団地で『茜』と一緒に居た頃の『小鉄』は、弱虫で
『ボス猫』が時々現れると、いつも逃げてばかりいた。
橋向こうからやって来る大人しい年寄りの『影虎』の姿ですら
やはり、遠くから確認していたくらいだ。
まだ、川沿いから四丁目の路地裏へ逃亡の日々が続いている模様で
朝の通勤時に良く会うようになった。
再会すると、喜んでお腹を見せてはゴロンゴロンと転げ回る。
少し薄汚れた体で、川沿いに居た頃よりは痩せたみたいだ。
顔を見ると、傷がある。
耳にも少し。
人間からの虐待でない事を祈りつつ、
子供の頃、猫を3匹飼っていた友達が言った事を思い出した。
「雄猫はね、弱虫ほど後ろ足の方に怪我をして帰ってくるんよ。
強者は逃げないから頭や耳に怪我をするったい。
ほら、「じゃりん子チエ」の小鉄は額に傷があるやろ。勇者の証やん。」
子供ながらに妙に納得した覚えがある。
勿論、『小鉄』の名前は「じゃりん子チエ」から来ている。
あんな風に、人間のテツなんかより頼りになる
強くて優しい雄猫になって欲しかったからだ。
『小鉄』の傷が勇者でなくとも、強者の証であれば良い。
ひとしきり私と遊んで、ブロック塀にマーキングをした後
妙に納得したように、ゆっくりだが
しっかりと歩き出す『小鉄』の背中が大きく見えた。
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