米政府は、中国勢が2029年までに旧世代型半導体の世界シェアの半分を握ると懸念している=ロイター
【ワシントン=八十島綾平】
バイデン米政権は23日、中国製の旧世代型「レガシー半導体」について、中国政府による支援や不当廉売に関する実態調査を始めたと発表した。
レガシー半導体は付加価値は低い一方で防衛・医療・自動車など幅広く利用されている。中国製が不当な価格で販売シェアを高めることに歯止めをかける狙いだ。
レガシー半導体は旧来型の技術を使う成熟品ながら、電気自動車(EV)の電圧制御に加え、エアコンや冷蔵庫などの省エネ性能を上げるためのインバーターにも広く用いられている。
米政府はこれまで、人工知能(AI)向けなど先端半導体を対象に対中輸出規制を進めてきたが、用途が広いレガシー半導体についても規制の目を細かくする。
今回の米政府による調査は通商法301条に基づくもので、米通商代表部(USTR)が実施する。産業界からも意見を募ったうえで、2025年3月に公聴会を開く。
調査はまず、半導体材料である炭化ケイ素(SiC)基板の中国の製造実態について焦点をあてるという。レガシー半導体に対する中国政府の支援策や過剰生産の影響についても調査する。
USTRは23日に官報に掲載した通知文書で、中国が過去6年間でレガシー半導体のうち「ロジック半導体」の生産能力を倍増させたと分析した。2029年までには世界全体の生産能力の約半分を占めるようになる恐れがあると指摘した。
中国政府の支援策などが過剰生産や不当廉売につながり、これがシェア上昇につながっていることを懸念している。不公正なビジネス慣行で輸出される中国製から米国の半導体産業を守ることが調査の立て付けだ。
中国政府は、2010年代半ばから半導体産業の振興に向けた基金を設置。地方政府も合わせると10兆円規模の支援を進めてきた。
輸入関税のさらなる引き上げも
米政府は25年1月から中国産半導体にかける追加関税を2倍の50%に上げる方針を公表済みだ。この対象にはレガシー半導体も含まれる。
今回始めた調査は第2次トランプ政権に引きつがれる見通しだが、結果次第ではレガシー半導体に対するさらなる追加関税や輸入規制などの措置につながる可能性がある。
バイデン米政権はCHIPS・科学法を通して、米国内でのレガシー半導体の供給網強化に20億ドル(3000億円)超の支援を割り当ててきた。
米ホワイトハウスは、レガシー半導体は軍事分野でも多く使われているため「連邦政府が安全で信頼できる半導体を調達できることが非常に重要だ」としている。
中国産の半導体は完成品に「部品」として組み込まれて米国内に輸入されるケースが多い。
米商務省は12月公表の調査報告書で、調査対象とした企業の製品のうち、売上高ベースで約66%の製品が中国製のレガシー半導体を少なくとも1個は使っている可能性があるとした。
同省は「使用量全体に占める割合は小さいが、多くの製品で一貫して使われている」と指摘している。レガシー半導体のシェアは価格面では全体の1%程度にとどまる一方、幅広い製品で使われているという。
米政府による今回の調査は、中国製品がこれ以上世界の半導体市場で優位な地位を占めないための「予防的措置」の意味合いも強い。
日本企業には追い風か
レガシー半導体は、日本企業が世界市場で一定のシェアを持つ分野でもある。例えば電圧制御に用いるパワー半導体の分野では、英調査会社オムディアよると三菱電機、富士電機、東芝、ロームの4社が世界シェア10位以内に入っている。
日本勢同士がシェアを競い合っている一方で、米中対立を背景に日本政府もレガシー半導体の国内生産の強化を図っている。経済産業省が補助金を出し、九州地方を中心に企業の投資も相次いでいる。
米政府が中国産レガシー半導体への締め付けを厳しくすれば日本製品の需要が高まる可能性があり、これは日本勢にとっては追い風となる。
パソコンやスマホの半導体や、電気自動車(EV)に使われるパワー半導体とは。TSMCやラピダス、キオクシアなどのメーカーの動向や供給不足、シェア推移など関連業界や市場の最新ニュース・解説をタイムリーに発信します。
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