制裁対象に指定されたイワニシビリ氏=ロイター
【トビリシ=田中孝幸】
バイデン米政権は27日、東欧ジョージアの最高実力者と目されているイワニシビリ元首相を制裁対象に指定すると発表した。同氏が欧州連合(EU)との統合を求める国民を弾圧し、ロシアを利してきたことを理由に挙げた。
政権与党「ジョージアの夢」は最近、創設者で大富豪のイワニシビリ氏の指導の下でロシア寄りの姿勢を鮮明にしていた。今回の措置には、東欧へのロシアの影響力の拡大を食い止める狙いがある。
今回の制裁はイワニシビリ氏の米国への渡航を禁止するほか、米国内の資産を凍結し、米国民と企業に同氏が関わる金融取引や商取引を禁じる内容。同氏のビジネスに関与した企業や金融機関は米国の二次制裁の対象になり得る。
イワニシビリ氏はソ連崩壊後のロシアで事業を広げ、ジョージアの国内総生産(GDP)の2割以上に当たる資産を持つとされる。ただ、今回の強力な制裁によって同氏や同氏が主導する企業集団は国際金融ネットワークから事実上締め出される公算が大きい。
同氏や政権与党が事実上支配する多数の企業に大きな影響が出るとみられる。経済面の利権が損なわれることで、政権の求心力の低下は避けられそうにない。
このタイミングの同氏への異例の制裁は、東欧各国での親ロシア派勢力の伸長に対するバイデン政権の強い危機感を映している。
ジョージアの政権与党は2022年のロシアのウクライナ侵略の開始後、ロシア寄りの路線を一気に強めた。11月28日にはコバヒゼ首相が国是としてきたEU加盟に向けた交渉の開始を28年末まで見送ると発表した。
抗議する市民のデモは1カ月にわたって続いているが、政権側は強硬な姿勢を崩さない。ロシアのプーチン大統領はジョージアの方針転換を高く評価しており、ロシア側からの働きかけがあったとの見方が広がった。
旧ソ連圏のモルドバでは11月の大統領選で親ロ派の候補が善戦した。投票妨害や有権者の買収などロシアによるとみられる選挙への大規模な干渉も報告された。
現政権は、来年の議会選で親ロ派に勝利させるためのロシアの工作が激しくなると警戒する。
北大西洋条約機構(NATO)やEUに加盟するルーマニアでも11月の大統領選の第1回投票で極右の親ロ派候補が首位につけた。
ロシアの介入の疑惑が広がり、憲法裁判所が選挙を無効とする異例の展開となった。
東欧ではすでにハンガリーやスロバキアが親ロ的な外交政策を展開している。今回の制裁は、ロシアと協力して米欧を揺さぶりにかかる東欧の指導者たちへの警告の意味合いもあるとみられる。
ただ、来年1月に発足するトランプ次期米政権でイワニシビリ氏ら権威主義的な指導者への厳しい姿勢が維持されるかは不透明だ。与党・共和党では中国やロシアに接近するジョージアを問題視する意見が広がっているが、トランプ氏の支持層にはイワニシビリ氏寄りの立場を示す支持者も少なくない。
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