落合順平 作品集

現代小説の部屋。

忠治が愛した4人の女 (90)   第六章 天保の大飢饉 ⑦ 

2016-11-19 17:07:43 | 時代小説
忠治が愛した4人の女 (90)
  第六章 天保の大飢饉 ⑦ 



 去年は日照りで不作。今年は長雨にたたられ、2年続きの不作になった。
各地でとうとう、暴動がおきた。
赤城山麓の農民たちが武器を手に、伊勢崎方面へ押し寄せてきた。
若衆を中心に自警団がつくられ、暴徒から村を守った。


 忠治も子分たちを率いて、縄張り内を見回った。
暴徒は、国定村と田部井村へやって来た。
しかし、暴徒の数が少なかったため、なんなく撃退することができた。
だが。こんどは境の宿が危険になってきた。



 伊勢崎で暴れ回っている暴徒たちの数は多い。しかも勢いに乗っている。
そのままの勢いで、境の宿までなだれ込んでくる可能性が出てきた。
伊三郎が大勢の子分を引き連れて、境の宿へやって来た。
集団の先頭に、裏切り者の助次郎がいる。
いまではすっかり、伊三郎一家の代貸の顔になっている。


 「おいおい。何をやっているんでぇ国定一家のお歴々。邪魔だ、邪魔。
 おめえらは一家のある百々村でも守ってろ」


 「なんだと助次郎。
 さんざん世話になった百々一家を裏切っておきながら、よく言うぜ。
 俺たちをここから追っ払おうなんて、そうはいかねぇ。
 境の衆を暴徒から守るのは、俺たちの務めだ」



 「へっ、生意気なことを言うんじゃねぇ。
 それっぽっちの人数で、いったい何ができるっていうんだ。
 境の宿は俺たちにまかせておいて、おめえらはさっさと百々村へ帰んな」



 「なんだと!」



 文蔵が、長脇差に手をかける。円蔵があわてて止めにはいる。
「いいからここは、俺に任せておけ」円蔵が、ずいと助次郎の前にすすみ出る。



 「お久しぶりですねぇ、助次郎さん。
 おめえさんの昔の縄張り、木島村を守らなくてもいいですかい?。
 噂じゃ暴徒どもは此処へ来る前に、さきに木島村を通るんですぜ」


 「分かってらぁ。今から木島村へ行くところでェ」



 「早く行かねぇと、手遅れになるかもしれませんぜ。
 そうなったら大変だ。
 ほら。伊三郎の親分も、なにをグズグズしているんだと怒鳴るでしょう。
 頑張ってください、伊三郎一家の代貸さん」


 「ふん。忠治の軍師め。せいぜい命を大事にすることだな。おい、行くぞ」



 助次郎がぺっと唾を吐き捨てる。うしろを振り向き、子分どもへ命令を下す。
忠治たちも裏切り者の助次郎を相手に、喧嘩などしている場合ではない。
いそいで百々村へ移る。
百々村で暴徒を食い止めれば、縄張りの半分以上が安全になる。



 空っ風が吹きすさぶ中。
忠治たちは、全員で街道をふさいだ。
持ち場に着いた子分たちも、いのちに替えても暴徒を通さないと覚悟をきめた。
勢いに乗る暴徒を止めるのは、並大抵のことではない。
まず相手の出鼻をくじく必要がある。
鉄砲名人の八寸(はちす)村の才一が、鉄砲で相手の出鼻をくじく。
さらに、まんいちのため弓矢も用意した。



 三下たちを伊勢崎へおくりこみ、状況を把握しながら、街道で待機した。
しかし。さいわいなことに、暴徒が押し寄せてくることはなかった。
伊勢崎で、酒井家の侍たちが大活躍をした。
豪商の三井屋は蔵を開けた。暴徒たちにコメをわけあたえた。
そのおかげで、騒ぎはしずまった。同調していたならず者たちも、のこらず捕まった。


 よく年、天保6年。
天候が回復してきた。そのためこの年は、さいわいにして暴動はおこらなかった。
だがこの年。忠治の運命を左右する、一大事件がついにもちあがる。


(91)へつづく


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2 コメント

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こんにゃく (屋根裏人のワイコマです)
2016-11-19 20:29:04
群馬の名物でしたよね・・群馬には
生糸からこんにゃくからねぎや沢山の
名物があって・・お米の石高は低くても
総収入は大したものでしたね・・
だから、人物も大物がそしてお金持ちが
多いんですね 薩長土佐以外から総理や
大物がいっぱい排出しているわけが・・
納得できますね
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ワイコマさん。こんにちは (落合順平)
2016-11-20 16:59:58
温かい日曜日でした。
朝は濃いもやが立ち込め、視界は50m前後。
その後はぐんぐん気温があがり、予報通りに
20℃に達しました。
この時期。20℃を超えると暑ささえ感じます。
まして午前中は、密閉されたビニールハウスの中での作業。
無料のサウナの中で、仕事をしているような気分です。
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