店主敬白(悪魔の囁き)

栄進大飯店の店主さがみやがおくる日々の悪魔の囁き。競馬予想や文学・音楽・仕事のグチやちくりまでいろいろ。

それは深く激しく

2010-03-12 22:31:48 | 小説・読んだ本
 今回は有馬頼義「遺書配達人」
 戦争名作シリーズと銘打たれた軽装本だけど、確かに名作かもしれない。
 
 中国戦線でひとりだけ内地に送り返された男が、戦友たちのかわりに残された家族に各戦友の遺書を届けに行く、オムニバス形式の小説だ。
 戦後の混乱・生きるため必死の日々、そしてその中で何かが壊れ、何かが生まれていく・・・。
 そこに書かれているのは新しい時代への「希望」なんておめでたいものじゃない。
 戦争で家族を亡くした人たちの、「遺書配達人」の、怒りと怨念だ。
 なんか風俗小説っぽく読みやすくできているけれど、書いてあることはかなり重い。
 遺書がすべて配達されても、決して戦争は終わらない・・・。

太陽を盗んだ男

2010-03-12 20:52:52 | Weblog
 ジュリー(沢田研二)というのは好むと好まざるに関わりなく、やはり「あの時代」の大スターだった。二、三年で使い捨てにされるタレントとはやっぱり違う。一世を風靡しただけのすごさが、この作品からも漂ってくる。
 まあ、原爆を自作しちゃった男の話です。
 この作品の「あんまりパッとしない理科教師」のジュリーはなかなかいいのだ。
「生徒と本気で向き合っちゃう」(確かにそれも大切なんだろうけど)熱血先生の横行する当時なのに、学生にもなんとなくパカにされてるサラリーマンまるだし教師をしながら、コツコツ、ひたすら原爆を作っていく。
 でもって作って社会を騒がせても、その動機がイマイチあいまいな「愉快犯」。
 それをジュリーがたんたんと演じています。
 ここにいるジュリーは、あの流行歌を華やかにダンディに歌う彼とはまったく別だけど、虚無感たっぷりに、どんどん恐ろしいことをしていく彼の演技はすごい。
 あの大きな瞳には、社会に対する怒りとか、怨念とかをずっと向こうに超えちゃった深い深い闇がある。
 そう、それは本当に何もない闇かもしれないけれど。
 そんな「貧困でも抑圧でもないのに反社会的な行動に走る」ジュリーと、昭和を支えるマジメなお父さん・お兄さん的な菅原文太扮する刑事のかけひきにあふれたストーリーも面白いし、ゾクゾクしてくる。
 ジュリーの闇と文太兄ィの炎との対決なのだ。

 今こんな作品リメイクすると、すぐマネをしたがる馬鹿が出たりするから、これはもうリメイクとかはできないんだろうけれど、できればジャニ系以外でリメイクして欲しい気がする。
 
 

ガス人間第一号

2010-03-12 20:48:06 | Weblog
 はい、今回も東宝DVDシリーズですね。
 
 気品のある女優さんは、もう絶滅したと言ってもいいだろう。
 この作品の八千草薫さんといい、前回の水野久美さんといい・・・。
 筒井康隆の「美藝公」に出てくるような女性は、もういない。
「そこらへんに歩いているちょっとキレイなお姉さん」に毛の生えたような等身大のヒトじゃないと、もう誰にも愛して(応援して)もらえないのか。
 でも、この作品はまだ女優さんが、手の届かないヒトだったときの物語だ。
 プラチナのように輝き、ダイヤモンドのように透明な・・・そう、女優さんが宝石のように輝き、貴重であった時代の、遠い物語。
 今みたくどんどん「芸能人は消費されるもの」だったら、こんな作品を作ってもなんの説得力もないのかもしれない。
 明日は明日の「藤千代」が出てきてしまうのだから。

 金が必要な芸の世界にいて、金のかかる女を愛してしまった男の悲劇と・・・。
 これはせつないメロドラマである。
 この特撮シリーズ随一の悲恋メロドラマだ。
 ここには、正義も悪もない。
 恋の前にはそんな単純なもん、どうでもいいのかもしれない。
 科学考証だってちっと怪しい。
 でも恋は恋だ。
 そんな迫力がこの恋にはある。
 もう決して、ありえないことだから・・・。
 
 おいらが気になったのは、家元に忠実だったじいやのことである。
 なんかじいやはちょっと気の毒かもしれない・・・。 

 あと、大きなお世話かもしんないけど、おいら的には三橋達也はちょっと暑苦しい。
 確かに正論バリバリの刑事さんにはいいかもしれないけれど、恋人役の佐多契子と年齢差ありすぎでおっさん過ぎ。
 この場合「普通の恋」「悲恋」を対称させるなら、もう少し若い年齢のカップルがいいのに。