忠治が愛した4人の女 (95)
第六章 天保の大飢饉 ⑫
「伊三郎のやつ。本当に世良田へ行きますかねぇ?」
文蔵が心配そうな顔で、忠治を見つめる。
「軍師は必ず行くと言い切った。俺もそれを信じてぇ。
だが、まんにひとつ行かなかったら、そのときはまた別の機会を狙うしかねぇ」
「畜生。あの用心棒さえいなかったら、いつでも片づけられるのになぁ」
文蔵がふたたび桐屋の入り口を覗き込む。
入り口に人の動きはない。伊三郎の一行は中へ入ったきり、出てくる様子はない。
「たしかにあいつは腕が立つ。噂じゃ、かなり凶暴な男らしいな」
「悪賢い伊三郎の用心棒をしているくれぇの、くだらねぇ男だ。
どうせあいつも、まともな人間じゃあるめぇ」
一刻(いっとき・2時間)余りが経っても、伊三郎一行は出てこない。
(さてと・・・ここから先が勝負だぜ。伊三郎が世良田へ行くか、行かないか。
ここから先の行動が問題だ)
忠治が、文蔵へささやく。
2人は、桐屋が見下ろせる部屋で息をひそめている。
かねてから手配しておいた部屋だ。ここからなら桐屋の動きが丸見えになる。
「焦ってもしょうがねぇ」一杯やろうと、忠治が置いてあった徳利を持ち上げる。
「勝利の美酒にはちっとばかり早い。だがじっくり待つときには、やっぱりこれが一番だ」
敵が動き出すまで、じっくり待つとするかと、盃を差し出す。
やがて日が西へ傾いてきた。
いつもなら島村へ向かって歩きはじめる時刻だ。だが今日の伊三郎は動かない。
桐屋へ入ったきりで、いつまで待っても出てこない。
会合がひらかれる世良田村まで、1里あまり。
夕刻から歩きはじめれば半刻すこしで、有力者たちの会合に間に合う。
(いつもなら今ごろから動く。陽のあるうちに島村へ帰る。
いまだに動き出さねぇということは、もう、世良田行きが決まったということだ。
たいしたもんだ。円蔵の読みが、ぴたりと見事に当たったぜ)
忠治がぐびりと、盃に残った酒を呑み込む。
(もう伊三郎が世良田へ行くのは間違いねぇ。そうと決まれば長居は無用だ)
行くぜと忠治が文蔵を促す。
裏口から出た忠治と文蔵が、刺客たちが待つ熊野神社へ急ぐ。
「親分。伊三郎のやつは、ホントに来るんですかい?」
熊野神社に隠れていた6人が顔を出す。
「安心しな。やつは間違いなく世良田へやって来る。
いまごろは桐屋で何も知らず、最後のメシを食っている頃だ」
「じゃ手はずの通り、挟み討ちにする形で、待ち伏せするか・・・」
富五郎、才市、友五郎、新十郎の4人が、熊野神社の森の中へふたたび隠れていく。
忠治と文蔵、板割の浅太郎の3人は、近くの桑畑へ移動する。
2手に別れた刺客が、伊三郎がやってくるのを息を殺して待ち構える。
日が暮れると街道から、急に人の姿が消えていく。
目の前には、どこまでも広がる水田と、ところどころに黒く桑畑が横たわる。
見上げると月は出ていない。しかし、無数の星が輝いている。
地面に伏して待つこと、さらに半刻(1時間)あまり。
街道の向こうに、提灯があらわれた。かすかに、5人の人影が見える。
(来たぞ・・・伊三郎の一行だ。間違いはねぇだろう・・・)
獲物がやってきたぞと忠治が、ごくりと生唾を呑み込む。
(96)へつづく
おとなの「上毛かるた」更新中
第六章 天保の大飢饉 ⑫
「伊三郎のやつ。本当に世良田へ行きますかねぇ?」
文蔵が心配そうな顔で、忠治を見つめる。
「軍師は必ず行くと言い切った。俺もそれを信じてぇ。
だが、まんにひとつ行かなかったら、そのときはまた別の機会を狙うしかねぇ」
「畜生。あの用心棒さえいなかったら、いつでも片づけられるのになぁ」
文蔵がふたたび桐屋の入り口を覗き込む。
入り口に人の動きはない。伊三郎の一行は中へ入ったきり、出てくる様子はない。
「たしかにあいつは腕が立つ。噂じゃ、かなり凶暴な男らしいな」
「悪賢い伊三郎の用心棒をしているくれぇの、くだらねぇ男だ。
どうせあいつも、まともな人間じゃあるめぇ」
一刻(いっとき・2時間)余りが経っても、伊三郎一行は出てこない。
(さてと・・・ここから先が勝負だぜ。伊三郎が世良田へ行くか、行かないか。
ここから先の行動が問題だ)
忠治が、文蔵へささやく。
2人は、桐屋が見下ろせる部屋で息をひそめている。
かねてから手配しておいた部屋だ。ここからなら桐屋の動きが丸見えになる。
「焦ってもしょうがねぇ」一杯やろうと、忠治が置いてあった徳利を持ち上げる。
「勝利の美酒にはちっとばかり早い。だがじっくり待つときには、やっぱりこれが一番だ」
敵が動き出すまで、じっくり待つとするかと、盃を差し出す。
やがて日が西へ傾いてきた。
いつもなら島村へ向かって歩きはじめる時刻だ。だが今日の伊三郎は動かない。
桐屋へ入ったきりで、いつまで待っても出てこない。
会合がひらかれる世良田村まで、1里あまり。
夕刻から歩きはじめれば半刻すこしで、有力者たちの会合に間に合う。
(いつもなら今ごろから動く。陽のあるうちに島村へ帰る。
いまだに動き出さねぇということは、もう、世良田行きが決まったということだ。
たいしたもんだ。円蔵の読みが、ぴたりと見事に当たったぜ)
忠治がぐびりと、盃に残った酒を呑み込む。
(もう伊三郎が世良田へ行くのは間違いねぇ。そうと決まれば長居は無用だ)
行くぜと忠治が文蔵を促す。
裏口から出た忠治と文蔵が、刺客たちが待つ熊野神社へ急ぐ。
「親分。伊三郎のやつは、ホントに来るんですかい?」
熊野神社に隠れていた6人が顔を出す。
「安心しな。やつは間違いなく世良田へやって来る。
いまごろは桐屋で何も知らず、最後のメシを食っている頃だ」
「じゃ手はずの通り、挟み討ちにする形で、待ち伏せするか・・・」
富五郎、才市、友五郎、新十郎の4人が、熊野神社の森の中へふたたび隠れていく。
忠治と文蔵、板割の浅太郎の3人は、近くの桑畑へ移動する。
2手に別れた刺客が、伊三郎がやってくるのを息を殺して待ち構える。
日が暮れると街道から、急に人の姿が消えていく。
目の前には、どこまでも広がる水田と、ところどころに黒く桑畑が横たわる。
見上げると月は出ていない。しかし、無数の星が輝いている。
地面に伏して待つこと、さらに半刻(1時間)あまり。
街道の向こうに、提灯があらわれた。かすかに、5人の人影が見える。
(来たぞ・・・伊三郎の一行だ。間違いはねぇだろう・・・)
獲物がやってきたぞと忠治が、ごくりと生唾を呑み込む。
(96)へつづく
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やはり雪や 冷たい風の被害を防止しての事
九州は、露地で白菜やキャベツや大根が・・
なんとなく・・季節感がなくなります。
こちらは露地なので 農地の半分くらいの
稼働のようで・・一番は人手不足のようです
毎朝。東南アジア系の研修生たちに行きあいます。
大規模に農場を展開している経営者が、
東南アジア系のひとたちを、研修生として受け入れています。
彼らは、1年ないし2年間の予定で、日本の農業を学んでいきます。
中には期間を延長して長く働く者もいるようです。
日本の農業が、65歳以上の高齢者と
海外からの研修生で支えられているのです。
本気で農業後継者を育てないと、TPPが承認される前に
日本の農業が危篤状態に陥ってしまいます。