落合順平 作品集

現代小説の部屋。

北へふたり旅(1)   第一話 ベトナムがやってくる ①

2018-11-16 18:01:21 | 現代小説
北へふたり旅(1)




 野菜農家のパートとして働きはじめて、2年目の春がやって来た。
ここで働いているパートはぜんぶで5人。最年長は72才。いちばんの若手は61才。
年齢層が高いと驚くことはない。
農場主のSさんは62才で、奥さんは60才。
それでもこのあたりの農家からみれば平均年齢は、若いほうにはいる。

 それほどまで日本の農業は高齢化している。
政府の統計によれば2018年、農業専従者の平均年齢は67才をこえた。
世間ではおおくの人たちがすでに第一線を退いている年齢にあたる。
このうち70歳以上が、3割をしめている。
年金世代のシニアたちが実は、いまの日本の食をささえている。

 60歳以上しかいないこの野菜農家へ、この春、救世主がやってくる。
ベトナムからの農業研修生だ。
2月のはじめ、やってくるはずだった。
しかし。2月に入り10日が過ぎ、20日が過ぎてもベトナムは姿を見せない。

 「まだ来ないねベトナムからの研修生は。
 どうしたんだろうねぇ。ひょっとして予定がキャンセルになったわけ?」

 「そうじゃねぇ。
 来日はした。しかしいまは千葉の施設で、日本語の教育を受けている。
 それがおわり次第、農場へ配属されてくる」

 昼休み。顔なじみになった農協のM君がやってきた。
かれの専門は農業用機械の販売と修理。
しかし。研修生制度や海外からの働き手事情についてみょうに詳しい。

 「研修生受け入れの管理団体、北関東アジア・ビジネスが研修している。
 あんたもよくしっているはずだ。
 ほら。なんだか胡散臭いおばちゃんだと言っていた、例の白いおばさんが
 所属している、あの団体だ」

 全身白ずくめで胡散臭いおばさんのことなら、たしかに記憶がある。
昨年の夏。40℃をこえるビニールハウスの中でナスを収穫しているときだった。
 
 表に車の停まる気配がした。
顔を上げると曇ったビニール越しに、白のハイブリッド車が停まるのが見えた。
ドアが開いた。白い靴が降りてきた。
つづいてあらわれたスカートも純白なら、着ているブラウスも真っ白。
とてもじゃないが、ほこりだらけの農場へやってくる服装ではない。

 (なんだぁ?・・・全身白ずくめだぞ。何考えてんだ、一体どこの何者だぁ?
 埃だらけの場所へ真っ白で訪ねてくるなんて、正気の沙汰じゃねぇ)

 しかし。全身真っ白のおばちゃんはひるまない。
ビニールで出来たドアをあけ、「いるかしら?」と黄色い声をはりあげた。
わたしはたまたま入り口ちかくにいた。農場主のSさんは奥にいる。

 「Sさんなら奥ですが・・・あのう、どちらさまでしょうか?」

 「いるのね。奥ですね。はい、わかりました」

 白いおばちゃんが狭い通路を、あるきはじめる。
どなたですかと尋ねたのに、聞こえなかったのか、返事はまったくかえって来ない。
ホコリで白いナスの葉を手でかきわけながら胡散臭い人物が、Sさんのいる
奥へ向かって、ずんずん大股ですすんでいく。

 (2)へつづく

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2 コメント

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早速の執筆に・・ (ワイコマです)
2018-11-19 06:09:23
書き始めますと、早いですね。今回は農業を取り上げ
だいぶ経験を重ねていろんな角度から切り込む力が
付いたようですね、問題だらけの日本農業の未来を
斬新に書いてくださることを期待しております
秋も次第に深まり、信州の農業はほぼ収穫を終え
休養期間に入っているようです。
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こんばんはワイコマさん (落合順平)
2018-11-20 17:44:43
早いもので手術から4ヶ月。
体力が8割程度まで戻ってきました。
手術すれば、V字回復するとばかり思っていました。
それがいかに甘いか、この4ヶ月で痛感しました。
健康に油断は禁物。
1日7000歩の散歩と、40回のスクワットを日課に
こんごも頑張りたいと思います。
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