晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

垣根涼介 『室町無頼』

2021-07-18 | 日本人作家 か
その昔、元アナウンサーでタレントの徳光和夫さんがなにかのテレビ番組に出ているのを観まして、それが競艇だか競馬だかに行って、同行していた別のタレントさん(どなたか忘れましたが)が、どうやって買ったらいいかと訪ねると、徳光さんが「好きに買ったらいい」といって一句「神は神 仏は仏 俺は俺」と詠み、笑ってしまったと同時に感心しました。今でもこの句はたまに思い出します。誰かに惑わされたり誰かの意見を鵜呑みすることなく、自分の信じた道を進むのみだなと思います。

さて、垣根涼介さん。過去に何作か読みましたが、作風がけっこうバラエティに富んでいます。時代小説を読むのははじめて。この作品は直木賞候補になったんですね。

物語の時代は、室町時代の中期から応仁の乱の直前あたりまで。過去に大河ドラマや歴史小説で室町時代を扱った作品はありますが、そのほとんどは応仁の乱以降、つまり戦国時代。あるいは南北朝時代で室町初期ですかね。史上初の太政大臣と征夷大将軍の二つの位に就任した三代将軍の足利義満という人がいますが、日本史的にあまりフィーチャーされません。あと、文化的にも、室町時代あたりに、いわゆる「日本文化」が出来上がった、とされています。

牢人の親子がどこぞの農村で厄介になっています。父は体を悪くしていて、息子の才蔵が働きに出て、気の毒に思った寺の和尚が才蔵に読み書きを教えてあげます。やがて父が死に、才蔵は京へ出て天秤棒を担いでの振り売りをします。ある日、ふたりの男に「金を出せ」と脅されますが、無我夢中で天秤棒でやっつけます。この頃の京はほぼ無法地帯で、才蔵は「自分の身は自分で守る」と強く思い、天秤棒で自己流の棒術の稽古をします。やがて、土倉(質屋と金貸し業)の用心棒にスカウトされます。三か月ほど経ったある夜、いきなり土倉が襲われます。相手は二十人くらい。才蔵は「今夜死ぬのだな」と覚悟を決めて立ち向かいます。そこに、賊のリーダーらしき男が登場します。才蔵の棒術が全く通用せず、相手の一撃で意識を失います。

才蔵が目を覚ますと、そこには土倉を襲った賊が。周囲から「御頭」呼ばれている人物の名は「骨皮道賢」。無法者およそ三百人のリーダー。はじめこそ「使える」と思い殺さずに連れてきたのですが、道賢の手下としては使いづらい、ということで、他の人に預けることに。それは「蓮田兵衛」という、何をやってるのかよくわからない男。蓮田の家にはいろんな人が出入りしていて、飯を食べたり泊まっていったり。でもお金を取ろうとはしません。
ある日のこと、蓮田は河内まで行くので才蔵について来いといいます。道中には関所が設けられており、通行料を払わなければなりません。が、蓮田はあっという間に門番の一人を倒し、もう一人から銭を奪います。次の関所では門番をなぎ倒し、さらに関所に火をつけるのです。じつは道賢らは京の公方の警護を請け負っていて、これには才蔵も「どういうおつもりでござる」と聞きますが、蓮田は笑って「道賢の困った顔が浮かぶわい」と余裕。
河内に着きますが、蓮田は村人らと情報交換をし、帰りには摂津や和泉にも立ち寄って同じように村人と語らいます。才蔵は、彼らから「京の武士や坊主などにこれ以上いい気にさせてたまるか」というすさまじいエネルギーを感じ取ります。

蓮田は才蔵をある人物に預けることにします。その人物とは琵琶湖のほとりに住む老人。じつはこの老人、今では廃れてしまった棒術の達人。才蔵は手も足も出ません。老人は、才蔵に一歩間違ったら命を落としかねない凄まじい修行をするのですが・・・

命がけの修行を終えて、才蔵は京に戻り、蓮田のもとへ。「吹き流し才蔵」という二つ名は、京洛界隈ではちょっとした有名人。その間、蓮田は農民や地侍らの蜂起の計画を立てて・・・

この話は、のちに「土一揆」と呼ばれることになる、現代でいうと過激なデモというか、こころみに調べてみると「民衆の政治的要求活動」とあります。この時代(応仁の乱の直前)あたりは幕府の政治が全く機能しておらず、土一揆は「割とマジで政府の転覆を狙った」ある種のクーデター未遂といいますか、飢饉で農民の暮らしがきつくて年貢の減免要求など同じ部分はありますが、そういった意味では江戸時代の百姓一揆とはちょっと違っていますね。文中では、この土一揆がきっかけに「足軽」という、武士(職業軍人)ではない、平時は農民の傭兵部隊が合戦で重要視されてゆくことになるとあります。

この物語で、才蔵、道賢、蓮田と3人の男と関係する芳王子という遊女が出てきます。この人物の役割が実にいいですね。

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