この「吉原裏同心」シリーズ、第一巻を投稿したのがいつだったかと当ブログを調べますと、2017年の5月。それから4年半ですか、読み始めた頃はこんな日が来るとは思わなかった、といきなり杏里の「オリビアを聴きながら」が登場してしまうてなもんですが、「吉原裏同心抄」という新シリーズが控えてまして、さらに「新・吉原裏同心抄」という新シリーズもあって、ところでどんな話なんだろうと、ちょっとあらすじを見たら「あれ、うーん、ちょっと」といった展開でして、今のところは新シリーズに手を出すかどうかは考え中。
いつものように吉原に(出勤)した幹次郎、会所に入ると客が。しかも女性。はてなんだろうと座敷に入ると、二十歳前後の女性。澄乃(すみの)というこの女性、なんでも吉原で働きたい、とのこと。しかも遊女ではなく、会所で。剣の道場の師範だった父が亡くなって、遺言に「なにかあったら吉原会所にお世話になりなさい」といわれていたそうですが、さしあたって働けそうなところといえば、髪結か茶屋。しかし、本人は「会所で働きたい」そうで、これには頭取の四郎兵衛も番方の仙右衛門も困惑。しかも「女裏同心になりたい」ときました。まあ、遊女が男の格好で足抜けしようとしたら、同じ女なら見抜ける、というのですが、肝心の剣の腕の方は、会所の若い衆なら太刀打ちできないほどの強さはあります。
というわけで、幹次郎が澄乃の面倒を見ることに。
ところで、幹次郎は薄墨太夫から「伊勢亀の大旦那に渡してください」と文を預かります。伊勢亀とは御蔵前の札差で、筆頭行事も務める、ご隠居の半右衛門。薄墨太夫のご贔屓客で、薄墨も信頼を置く人物。札差の乗っ取り騒動の際に幹次郎とも親しくしています。が、具合が悪いらしく、ここ数ヶ月、薄墨に連絡もよこさないというので、見舞いがてら薄墨の文を届けようとします。店に着いた幹次郎ですが、大番頭と半右衛門の息子で現主人が対応します。そこで、店にはいないことを聞かされ、船で出かけましょうといってどこぞの別邸に。そこで、半右衛門が重病で余命幾ばくもないことを知るのです。もしそれが知られると、札差の間で少なからずゴタゴタが起きることは想像に難くないし、かといって、筆頭行事を任せられるほどの人物も今の所いません。
半右衛門は、二通の文を幹次郎に渡します。これは遺書だ、というのです。一通は薄墨に、もう一通は幹次郎に。幹次郎への遺書は半右衛門が死んで後に初めて開封してくれ、とのこと。幹次郎は、これからも見舞いに来てもいいかと聞くと、半右衛門は喜びます。
この話はどこから漏れるかわからないので、四郎兵衛にも伝えることはせず、薄墨にのみ伝えます。会所には「吉原に関係のある向きでちょくちょく外に出かける」とだけ伝えて、半右衛門の療養している別邸へ・・・
薄墨と幹次郎への遺書の内容とは。
といった感じで、吉原裏同心シリーズ全二十五巻これにて終了。
テレビなどで「江戸時代、吉原は流行発信地だった、花魁は今でいうインフルエンサー」という花街とは別の側面もあったという紹介があったりしますが、やはり本質は遊廓で、つまり「女性が体を売る」場所で、ごくまれに自分の意志で遊女になった人もいたのでしょうが、大半は親の借金のカタに、あるいは食い扶持で遊女になったのです。吉原は四方を「鉄漿溝(おはぐろどぶ)」と呼ばれる堀に囲まれ、出入り口は大門のみ。ここに三千人の遊女がいたといわれています。無断脱走を別にして吉原を出られるのは、年季を終えて借金を完済できたときか、落籍といって見受けしてくれる男性が現れたときか、死んだとき、この三つのみ。たいていは、年季(だいたい十年間)を終えても完済できず、あるいは吉原の外に出たところで小さいうちから廓に入って世間知らずで育ってしまって町人として暮らしていけないということで、メインストリートにある「籬(まがき)」と呼ばれる見世から裏道の安宿に格下げすることに。そこは「浄念河岸」「羅生門河岸」というエリアで、ここの遊女は白粉でシワを隠した年増女郎か病気持ちの鉄砲女郎(当たったら死ぬから)しかいません。この物語に登場する「薄墨」や「高尾」といった「太夫」の位(歌舞伎「助六所縁江戸桜」の揚巻もそうですね)は、大身旗本や大商人の要求も「いやでありんす」の一言で拒否できるほどで、吉原の中の頂点ですが、しかし「籠の中の鳥」、決して自由ではありません。
「吉原裏同心」シリーズでは、吉原会所の四郎兵衛に「私らは所詮遊女の生き血をすするもの」と言わせたりしていて、吉原という場所、制度を肯定はしていないように思います。そして、幹次郎と汀女の夫婦も「上役の妻を連れて逃げた」という永遠に消せない後ろめたさがあってか、仕事があって、雨露が凌げる家に住めて、ご飯が食べられてと当たり前な生活を送れてはいますが、「こんな満ち足りていいのか」「幸せとはなんだろう」と考えたりします。
とりあえずは、続編ではなく、別のシリーズ作品を読みたいと。ていうかもうすでに買ってあります。
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