Risa’s 音楽雑記

ピアニスト 山形リサのブログです。
音楽の話を中心に、日常の出来事などを気ままに綴っています。

続・ネルセシアン先生

2006-12-16 20:50:45 | Weblog
ネルセシアン先生ネタ第2弾です。

公開レッスンを聴講していたときのお話です。

生徒の方がレッスンの最初に曲を通して演奏しました。
会場から小さい拍手が起こりました。

ネルセシアン先生
「どうしてあなたは拍手に対して何の反応も示さないのですか?今は公開レッスンで聴衆がいるのですから、聴衆から拍手をいただいた時には演奏家として何らかの返礼をすべきですよ。

我々クラシックの演奏家というのは特別です。
世の中のあちこちにはポピュラー音楽やロック音楽があふれていますが、彼らのコンサートと我々のコンサートではまったく違います。
彼らのコンサートでは、聴衆も一緒に歌ったり、踊ったり、お祭りのようですし、ときには演奏者が聴衆に話をします。
それは聴衆と意思疎通するという意味ではとても簡単な方法ですし、非常に効果的です。

ですが、我々クラシック演奏家は聴衆に話しかけたりすることはできませんし、そんなことは意味がありません。
私たちは言葉ではなく、自身の演奏、音のみで聴衆と意思疎通を図らねばなりません。

なぜなら、クラシックの演奏会に来る聴衆も特別だからです。
彼らは私たちの演奏を聴きながら、演奏家や作曲家の心、意図を感じたり、音楽そのもの、もしくは自分の心を感じるために精神を集中させています。
瞑想であったり、回想であったり、それぞれに違うでしょう。
普段とは違う非日常的なこと・・・・。
きれいな服を着て、いつもにはない時間を過ごしに、「特別なひととき」を大切に来ているのです。

逆に言えば、私たちの演奏はそうした聴衆がいて初めて成り立つのです。
「聴こう」という意思を持って静寂を保ってくれる場所でこそ、私たちの演奏は生きてきます。
ですから私たちは正装をして、演奏で聴衆に応えなければいけません。
他に与えられている自由といえば、お辞儀をすることくらいでしょうか。」

素敵なお話ではありませんか?
当たり前のことではあるのですが、こんなにわかりやすくお話してくれる方はなかなかいないと思います。
そして、私自身演奏家ではありますが、その「特別なひととき」の虜にされている一人であることは間違いないと確信します。