落合順平 作品集

現代小説の部屋。

北へふたり旅(114)メロン記念日⑨

2020-06-20 15:00:55 | 現代小説
北へふたり旅(114)


 「あなた。もう7時半です」


 妻の声におこされた。
今日は旅の4日目。最終日の朝。


 夕べはけっきょく呑みすぎた。
ジェニファとアイルトン、ユキちゃんとすすきのの大衆食堂でラーメンを頼み、
乾杯したことまでは覚えている。
しかしその後のことは記憶にない。
気がついたらホテルのベッドで石のように眠っていた・・・


 「かるくひと風呂あびてくる」


 「朝食は8時からです」


 「わかってる。カラスの行水で出てくる」


 「体調、いいようですね」


 「あ・・・」


 そういえば身体の重さも虚脱感もない。


 「くれぐれも無理しないでください。今日は長旅になりますから」


 「わかった。レストランで合流しょう」


 着替えを持ち、エレベーターへ乗り込む。
大浴場は1階にあり、朝食は地下1階のレストラン。
部屋へ戻るより、そのまま直行したほうが効率がいい。


 こちらのホテルも朝食はバイキング。
「やっぱり和食だろう」と納豆、焼き鮭、漬物、海苔をチョイスして
妻の待つテーブルへ戻る。


 「まるで旅館のような献立です」


 「君は洋食か。朝から合わないな、俺たち」


 妻がちぎっているクロワッサンが、美味そうだ。
「食べたいんでしょ。はい」妻がちぎったパンを白い飯の上に置く。
そいつを指でつまみ、口の中へ放り込む。
旨い。サクサクの食感と、バターの香りがたまらない。


 「俺もパンにしょうかな?」


 「食欲はあるようですね」


 「有るよ。腹減ってるもの」


 「当たり前です。
 ラーメンも食べず、最後までアイルトンと日本酒を酌み交わしていました。
 アルコールが入ると心臓も元気になるのかしら?」


 「適度なら良いと赤ひげ先生も言っていた」


 「過ぎたら?」


 「昨日より体調はいいぞ。
 今日の強行軍にも耐えられるだろう。たぶん・・・」
 
 「念のため部屋へ戻ったら、ユンケルを呑んでください。
 転ぶ前の杖だと思って」


 「そうだな。群馬まで10時間の長旅だ。何が有るか油断できない」


 「今日一日は、元気な心臓でいてください。
 何か有ったら困ることになります。あなたもわたしも」




(115)へつづく