落合順平 作品集

現代小説の部屋。

北へふたり旅(34) 第三話 ベトナム基準⑭

2019-08-11 17:45:28 | 現代小説
北へふたり旅(34) 




 妻の顔を見て、顔なじみのクラフトマンが飛んできた。
「お待ちしていました」最上級の笑顔を見せる。


 店舗のほぼ中央。クラフトマンの作業部屋がある。
クラブを加工するための道具が、所狭しと並んでいる。


 「頼まれていたLシャフトのゼクシオ9です」


 妻のためのクラブを抱えてきた。
シャフトはフランスボルドー産のボルドー色。
妻が好む色だ。
日本酒や焼酎は、ほとんどが無色透明。
日本の色彩に酒に由来するものはまったくない。


 ワインやウィスキー、コニャックは淡い黄色から褐色、赤紫色まで存在する。
酒は大人を酔わせ、夜の社交を彩る。
深みのあるワイン色の赤には幅広いバリエーションがある。
ワインレッドは濃い紫がかった赤で、ボルドーの赤は暗い。


 「わたしのために頼んでおいてくれたの?」


 「いらないならキャンセルしてもいいよ」


 「あなたからのひさしぶりのプレゼントです。
 辞退するなんてもったいない。あら・・・」


 3・4・5のフェアウェイウッドの中に、5番ユーティリティが混じっている。


 「5番ユーティリティ?」


 妻はユーティリティクラブをつかったことがない。
初めてのクラブに興味をしめす。
ユーティリティは、フェアウェイウッドとアイアンの中間クラブ。


 「女性用アイアンは、7番からが主流です。
 5番ウッドと7番アイアンのあいだを埋めるクラブが、5番ユーティリティです。
 別売りの5番アイアンと6番アイアンもありますが、非力な方には
 使いやすいユーティリティをおすすめしています」


 「ふぅ~ん。で、つかいやすいの、これ?」


 「好みもあります。でも私はおおくの女性これをおすすめしています」


 「山ちゃんが言うなら信用するわ。
 振ってみたいわね、今すぐにでも。
 でもね、残念ながらまだ振ることができないの、わたし」


 「なにか不具合でもあるのですか?」


 「右の手首を骨折しちゃったの。
 チタンプレートで固定したので痛みはありませんが、まだリハビリ中なの。
 なかなかもとに戻らないのよ、握力が・・・」


 「なるほど。そういう事情があってLシャフトに変更したのですか。
 なかなか的を得たナイスな判断だと思います」


 「リハビリが中だるみ状態なの。
 説教するより、ニンジンを鼻先へさげたほうが速いと考えたのかしら」


 「あと10年ゴルフをなさるのなら、いまLシャフトに切り替えるのは有りです。
 ながく楽しんでください。ゴルフ人生を」
 
 「夢があるのよわたしたち。
 笑っちゃ駄目よ。
 ゴルフの聖地・セントアンドリュースへ2人で行きたいの」


 「いいですねぇ~。
 世界中のゴルファーが一度は訪れたいと夢見ているセント・アンドリュース。
 スコットランドです。
 ゴルファーはみんな夢に見ていますが、実際には遠いですからね」


 「そうなの。遠いのよ。セントアンドリュースは。
 わたし高所恐怖症なの。だから飛行機はぜんぜん駄目。
 船で行くしか方法がないでしょ。
 そうすると聖地へ着く前に、豪華な船旅に費用がかかりすぎて、
 破産してしまいそうです・・・うふっ」
 
 
 (35)へつづく 


最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
大きな夢 (屋根裏人のワイコマです)
2019-08-12 10:28:46
>>ゴルフの聖地・セントアンドリュース
へ2人で行きたいの<<
大きな夢を持ち続けると・・その夢は
必ず叶うものです。船で行くよりも
ファーストクラスの方が快適で
安くて早いですよ

返信する
こんにちはワイコマさん (落合順平)
2019-08-22 16:59:23
暑かった夏が通り過ぎようとしています。
今日の群馬は午後から雨。
30℃まで届かず、蒸し暑さだけが漂っています。
朝の散歩も半袖では肌寒さを感じます。
返信する

コメントを投稿