落合順平 作品集

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居酒屋日記・オムニバス (79)       第六話 子育て呑龍(どんりゅう)⑩ 

2016-05-29 09:28:13 | 現代小説
居酒屋日記・オムニバス (79)
      第六話 子育て呑龍(どんりゅう)⑩ 



 
 「呑龍様の門前通りに、山田屋という老舗の焼きまんじゅう屋が有る。
 そこへ行き、焼きまんじゅうを適当に買ってこい。
 ただそれだけのことだ。ただし、行くためのハードルが有る」



 「ハードル?。どんなハードルですか・・・」安原が、ごくりと唾を呑み込む。
「それは、だな」と言いかけた幸作が、うしろを振りかえる。
案の定。真理子がするどい目でこちらを見ている。
「あぶねぇ、あぶねぇ・・・」安原をうながして、真理子と2人の娘から距離をとる。
真理子の視線が気になったからだ。



 「あそこにいる真理子の娘。あの2人を連れて、焼きまんじゅうを買いに行くことだ。
 そいつがクリアできれば、試験は合格だ」


 
 「あそこにいる娘さん2人を連れて、焼きまんじゅう屋へ行くのですか・・・
 無茶ですよ、絶対。そんなの無理に決まっています。
 真理子さんさえ口説けないというのに、初めて会う娘2人を口説くなんて、
 僕には、無理が過ぎます」



 「無理なことは、最初から承知の上だ。
 しかし。そのくらいのことが出来なきゃ、いつまでたっても真理子は口説けねぇ」



 「女性を口説いたことはあります。しかし、子供を口説いたことは有りません。
 無理ですって。僕には絶対に出来ません」


 「わかった。じゃ、いさぎよく真理子のことは、あきらめるんだな?」


 「そんな!・・・それはまた、別の話です!」



 「別の話じゃねぇ。それじゃ聞く。
 シングルママが、この世で一番大事にしているものは、いったい何だと思う。
 普通は夫婦で力をあわせて子育てする。これはごく当たり前の話だ。
 だがシンママという人種は、それとはまったく別の次元で子育てをしている生き物だ。
 だれに頼ることもなく、自分の力だけで子どもを育てる。
 つまり。もっとも大切にしているのは、必死で育てている我が子ということになる。
 そんなこともわからない男に、シングルママと付き合う資格なんか無い!」



 「しかし・・・僕はいままで、子供と接したことがありません。
 どんな風にすれば子供たちに、好かれるのでしょうか・・・」



 「そうだな。まずは、子どもの目線まで自分の目線を下げることだ。
 いいか。間違っても、上から子どもを見下ろすんじゃねぇぞ。
 つぎに、本音で話をする。
 おまえさんが気持ちをひらけば、子どもたちも素直に話を聞いてくれるだろう。
 それだけだ。あとは、運だ。
 運がよければお前のことをママの友だちとして、認知してくれるだろう」



 「効果的な説得の言葉とか、うまい作戦はないのですか・・・
 教えてくださいよ。どんな風にあの娘たちに接近したらいいのですか・・・」



 「ばかやろう。そのくらいのことは自分で考えろ。
 いいか。家族になればいやでも毎日、顔を会わせることになる。
 そのたびにお前は、いちいち俺にいろいろと聞いてくるのか?。
 どうしたらいいのかは、一生けん命、自分の頭で考えろ。
 正直に、自分の言葉で、相手が理解してくれるまで伝えていくことだ。
 それがコミニュケーションを取るということだ」



 「コミニュケーションをとる、ですか・・・」



 「コミニュケーション不足は、絶対にダメだ。
 告白するだけなら簡単だ。
 だが告白したからには、相手の事情もよく聞く必要がある。
 人はみんな、いろいろな事情をかかえて生きている。
 どうしたらお前といっしょに、焼きまんじゅうを買いに行ってくれるのか、
 あの2人の娘に、聞いてみろ。
 友だちになってくれと素直に、自分の気持ちを娘たちに伝えろみろ。
 そのくらいのことなら、出来るだろう。
 真理子のことが本当に好きなら、お前にも、そのくらい出来るだろう」



 「なんだか、出来そうな気がしてきました・・・」



 じゃ行って来い。娘たちのところへと幸作が、安原の背中を押す。
呆気にとられている真理子を尻目に、安原がおずおずと、2人の娘のもとへ
近寄っていく。


(80)へつづく

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2 コメント

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勝敗 (屋根裏人のワイコマです)
2016-05-29 16:16:47
今時の若者達の腕っ節も心もなんか
弱く感じます。 ひ弱に・・なんて
いってますと、叱られます。
ソフトは皆で戦いますから、勝った時は
大勢で・・そして勝敗もいつも皆で
共有ですが・・ゴルフコンペでは
お昼のときくらいしか、皆のスコアー
が判りませんから・・コンペの時は
スコアーの巡回車出しましょうか???

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ワイコマさん。こんにちは (落合順平)
2016-05-30 07:32:22
たしかに、昼の情報収集がすべてです(笑)
居酒屋主催のゴルフコンペも、今回で23回目。
年に2回、春と秋に開催していますので
今年で足かけ12年目。
よくぞこれまで、長く続いたものです。
発足の頃は、全員が110前後も打つ強者たちばかりが揃っていましたが、
最近は90台が増えてきました。
苦節10年・・・みなさん、ずいぶんと腕をあげました!
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