店主敬白(悪魔の囁き)

栄進大飯店の店主さがみやがおくる日々の悪魔の囁き。競馬予想や文学・音楽・仕事のグチやちくりまでいろいろ。

ヤリ●ンと呼ばれても

2018-10-28 17:58:57 | 小説・読んだ本
 今回は桐野夏生の「抱く女」である。
 さまよえる主人公のフラフラっぷりが見事な「青春小説」なのである。
 桐野氏といえば、「グロテスク」の、これでもかというほどのドロドロと、そのドロドロにグイグイ引きよせられていく作風に比べると、この作品はドロドロが薄い。
 薄くて品のいい桐野作品なんて、ドロドロイヤミス中毒(それはそれで怖い物みたさで楽しいけどさぁ)の人にはもの足りないかもしれないけれど、おいら的にはOKだ。
 一部ではスマートでオシャレなファッションが発生しながらも、まだ泥くさくて上昇志向でギラギラの町の中を、フラフラ漂っている主人公。
 この主人公は、自己主張がヘタだし、何をやっていいのかよくわからない。
 しかしその不器用さこそが、青春時代なんだろうな。
 一見、都会の中で楽しくやっているように見えても。

 おいらには、この主人公の「町っ子」の生き様がわかるような気がする。
 地方出身者に比べ、子供のときから便利でオシャレで楽しいものに囲まれているけれど、それをがっしりと掴み、成功に向かっていくことに「迷い」というか、「ためらい」がどうしても、ある場面で(それがここ一番の大舞台であっても)ひょっこりと顔を出してしまう。
 それが、本の中にくりかえし出てくる違和感の正体なのかもしれない。
 (これを町っ子のひ弱さととるか、根性のなさと取るかは他人の勝手だけどね。)
 若いうちから、その迷いやためらいにウソをついて、何になるのだ。
 この小説は青春小説というより、放浪小説(そんなジャンル分け、おいらが自分勝手にしているワケだが、このジャンルに分けられるもの、けっこうありそうだ)かもしれない。
 若い、とは納得がいくまで、いや納得がいかなくても様々な世界を放浪するもの・・・。
 見つからない何かを見つけに行くこと。
 いつかそれに疲れても・・・でも、若いということは疲れないから、とりあえず次いってみよう、になるのだ。
 たとえ主人公のように傷ついて、ヤリ●ンと陰口を叩かれても。

 若いうちなら、年とってからそれをやると「バカ」の烙印を押されるようなこともあとで笑って語れる。そして傷ついた傷も。
 (若くなくなってもバカなことしたり、ヘンにこじらせて傷を引きずっていると、他の桐野作品に出てくる痛さ全開な人みたくなってしまうのだ。)



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