忠治が愛した4人の女 (92)
第六章 天保の大飢饉 ⑨
気が付くと腫れあがった顔の民五郎が、泣きながら文蔵の肩をゆすっていた。
セミの鳴き声が、やかましいほど頭に響く。
ようやく目を覚ました文蔵が、ぐるりと周りを見回す。
「あいててて・・・おい、みんな、大丈夫か?」
返事の声はない。みんな傷だらけだが、どうやら辛うじて生きている。
文蔵が口の中から血の塊を吐き出す。
「畜生め。このままにしておかねぇぞ。もう我慢できねぇ」
文蔵が、祇園の森を睨み上げる。
「忠治が何と言おうが、俺は伊三郎のやろうをたたっ斬ってやる。
彦六の野郎も絶対に許せねぇ。
みんなまとめて、地獄送りにしてやる。
おい・・・いつまでも此処に居てもしょうがねぇ。けえるぞ」
ふらりと立ち上がった文蔵が、右足を引きずりながら歩きだす。
ぼろ雑巾のような一行が、ようやくの思いで百々村へ帰りつく。
迎えに出た円蔵が、一行を見て驚きの声をあげる。
「軍師。見た通りの有様だ。わるいが今度ばかりは止めても無駄だ。
ここまでされて、黙っていられるか。
おめえが止めても今度こそ、伊三郎の首を取ってやる」
「たしかにここまでされちゃ、もう黙っていられねぇ。
だが、可笑しいな。どうにも腑に落ちねぇ」
「何が腑に落ちねえんでェ?」
「伊三郎が、勝手に賭場割りを変えたことだ。
伊三郎といえば、親分衆の顔色を一番気にしている男だ。
去年。一番人気だった国定一家の賭場を、わざわざ境内の外れに置くなんて、
どうにも考えられねぇことだ。
去年。伊三郎は、器のでっかい親分だと褒められた。
それなのに、急にそんな場所割りをしたら、去年の評判がガタ落ちになる。
人一倍世間の噂を気にしている男が、そんな真似をすると思うか?」
「疑う余地があるもんか。
いちの子分の彦六が、はっきり、そう言ってたぜ!」
「彦六と言えば伊三郎が可愛がっている、ふところ刀だ。
17のとき。伊三郎の子分になって以来、ずっと伊三郎のそばを守って来た男だ。
伊三郎の跡目を継ぐのはこの男だ、と言われている。
だが伊三郎の言動に忠実すぎて、代貸たちからの評判はよくねぇ。
人気があるのは林蔵という男だ。
この男が最初に、伊三郎一家の代貸をつとめている」
「軍師。いってぇ何がいいてんでぇ!」
「伊三郎の奴が、彦六をそそのかしたかもしれねぇ。
境のシマを取るために、忠治一家が邪魔になる。
跡目争いでは、人望の有る林蔵の方が、いまのところ人気を集めている。
ここらあたりで男をあげて、境のシマを分捕ってみろ、
と、伊三郎が彦六をけしかけた」
「じゃ伊三郎の奴。彦六を餌にして、俺たちをおびきだそうというのか!」
「そうさ。うまくいけば、そっくり境のシマが手に入る。
まんいちしくじっても、彦六が暴走したと言えばそれまでだ。
跡目なら人気のある林蔵が継いだ方が、島村一家がしっくり収まる。
そこらあたりまで計算して、伊三郎の奴が、勝負に出てきたのかもしれねぇな。
たしかに今が潮時かもしれねぇァ。どうしゃす、親分」
円蔵がじっと腕組したまま、瞑想している忠治を振りかえる。
(93)へつづく
おとなの「上毛かるた」更新中
第六章 天保の大飢饉 ⑨
気が付くと腫れあがった顔の民五郎が、泣きながら文蔵の肩をゆすっていた。
セミの鳴き声が、やかましいほど頭に響く。
ようやく目を覚ました文蔵が、ぐるりと周りを見回す。
「あいててて・・・おい、みんな、大丈夫か?」
返事の声はない。みんな傷だらけだが、どうやら辛うじて生きている。
文蔵が口の中から血の塊を吐き出す。
「畜生め。このままにしておかねぇぞ。もう我慢できねぇ」
文蔵が、祇園の森を睨み上げる。
「忠治が何と言おうが、俺は伊三郎のやろうをたたっ斬ってやる。
彦六の野郎も絶対に許せねぇ。
みんなまとめて、地獄送りにしてやる。
おい・・・いつまでも此処に居てもしょうがねぇ。けえるぞ」
ふらりと立ち上がった文蔵が、右足を引きずりながら歩きだす。
ぼろ雑巾のような一行が、ようやくの思いで百々村へ帰りつく。
迎えに出た円蔵が、一行を見て驚きの声をあげる。
「軍師。見た通りの有様だ。わるいが今度ばかりは止めても無駄だ。
ここまでされて、黙っていられるか。
おめえが止めても今度こそ、伊三郎の首を取ってやる」
「たしかにここまでされちゃ、もう黙っていられねぇ。
だが、可笑しいな。どうにも腑に落ちねぇ」
「何が腑に落ちねえんでェ?」
「伊三郎が、勝手に賭場割りを変えたことだ。
伊三郎といえば、親分衆の顔色を一番気にしている男だ。
去年。一番人気だった国定一家の賭場を、わざわざ境内の外れに置くなんて、
どうにも考えられねぇことだ。
去年。伊三郎は、器のでっかい親分だと褒められた。
それなのに、急にそんな場所割りをしたら、去年の評判がガタ落ちになる。
人一倍世間の噂を気にしている男が、そんな真似をすると思うか?」
「疑う余地があるもんか。
いちの子分の彦六が、はっきり、そう言ってたぜ!」
「彦六と言えば伊三郎が可愛がっている、ふところ刀だ。
17のとき。伊三郎の子分になって以来、ずっと伊三郎のそばを守って来た男だ。
伊三郎の跡目を継ぐのはこの男だ、と言われている。
だが伊三郎の言動に忠実すぎて、代貸たちからの評判はよくねぇ。
人気があるのは林蔵という男だ。
この男が最初に、伊三郎一家の代貸をつとめている」
「軍師。いってぇ何がいいてんでぇ!」
「伊三郎の奴が、彦六をそそのかしたかもしれねぇ。
境のシマを取るために、忠治一家が邪魔になる。
跡目争いでは、人望の有る林蔵の方が、いまのところ人気を集めている。
ここらあたりで男をあげて、境のシマを分捕ってみろ、
と、伊三郎が彦六をけしかけた」
「じゃ伊三郎の奴。彦六を餌にして、俺たちをおびきだそうというのか!」
「そうさ。うまくいけば、そっくり境のシマが手に入る。
まんいちしくじっても、彦六が暴走したと言えばそれまでだ。
跡目なら人気のある林蔵が継いだ方が、島村一家がしっくり収まる。
そこらあたりまで計算して、伊三郎の奴が、勝負に出てきたのかもしれねぇな。
たしかに今が潮時かもしれねぇァ。どうしゃす、親分」
円蔵がじっと腕組したまま、瞑想している忠治を振りかえる。
(93)へつづく
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ありませんね・・今最盛期のキュウリの
次はナスが待っているんですか
群馬の土地は休む暇もありませんね
こちらは今朝は5度いまこの部屋は
18度と快適ですが 寒くなく暑くなく
今日は冬ごしらえの外回りを・・
庭木の枝や落ち葉の片付けをして
少し畑を起こしておきます。
群馬は朝の7時から、雪が降りはじめました。
厚着をしてビニールハウスでキュウリの収穫。
10時過ぎに本降りになり、のこりの作業を中断して、
本日は収穫のみの早上がり。
11月の積雪は、50数年ぶりだそうです。
炬燵のもぐりこんだまま、相撲中継を見ています。