の人形となって消滅するが、藁人形になった E子と F子の胸にウテナとアンシーの名前が書かれた名札がつけられているという描写があった。

御影 草時(みかげ そうじ)
 鳳学園高等部三年生の生徒で、御影ゼミ(通称「黒薔薇会」)を主宰する天才。11月30日生まれの射手座。血液型は AB型。
 自らもデュエリストの一人だが、自身のいる根室記念館へ面会にやってきた悩める生徒たちの心の闇にカウンセリングを通して深く入り込み、心の闇を解放させ、黒薔薇のデュエリストに仕立てあげて決闘ゲームに介入した。
 実は肉体・精神ともに、数十年に渡って成長が停止している。かつては「根室教授」と呼ばれ、100人の少年たちと学園中心の「永遠」を手に入れるための研究を行っていた。後に学園理事会から派遣されてきた監察官・千唾時子(ちだ ときこ)に心を奪われ、不治の病を持つ彼女の弟・馬宮(まみや)に「永遠」を与えるために研究を完成させ、「城」を出現させることに成功した。しかし、その後に理事長・鳳暁生と時子が密会している所を目撃したことがきっかけで「永遠」に対する執着を失って「世界の果て」と契約し、利用されることになった。
 ピンク色の髪に茶色の瞳。「御影草時」という名前は根室記念館が焼け落ちた後に自らつけた偽名で、根室教授時代は紫のサングラスをかけていた。
 劇場版に御影草時と黒薔薇会は登場しないが、下降するエレベーターの中での対話を通して心の奥底へ「降りていき」、そして本音へ「到着する」という演出は再現されている。クライマックスでアンシーたちの脱出を阻止しようとする棺桶型の車の大群は、黒薔薇のデュエリストたちのイメージを踏襲している。


作中用語
暁の明星(あけのみょうじょう)
 夜明けの東の空に輝く金星のこと。金星は「暁の明星」、「宵の明星」とも呼ばれる。鳳暁生の名前のモチーフとなった星で、堕天使ルシファーの象徴でもある。

エンゲージ
 「婚約」の意味。アンシーを巡る決闘の勝者はアンシーと「エンゲージした」と称され、アンシーは勝者に服従する。

鳳学園(おおとりがくえん)
 物語の舞台。幼等部から高等部まである一貫校で、学生寮を備える全寮制。男子の制服は詰襟学ラン、女子の制服はセーラー服。
 TV シリーズでは海に面した小高い丘の上に建つ校舎だったが、劇場版では常に白亜の回廊や棟が一定の位置間を移動する空中要塞のようなゴシック建築の集合体にデザインされており、基部も全景もまったく推し量ることができない巨大な異空間と化していた。

世界の果て
 「薔薇の花嫁」を巡る決闘を仕組んだ黒幕。その正体はかつて「王子様」だったディオスの成れの果て・鳳暁生。

世界を革命する力
 薔薇の花嫁とエンゲージした者が手に入れるとされている力。作中でその具体的な内容が語られることはほとんどないが、デュエリストたちはそれぞれ異なる理由でこの力を欲し、ウテナに決闘を挑む。

ディオス
 決闘の際に、どちらか一方の決闘者に舞い降りて無敵の力を与える存在。その正体は鳳暁生の過去の姿であり、世界を救おうとした「王子様」。かつて人々の願いを叶えすぎたために傷つき、妹のアンシーによって封印された。そのため現在では無力な存在となっている。幼いウテナの元に現れて「薔薇の花嫁」と逢わせており、その時にウテナに「薔薇の刻印の指輪」を贈った。元々彼が持っていたとされる「ディオスの剣」は、彼自身の「理想」が具現化したもの。

ディオスの剣
 かつてディオスが持っていたことから名づけられた。見た目は薔薇をモチーフとしたサーベルで、王子様が持つにふさわしい気品あふれる形をしている。決闘の時には薔薇の花嫁であるアンシーの詠唱とともに胸から出現する。

デュエリスト
 「決闘者」の意味。薔薇の刻印の指輪を持ち、薔薇の花嫁とエンゲージしている者に挑戦する権利がある。

薔薇の花嫁
 姫宮アンシーのこと。決闘の勝者とエンゲージする。実は、真の薔薇の花嫁を引き出すための影武者「魔女」だった。 

薔薇の刻印の指輪
 天上ウテナと鳳学園生徒会のメンバーが持っている薔薇のしるしが刻まれた指輪。これを持つ者のみが決闘に参加することができる。世界の果てから選ばれた者のみに送られる指輪だが、実は真の薔薇の花嫁を探し当てるという目的があった。
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怪獣映画的な、余りに怪獣映画的な  ~映画『大怪獣空中戦 ガメラ対ギャオス』~  資料編

2014年11月06日 23時42分52秒 | 特撮あたり
映画『大怪獣空中戦 ガメラ対ギャオス』(1967年3月公開 87分 大映)

 映画『大怪獣空中戦 ガメラ対ギャオス』は、大映が製作し1967年3月公開された日本の特撮映画作品。「ガメラシリーズ」第3作。

 本作の制作当時、「ゴジラシリーズ」で知られる東宝は世界的に有名なモンスターキャラクターのうち、「フランケンシュタインの人造人間」と「巨大猿キングコング」を題材にして特撮映画化していた。「ガメラシリーズ」の大映はこれに対抗して、世界市場に通用するモンスターとして「吸血鬼ドラキュラ」を題材に選び、その翻案怪獣映画として『大怪獣空中戦 ガメラ対バンパイヤー』の企画を立てた。この「吸血怪獣バンパイヤー」が光を嫌う夜行性の吸血コウモリの怪獣「ギャオス」となり、本作として完成した。
 シリーズ第1作『大怪獣ガメラ』(1965年)でガメラが灯台を襲った際に、子どもを掌に乗せて助けたシーンが、観客の子どもたちに大反響を呼んだことから、大映の永田秀雅プロデューサーの意向で、「ガメラシリーズ」は子どもを主な対象とした娯楽映画へと路線変更された。ただし、現場の制作スタッフは急激な変更は採らず、山奥を開発する道路公団と土地の値上げを狙って開発に反対する村の人々のエゴが描かれる点において、前作『大怪獣決闘 ガメラ対バルゴン』(1966年)の人間ドラマ路線を引き継いだ作劇が行われていて、脚本を担当した高橋二三(にいさん)も、「『ガメラ対ギャオス』までは子ども向けではなかった。」と語っている。とはいえ、湯浅監督と永田プロデューサーの志向する「子どもの味方」というガメラの性格は本作で決定づけられることとなった。
 前作『ガメラ対バルゴン』よりは製作予算が縮小されたとは言え、通常映画における予算の約3倍の「A級予算」を組んで作られたガメラ映画は、本作が最後である。この予算縮小のため、本作からは湯浅監督が本編と特撮の両方を監督することとなり、この体制は以後のシリーズに続いていった。
 この映画においては、空は飛べるものの陸上戦と水中戦を得意とするガメラに対して、空中戦を得意とし地上と水中は不得手なギャオスという運動性能面の対比、また「硬い甲羅に覆われて接近戦に優れたガメラ」と、「防御力は弱いが何でも切れる遠距離武器を持つギャオス」という戦闘能力の対比で2大怪獣の能力の違いがはっきりしており、それが印象的に描かれ、闘いに強い緊張感を見せた。

演出
 前作『大怪獣決闘 ガメラ対バルゴン』では特撮監督を務めた湯浅憲明は、予算の縮小された本作では本編と特撮を兼任している。「怪獣映画が大好き」という湯浅監督は、「できれば全編怪獣だけが出てくる映画をやりたかった。」と述べるほどで、本作でも観客である子どもたちを飽きさせない、様々なアイディアを脚本の高橋二三とともに組み込み、サービス満点の怪獣映画に仕上げている。
 湯浅監督によると、前作『対バルゴン』のあとスタッフで反省会があり、「怪獣が出てこないと観客の子どもたちが画面に集中しない。」との意見から、本作では冒頭からスピーディーにギャオス出現につなぐ演出となっている。また、劇中で英一少年がガメラに乗る場面での、劇場での子どもたちの歓声はすさまじいものだったそうで、以降の作品が、より子どもの視点にあわせた作風となるきっかけとなった。ガメラが海底で傷を癒すシーンと、囲炉裏端で英一が眠るシーンがダブる演出があるが、これも湯浅監督によれば、英一とガメラの心のつながりを描写したものだった。ギャオスが新聞記者を食べるショッキングなシーンがあるが、記者は英一を見捨てて逃げた「悪い人」として描かれており、明確に因果応報を描くことで子どもを必要以上に怖がらせないように配慮しており、『対バルゴン』との違いがあるという。
 ギャオスなど、ガメラシリーズの敵怪獣は身体に様々な武器を備えているが、こうしたアイディアを凝らした怪獣同士の戦いに注力し、自衛隊の活躍場面などは意図的に短くしたという。また怪獣の登場シーンではカットを多用し、このカット割りの多さが大映特撮の特徴となっている。
 劇中ではギャオスの性質について、対策本部で科学者たちによる科学的な解説が入るが、湯浅監督は「怪獣が出現する時点で理屈ではない。怪獣映画に理屈を持ち込むべきでない。」として、本来はこういったシーンは大嫌いだと語っている。このため、本作に登場する青木博士は、東宝特撮映画に登場する博士たちのようには活躍しないのだという。ギャオスが脚を再生させるシーンが対策会議の途中に挿入されるが、これも湯浅監督によれば、大嫌いな会議シーンで間延びさせないための工夫だったという。
 英一少年が大人たちの対策本部に割り込んでアイディアを連発するが、これも脚本の高橋二三と「全部、子どもに考えさせることにしよう。」と打ち合わせたことによるもので、監督自身の「真実はすべて純粋な子どもの目に映るものだ。」という考えから、劇中の「大人たち」には、あえてあまり活躍の場を与えていない。これはシリーズ全作に共通するメッセージであるということで、湯浅監督は「夢というのは無茶苦茶の中にあると思う。」と語っている。

特撮
 前作に続いて、特撮シーンの撮影には特殊造形スタッフのエキスプロダクションが全面協力しており、怪獣の電飾やミニチュア操演などを担当している。
 大映は現像所を持っていなかった。このため、ギャオスの発射する超音波メスの光学合成には莫大な経費がかかり、前作『ガメラ対バルゴン』に比べて予算が縮小された本作ではまず、予算に直結するこの超音波メスをギャオスに何発吐かせるかが問題になったという。
 このギャオスの超音波メスで車を左右に両断されながらもなおもこれを走らせ、特ダネに拘る中日新報記者のギャグシーンがあるが、この「真っ二つになった自動車」は、東京モーターショーに出展されていたトヨタ自動車の内部展示用の車両を、脚本の高橋二三が見つけてきて借りたものであり、左右それぞれの切断車体を戸板に載せ、補助輪を付けて走らせた。
 題名に『大怪獣空中戦』と謳っているだけあって、湯浅監督はガメラとギャオスの空中戦描写に力を入れたという。両怪獣の空中戦は、主に移動背景を使って行われた。調布の大映東京撮影所内に京王電鉄から借りた線路のレールを敷き、トロッコに約10メートルの長いホリゾント板を載せて滑らせ、両怪獣のミニチュアの操演と絡ませてスピーディーな空中カットの撮影を実現している。新聞記者がギャオスに掴まれて持ち上げられるカットもこの手法だった。
 シリーズで初めて、ガメラが足だけのジェット噴射で飛行する場面が登場する。回数は一度だけで、飛行というよりギャオスに跳びかかるような形であったが、以降のシリーズ作品では回転ジェットと並ぶ飛行スタイルとして定着していくことになる。

 本作は名古屋近辺を舞台とするが、撮影は調布の大映東京撮影所で行われ、名古屋弁を話す登場人物はひとりもいない。本作の主演俳優は本郷功次郎だが、湯浅監督は「怪獣映画での立ち役は怪獣。ガメラが立ち役であって、本郷功次郎さんはどんなに二枚目でも『もたれ役』なんですね。怪獣を目立たせる役目なんだ。ですから、あまり印象に残る演技はできない。蛍雪太朗さんとか、上田吉二郎さんの方が目立つんですよ。」と語っている。


あらすじ
 富士火山帯に属する太平洋伊豆諸島の明神礁や三宅島雄山が噴火(1952年9月の実際の明神礁噴火のニュース映像を使用している)し、さらには富士山が噴火。噴火のエネルギーにおびき寄せられてガメラが飛来し、火山の炎を食い始める。ガメラ調査のために記者会見が行われ、取材陣や科学者たちを乗せたヘリコプターが飛び立ったが、山梨県八代郡(架空の地名)の二子山上空で地中から放出される緑色の光を目撃した直後に、突如として黄色い怪光線に襲われ、真っ二つにされて墜落した。
 一方、東名高速道路建設予定地である二子山そばの山村では、金丸村長の旗振りのもと、用地賠償金の吊り上げを狙った反対同盟の激しい着工妨害が続いており、早期決着を迫る道路公団開発局との間で、工事責任者の堤主任は頭を悩ませていた。金丸村長の孫・英一は二子山を遊び場にしていたが、怪光現象の取材にやってきた新聞記者に案内を頼まれて共に二子山に向かい、不気味な洞窟に入ったところで突然の地震に見舞われた。英一を見捨てて逃げ出した記者は、地中から現れた超音波怪獣ギャオスに喰われてしまい、続いて英一が捕まえられる。二子山の怪光現象は、富士火山帯の異常活動によって目覚めた怪獣ギャオスの巣穴から放たれたものだったのだ。
 駆けつけた堤たちの目の前で、今まさにギャオスに喰われそうになる絶体絶命の英一。そこへ間一髪でガメラが飛来し、2大怪獣の熾烈な対決が幕を開けた。


登場する怪獣
大怪獣ガメラ
年齢     …… 8,000歳
身長     …… 60メートル
飛行速度   …… マッハ3
水中潜航速度 …… 150ノット(時速およそ300キロメートル)
エネルギー源 …… 熱エネルギー
主な武器   …… 火炎噴射、怪力、回転ジェット

 北極の氷の中で眠っていた古代怪獣。一説にはアトランティス大陸に生息していたとされる。国籍不明の原爆搭載機の墜落爆発により、閉じ込められていた氷が割れて覚醒。南下して最終的には日本に上陸し、破壊の限りを尽くす。当初は凶暴な怪獣として描かれていたが、人間の子どもに対しては友好的な面を見せていた。一度は「Z計画」と呼ばれる作戦により巨大ロケット内に閉じ込められ地球から火星に追放されたが、ロケットが小惑星との衝突により大破したことで解放され、地球に再来する。
 その後は人間に対して具体的な敵意を示すことは無く、エネルギーの摂取時以外にはほとんど出現しなくなるが、宇宙からの侵略者や怪獣によって子どもが危機に陥るような事態が起こると、何処からともなく現れて子どもたちを救っていく「正義の怪獣」、「子どもたちのヒーロー」として描かれる。
 口からの火炎放射以外に、外観に似合わぬ俊敏な運動能力と怪力を誇るが、特筆すべきはその生命力で、大きな傷を負った際も、海中で休息をとることによって傷を癒す。
 弱点は低温で、北極の氷の下に長い間閉じ込められていた他、自衛隊の冷凍爆弾でも短時間活動を停止している。
 甲羅は頑強で、たいていの攻撃は跳ね返せる。実際のカメと同じく、敵に攻撃されると甲羅に引っこんで防御を図ることも多い。
 熱をエネルギー源とするため体内に火力発電所のような組織を持ち、マグマ、高圧電気、石炭、石油、ウランを常食とする。炎そのものも吸い込むようにして食べることもでき、発電所や火山活動が活発な地域に出没することが多かった。熱エネルギー目当てに噴火している火山の火口に自ら飛び込むこともある。火器を用いた攻撃などは逆に吸収してしまう。

 着ぐるみの造型はエキスプロダクションが担当し、前作『大怪獣決闘 ガメラ対バルゴン』のぬいぐるみ(2代目)の、顔つきを修正したものが使用された。これまで鋭かった目つきが、子どもの味方らしく優しくなっている。
 前作までは、着ぐるみ役者が入ったままガメラに本物の火を吹かせることがあったが、さすがに危険過ぎるという意見により、第1作で作られた上半身のみのぬいぐるみに炎を吐く仕掛けを仕込み、撮影に使用した。
 「英一少年がガメラの甲羅に乗る」というシーンのために、20メートル四方の巨大な実物大のガメラの甲羅が作られた。また本作では、機電を組み込んだ回転ジェット形態の等身大ミニチュアが用意され、着ぐるみのギャオスとぶつかり合っている。


超音波怪獣ギャオス
身長   …… 65メートル
翼長   …… 172メートル
飛行速度 …… マッハ3.5
出身地  …… 日本列島中部大断層地帯(フォッサマグナ)

 コウモリをモチーフにした飛行怪獣。日本のフォッサマグナ付近の地下空洞で眠っていたらしく、富士山の噴火によって復活した。当初は地下空洞から超音波レーザーメスを発射してヘリコプターを切断して撃墜、搭乗員を捕食し、やがて夜間に空洞から外へ出て人や家畜を襲うようになった。尾は短く、ジェット戦闘機の垂直尾翼に似ている。首は太く短く、この部分で背骨が二又しているため、首が回らない(この首の骨が超音波の発振源である)。頭部からは光のシグナルを発し空腹時は頭部の後ろが緑に、身体に危険が迫ると頭頂部が赤く発光する。光の他に炎も苦手であるが、胸から黄色い霧を噴射して鎮火できる。また、太陽の紫外線を浴びると体細胞が破壊される性質がある。しかし肉体の再生能力が非常に高く、切り落とされた部位も時が経てば再生される。
 主に空を活動域にしており、地上では動きが比較的緩慢である。復活後に英一少年を襲おうとした際にガメラと対決。後半で遂に都市部へ進出し、名古屋城や新幹線などを襲った。

 劇中では英一少年の「鳴き声がギャオーって聞こえるもん。」という発言から「ギャオス」と命名されたが、これは永田秀雅プロデューサーの発案だった。映画公開時のポスターや宣伝では「人喰いギャオス」と謳われ、「人を喰う」というキャラクターが強調された。
 デザインは井上章、造型はエキスプロダクション。人の入るタイプの着ぐるみは、翼を拡げたタイプと折りたたんだタイプの2体が造形された。腹まわりに蛇腹状の段差がある。目と耳に電飾が仕込まれている。
 飛行操演用には6尺、3尺、1尺サイズのミニチュアが使われた。ポーズの違うものや、実物大の足の指などといったパーツ別のものを合わせ、合計30種ほど作られたという。ギャオスが人工血液の噴霧装置の周りを飛ぶシーンでは、画面手前を6尺、画面奥を3尺サイズのミニチュアが飛ぶという演出で、空の遠近感を出している。また、3人がかりで指を動かす実物大の手も造られた。
 翼を広げたタイプの着ぐるみは、のちにシリーズ第5作『ガメラ対大悪獣ギロン』(1969年)に登場した「宇宙ギャオス」に流用された。
 シリーズ第8作『宇宙怪獣ガメラ』(1980年)では、新たな個体が宇宙海賊船ザノン号にコントロールされて名古屋を襲撃した(登場シーンは全て『ガメラ対ギャオス』の流用)。


主なキャスティング
堤 志郎      …… 本郷 功次郎(29歳 2013年没)
金丸 辰右衛門   …… 上田 吉二郎(64歳 1972年没)
 ※村長
金丸 すみ子    …… 笠原 玲子(21歳)
 ※金丸村長の孫娘
金丸 英一     …… 阿部 尚之(子役)
 ※金丸村長の孫ですみ子の弟
マイトの熊     …… 丸井 太郎(31歳 公開年の9月に死去)
八公        …… 蛍 雪太朗
青木博士      …… 北原 義郎(38歳)
自衛隊中央部司令官 …… 夏木 章(39歳)


主なスタッフ
監督(本編・特撮兼任)…… 湯浅 憲明(33歳 2004年没)
製作         …… 永田 秀雅
脚本         …… 高橋 二三(41歳)
音楽         …… 山内 正(39歳 1980年没)
特撮美術       …… 井上 章(38歳)
怪獣造形・操演    …… エキスプロダクション

エンディング主題歌
『ガメラの歌』(作詞・永田秀雅、唄・ひばり児童合唱団)
 ※予告編と本編のエンディングに使用された。バックにシリーズ3作のハイライトシーンが流れるが、これは海外輸出の際に上映時間の規定を満たすための大映の意向による処置で、以後の定番形式となった。
コメント
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