落合順平 作品集

現代小説の部屋。

オヤジ達の白球 (79)春がきた

2018-10-17 18:13:17 | 現代小説
オヤジ達の白球 (79)春がきた




 大雪の日から1ヶ月。
3月なかば。群馬に春がやって来た。
枯草ばかりが目立った堤防に、ポツポツと新芽がひろがっていく。
風向きも変わる。
北から吹いていた風が、南のあたたかい風にかわる。

 ソフトボール連盟の定期総会の日がちかづいてきた。
定期総会まであと一週間。
思いがけなく消防チームから、リベンジ試合の申し入れがやってきた。

 「若いのが性懲りもなく、リベンジ試合をやりたいと申し入れてきた。
 懲りねぇ奴らだ。また返り討ちにしてやろうぜ」

 「そうだな。
 去年より、はるかに戦力がアップしているからな。
 柊より強力な4番バッターがいるというのに、まったく呑気なやつらだ。
 そういえば、バッターは増えたが投手は減ったままだ。
 どうしているんだろうな、いまごろ。
 消防の試合で敵前逃亡した、坂上のやつは?」

 「坂上?」熊がすばやい反応をみせる。

 「坂上だって?。なんでいまさら坂上だ!。
 あいつはおれたちを裏切った大バカ者だ。
 投手は監督からおりろと言われるまで何が有ろうが最後まで、マウンドで
 歯を食いしばって投げるもんだ。
 自分から降板していく投手なんて、見たことも聞いたねぇ。
 あんな不甲斐ない野郎の名前なんか、こんりんざい、口にするんじゃねぇ。
 名前を聞くだけで不愉快だ!」

 「そういうな、熊。
 あいつにだって事情はある。
 敵前逃亡したとはいえ坂上はいまでもチームの一員だ、と俺は思っている」
 
 「寅吉。投手は俺一人じゃ不足か。
 卑怯者の坂上が居なくても、おれが投げればじゅうぶんだろう、このチームは」

 「たしかに熊の右腕でおれたちは、たたかってきた。
 それにはじゅうぶん、感謝している。
 だがおれたちのチームがスタートした時、坂上というもうひとりの投手がいた。
 それもまた、事実だろう」

 寅吉はゆずらない。となりで呑んでいた岡崎が助太刀の声を上げる。

 「たしかにあいつは、試合の途中で逃げ出した。
 前代未聞の出来事だ。
 しかし。マウンドから逃げたが、退部したわけじゃねぇ。
 名前が残っている限り、あいつはまだ、おれたちチームの一員だ」

 「なんでぇ。
 気分よく呑んでいたというというのに、面白くねぇな。
 つまらねぇ話を持ち出しやがって。
 そういうことなら、せっかくのリベンジ試合だ。
 坂上のやろうを探し出してきて、あいつに投げさせればいいだろう。
 畜生め。頭にきた。
 おれは、消防のリベンジ試合じゃ投げないからな。
 面白くねぇ。帰るぜ、大将!」

 テーブルの上に5000円札をドンと置き、北海の熊が立ち上がる。

 「2度と坂上の名前を俺に聞かせるな!。
 おれはな。なにがあろうと、責任を取らねぇ男は大嫌いだ。
 そんな男の顏は、2度と見たくねぇ。
 あいつに投げさせるというのなら、おれは、このチームから出ていく」

 ガタンと派手な音をたてて、ガラス戸が閉まる。

 (おっ・・・ようやく春が来たというのに、いきなり窮地がやって来たぜ・・・)

 のんべェたちの手が止まる。
全員の目が北海の熊が消えていったガラス戸に集まる。
しかし。いつまで待っても熊は戻ってこない。
それどころか、表で思い切りバケツを蹴飛ばした熊が、足音をあらげて
ズンズンと遠ざかっていく。

 (あらら・・・本気で腹を立てたようすねぇ、北海の熊さんは)

 ピンクの割烹着の陽子が、熊が消えたガラス戸をじっと見つめる。
大雪の日からやがて1ヶ月。
男たちの記憶の中から、バレンタインの日の記憶がすこしづつ消えかかる頃、
思いがけない難題が、居酒屋のチーム内で勃発した。
いきなりのピンチだ。どうする・・・大将・・・

 (80)へつづく

最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
もう、きゅうりですか? (屋根裏人のワイコマです)
2018-10-17 19:46:39
ゴルフ練習も・・お医者様と相談して
からがいいですよ、無理すると
ペースメーカーのお世話となりますよ
余計なお世話かもしれませんが(^o^ゞ
信州は水田も収穫が終わり畑では
林檎が残ってるくらいで・・ほとんどの
農業は一段落です。
群馬は まだ・・これからキュウリ?
一年中休みなくハウスが全稼働ですね
落合様の体が壊れるのも無理ないですね
とは言うものの好きなゴルフ・・
無理のないように・・なんて・・
出来ないこと、言わないことですよね
失礼しました。
返信する
こんばんはワイコマさん (落合順平)
2018-10-20 16:53:00
後期のキュウリは、9月のなかばから12月の初頭まで。
いまがちょうど生産の中間地点。
マラソンで言えば、折り返し地点のようなもの。
本日は収穫のあと、畑でホウレンソウの
草退治に行ってきました。
5~6センチに育ったホウレンソウのあいだに
小さな草がはえてきたためです。
お昼までの3時間。
ホウレンソウ畑で、たっぷり汗を流してきました。
返信する

コメントを投稿