アイラブ桐生Ⅲ・「舞台裏の仲間たち」(75)
第三幕・第二章「それぞれの明日は・・・」
すべてを読み終えた茜が、静かに台本を閉じました。
天井を見上げている茜の目の中に見えたものはなんでしょう・・・・
ふと目がしらをぬぐってから、茜を見つめている劇団員たちを振り返ります。
皆と目が有った瞬間に、茜がにっこりと笑いました。
「私が、まっ先に、黒光のファンになってしまいました・・・・」
「じやぁ、私は2番目のファンだ。茜と黒光の 」
中央まで進み出たちずるが、そうささやいてから茜の両肩を抱きしめます。
しっかりと肩を抱いたまま、壁に張り付いている石川君の所まで、
茜をゆっくりと連れて戻りました。
「私をはるかに超えて、すっかりいい女になったわね、茜。
もうお姉ちゃんの背中から離れて、大好きな人へところへお嫁にお行き。
輝いているあなたを見ているだけで、私の胸がつまっちゃった。
いい本とめぐりあえたわね、
本読みを聞いているだけで、涙が出そうだったもの・・・・
私の心配なんかはもうやめて、あんたはは自分の道をあるいておくれ。
心配ばかりかけちゃったわね、あんたには。
あんたも、もう、幸せにおなり。
はい、石川さん、茜をお渡します。
後は、よろしくお願いします」
「お姉ちゃん・・・・」
我に返った西口が、思い出したように手を叩き始めました。
茜の顔を正面から見つめて、今度はさらに強い力を込めて叩きます。
つられて小山君も手を叩き始めました。
「茜ちゃん。
この稽古場は、俺たちのあたらしい公演場所に決まったぞ。
決まったからには、俺たちが総力を挙げて、
あっと言わせるような、ものすごい黒光の舞台装置を作りあげて見せる。
小生意気にも、俺たち舞台装置のプロに挑んできた
順平君の挑戦にも、真っ向から応えて見せると、
先ほど、担当主任の・・・・この小山君が言っておりました」
「俺かよっ」
苦笑する小山君の肩を叩きながら、西口が大きな声で笑います。
「順平君。
黒光は、きっと面白い舞台になる。
さっき、少しだけだが、茜が最後の独白を読んでいたときに、
俺は背中に微弱な電流を感じた・・・・
きっとこれはうまくいく、そんな予兆を肌で感じた!
知恵と創意で、君の言う、光と色だけの舞台装置とやらを、
作り出してみょうじゃないか。
挑戦し甲斐のあるテーマ―だし、頑張る甲斐もあるようだ。
又一人、貴重な戦力が増えたことに俺は劇団を代表して心から歓迎をする。
ようこそ、我が劇団へ順平くん」
西口が順平の前にたつと、武骨に大きな手を差し出しました。
順平が、がっちりと握り返すと、西口も嬉しそうに目を細めています。
「さて、もうひとり。
茜ちゃんの本読みを最後まで付き合ってくれた、本日の功労者、
雄二君にも吉報です。
さきほど、座長からも許可が出ました。
今回の碌山役は、大熱演をしてくれた雄二君で決まりです。
ただし・・・良く聞いてくれよ、ただしに注意点がついています。
本読みの能力は認めましたが、肝心の演技力はまだ、まったくの未知数につき、
演技次第では、取り消しもあるそうです。
とりあえず、碌山役は内定ということで、よろしく!」
「それでも結構です、がんばります!
石川さんに、やきもちを焼かれない程度に」
「ば~か、余計な心配は無用だよ、
どうあっても結ばれない運命なんだよ、碌山と黒光は。
余計な心配はしないで、演技力を磨くことだけに、君は専念をしてください」
再び西口に指摘をされて、雄二がしくじったとばかり頭を掻いています。
そんな雄二の背中に回ってきた時絵が、舞台担当の西口と小山にも声を掛けました。
「そろそろ独身組と、舞台担当はこの場から撤退したいと思います。
そこの失恋した君、小山君。
送ってあげるからもう帰りましょう、
せっかくの酒宴の予定でしたが、もう時間も遅い事ですので
めいめいに手土産にしてもらって、ここは解散ということにいたしましょう」
「時絵さん、それは振られた者どうしの、
敗者復活と言う可能性もあると言う意味でしょうか?」
小山君がその言葉に素早く反応をして、にこやかに時絵に語りかけます。
時絵もにっこりと笑って、しなやかに言い返しました。
「わたくしよりも、5歳の坊やがあなたを気にいってくれたら、
可能性は、まったくゼロではありません。
でも、きわめて我儘な母親が育てましたもので、かなりのやんちゃで
極めて気難しい男の子です。
手なずけるのは至難の業だとは思いますが、それでも是非にと言うのであれば、
チャレンジをしてください、お友達からはじめましょうか?」
「願ったりです、時絵さん。
ぜひ、立候補をしたいと思います」
「おい、社交辞令だよ・・・・にぶいなぁ、お前も」
傍らで西口が爆笑をしています。
照れ笑いの小山君の背中を押しながら、その西口が座長を振り返りました。
「座長、そういうことなので、
時絵に送ってもらいながら、『もてない組と振られた男女』は、
早々に退散をいたします。
そちらに残った3組のカップルに、これ以上あてつけられないうちに
さっさと消えた方が、どうやら身のためのようですからね・・・・
では座長、あらためて稽古の日程などを後ほどの連絡を後ほど入れてください。
病気の件は、僕らも、しかと受けたまわりました。
たぶん・・・・
ちずるさんが来なくても、あなたは病気に真正面から立ち向かったと思います。
そのことは、ここにいるメンバーの全員が確信をしていると思います。
あなたが、それほど強い意志の持ち主であることを、僕らはよく知りつくしています。
でもそれ以上に、ふたたび座長がちづるさんと共に
歩き始めたことに、心から安堵をしているし、また喜んでいるのもこれも事実です。
あらためてお帰りなさい、ちずるさん。
そして俺たちの座長の健康管理を、あらためて皆を代表してお願いをします。
では、挑戦的な本を書く順平君、そしてレイコさん。
今日は、俺から見ても極上の女に見えた茜ちゃん、ついでに石川くん。
君らも早々に退散をして、ちずると座長に静かな夜をプレゼントしてあげたまえ。
まったくもって・・・・
一晩に二回も座長に神経を使うなんて、今夜は一体どうなっているんだろう。
それでも・・・劇団と座長をめぐる事態は、全体として良好な方向へ向かっていることに
まずは、全員にそれぞれの感謝をしたいと思います。
そう言う訳だ、諸君。
では先陣を切って、俺たちは帰ります」
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第三幕・第二章「それぞれの明日は・・・」
すべてを読み終えた茜が、静かに台本を閉じました。
天井を見上げている茜の目の中に見えたものはなんでしょう・・・・
ふと目がしらをぬぐってから、茜を見つめている劇団員たちを振り返ります。
皆と目が有った瞬間に、茜がにっこりと笑いました。
「私が、まっ先に、黒光のファンになってしまいました・・・・」
「じやぁ、私は2番目のファンだ。茜と黒光の 」
中央まで進み出たちずるが、そうささやいてから茜の両肩を抱きしめます。
しっかりと肩を抱いたまま、壁に張り付いている石川君の所まで、
茜をゆっくりと連れて戻りました。
「私をはるかに超えて、すっかりいい女になったわね、茜。
もうお姉ちゃんの背中から離れて、大好きな人へところへお嫁にお行き。
輝いているあなたを見ているだけで、私の胸がつまっちゃった。
いい本とめぐりあえたわね、
本読みを聞いているだけで、涙が出そうだったもの・・・・
私の心配なんかはもうやめて、あんたはは自分の道をあるいておくれ。
心配ばかりかけちゃったわね、あんたには。
あんたも、もう、幸せにおなり。
はい、石川さん、茜をお渡します。
後は、よろしくお願いします」
「お姉ちゃん・・・・」
我に返った西口が、思い出したように手を叩き始めました。
茜の顔を正面から見つめて、今度はさらに強い力を込めて叩きます。
つられて小山君も手を叩き始めました。
「茜ちゃん。
この稽古場は、俺たちのあたらしい公演場所に決まったぞ。
決まったからには、俺たちが総力を挙げて、
あっと言わせるような、ものすごい黒光の舞台装置を作りあげて見せる。
小生意気にも、俺たち舞台装置のプロに挑んできた
順平君の挑戦にも、真っ向から応えて見せると、
先ほど、担当主任の・・・・この小山君が言っておりました」
「俺かよっ」
苦笑する小山君の肩を叩きながら、西口が大きな声で笑います。
「順平君。
黒光は、きっと面白い舞台になる。
さっき、少しだけだが、茜が最後の独白を読んでいたときに、
俺は背中に微弱な電流を感じた・・・・
きっとこれはうまくいく、そんな予兆を肌で感じた!
知恵と創意で、君の言う、光と色だけの舞台装置とやらを、
作り出してみょうじゃないか。
挑戦し甲斐のあるテーマ―だし、頑張る甲斐もあるようだ。
又一人、貴重な戦力が増えたことに俺は劇団を代表して心から歓迎をする。
ようこそ、我が劇団へ順平くん」
西口が順平の前にたつと、武骨に大きな手を差し出しました。
順平が、がっちりと握り返すと、西口も嬉しそうに目を細めています。
「さて、もうひとり。
茜ちゃんの本読みを最後まで付き合ってくれた、本日の功労者、
雄二君にも吉報です。
さきほど、座長からも許可が出ました。
今回の碌山役は、大熱演をしてくれた雄二君で決まりです。
ただし・・・良く聞いてくれよ、ただしに注意点がついています。
本読みの能力は認めましたが、肝心の演技力はまだ、まったくの未知数につき、
演技次第では、取り消しもあるそうです。
とりあえず、碌山役は内定ということで、よろしく!」
「それでも結構です、がんばります!
石川さんに、やきもちを焼かれない程度に」
「ば~か、余計な心配は無用だよ、
どうあっても結ばれない運命なんだよ、碌山と黒光は。
余計な心配はしないで、演技力を磨くことだけに、君は専念をしてください」
再び西口に指摘をされて、雄二がしくじったとばかり頭を掻いています。
そんな雄二の背中に回ってきた時絵が、舞台担当の西口と小山にも声を掛けました。
「そろそろ独身組と、舞台担当はこの場から撤退したいと思います。
そこの失恋した君、小山君。
送ってあげるからもう帰りましょう、
せっかくの酒宴の予定でしたが、もう時間も遅い事ですので
めいめいに手土産にしてもらって、ここは解散ということにいたしましょう」
「時絵さん、それは振られた者どうしの、
敗者復活と言う可能性もあると言う意味でしょうか?」
小山君がその言葉に素早く反応をして、にこやかに時絵に語りかけます。
時絵もにっこりと笑って、しなやかに言い返しました。
「わたくしよりも、5歳の坊やがあなたを気にいってくれたら、
可能性は、まったくゼロではありません。
でも、きわめて我儘な母親が育てましたもので、かなりのやんちゃで
極めて気難しい男の子です。
手なずけるのは至難の業だとは思いますが、それでも是非にと言うのであれば、
チャレンジをしてください、お友達からはじめましょうか?」
「願ったりです、時絵さん。
ぜひ、立候補をしたいと思います」
「おい、社交辞令だよ・・・・にぶいなぁ、お前も」
傍らで西口が爆笑をしています。
照れ笑いの小山君の背中を押しながら、その西口が座長を振り返りました。
「座長、そういうことなので、
時絵に送ってもらいながら、『もてない組と振られた男女』は、
早々に退散をいたします。
そちらに残った3組のカップルに、これ以上あてつけられないうちに
さっさと消えた方が、どうやら身のためのようですからね・・・・
では座長、あらためて稽古の日程などを後ほどの連絡を後ほど入れてください。
病気の件は、僕らも、しかと受けたまわりました。
たぶん・・・・
ちずるさんが来なくても、あなたは病気に真正面から立ち向かったと思います。
そのことは、ここにいるメンバーの全員が確信をしていると思います。
あなたが、それほど強い意志の持ち主であることを、僕らはよく知りつくしています。
でもそれ以上に、ふたたび座長がちづるさんと共に
歩き始めたことに、心から安堵をしているし、また喜んでいるのもこれも事実です。
あらためてお帰りなさい、ちずるさん。
そして俺たちの座長の健康管理を、あらためて皆を代表してお願いをします。
では、挑戦的な本を書く順平君、そしてレイコさん。
今日は、俺から見ても極上の女に見えた茜ちゃん、ついでに石川くん。
君らも早々に退散をして、ちずると座長に静かな夜をプレゼントしてあげたまえ。
まったくもって・・・・
一晩に二回も座長に神経を使うなんて、今夜は一体どうなっているんだろう。
それでも・・・劇団と座長をめぐる事態は、全体として良好な方向へ向かっていることに
まずは、全員にそれぞれの感謝をしたいと思います。
そう言う訳だ、諸君。
では先陣を切って、俺たちは帰ります」
・本館の「新田さらだ館」は、こちらです http://saradakann.xsrv.jp/
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