居酒屋日記・オムニバス (48)
第四話 肉じゃが美人 ⑪
「これが、本枯れ節です」
幸作がカウンターの上に、茶色の物体を2本、コトンと置く。
「削るための道具です、これが」と、引出しの付いたかつお削り器を取り出す。
「最初は粉になってしまいます。うまく削れません。
でも気にしないでください。そのうちに、じょじょにうまくなります。
粉かつおも、それなりに美味しい食べ方があります」
「本枯れ節が2本あるどが、形が微妙さ 違してら。
なさか意味があるの だが?」
「すこしごつごつしているのが、背側の男節です。
さっぱりした透明な味が特徴です。
吸い物や、素材を活かした煮物などにおすすめです。
腹側を女節といいます。こちらは、脂ののったコクが楽しめます。
味噌汁や煮込み料理におすすめです」
「ずんぐり してらだけで、前と後がよくわからねぇな」
「皮がついているほうが、尾側です。
頭側をもち、押し込むように削ってください。
目安は1リットルのお湯に、30グラムから40グラム。
大人の手で、かるくひと握り程度と覚えてください」
「出しをとるのは、難しそうだが・・・」
「入れたら、すぐに火をとめてください。
削り節が沈んだら、ざるに取るか、箸で削り節を取り出してください。
それで、おわりです」
「すたら 簡単さ、最高級の出しが もげるのが!」
「ワレは阿保か。最高食材を使えば、サルでも最高級の出しが取れるわい」
そんなことも分からないのかお前は、と安岡が横から笑う。
「すたらこと言われても、 こんただ高級品を使うのは、初めてだ」と
美人のママが、顏に恐縮の色をうかべる。
「ええからワレはもう、それを持って帰れ。
ワシは男同士でぇ、ちょびっと幸作と内密の話が有る」
「わからないことがあれば、電話してください」幸作が
美人ママに向かって、ほほ笑む。
それで安心したのか。美人ママが、本枯れ節と削り器を持って立ち上がる。
本枯れ節は丁寧に、自分のハンカチの中へ包み込む。
だが大きさの有る削り器の処置に、すこし困る。
第一。花柄のワンピースに、むき出しの本枯れ節の削り器は似合わない。
見かねた幸作が、「これを使ってください」と風呂敷を差し出す。
「旅の土産だ」と言われて、陽子から日本酒をもらったことがある。
そのときの一升瓶は、二四巾(90㎝)の、洒落たちりめんの風呂敷に包まれていた。
「ホントはね。風呂敷のほうが高いんだ。あっはっは」と陽子は笑っていた。
ちりめんの風呂敷は、そのときいっしょにもらったものだ。
何気なく幸作が手渡した風呂敷が、のちに大きな騒動を生む。
だが今の幸作は、そんなことにはまったく気が付いていない。
ただの親切心で、美人ママへ削り器を包むために手渡しただけだ。
「洒落た風呂敷やな、それ。ええもんやないのか?」
若頭の安岡が、器用に動く美人ママの手元を見つめている。
ママの白い指先が削り器を包んでいく。
あっという間に風呂敷の中へ、削り器が隠れていく。
のちにこれが大騒動のもとになるともしらず、美人ママが、風呂敷包みを
大事に胸に抱いて、幸作の居酒屋から出ていく・・・
(49)へつづく
新田さらだ館は、こちら
第四話 肉じゃが美人 ⑪
「これが、本枯れ節です」
幸作がカウンターの上に、茶色の物体を2本、コトンと置く。
「削るための道具です、これが」と、引出しの付いたかつお削り器を取り出す。
「最初は粉になってしまいます。うまく削れません。
でも気にしないでください。そのうちに、じょじょにうまくなります。
粉かつおも、それなりに美味しい食べ方があります」
「本枯れ節が2本あるどが、形が微妙さ 違してら。
なさか意味があるの だが?」
「すこしごつごつしているのが、背側の男節です。
さっぱりした透明な味が特徴です。
吸い物や、素材を活かした煮物などにおすすめです。
腹側を女節といいます。こちらは、脂ののったコクが楽しめます。
味噌汁や煮込み料理におすすめです」
「ずんぐり してらだけで、前と後がよくわからねぇな」
「皮がついているほうが、尾側です。
頭側をもち、押し込むように削ってください。
目安は1リットルのお湯に、30グラムから40グラム。
大人の手で、かるくひと握り程度と覚えてください」
「出しをとるのは、難しそうだが・・・」
「入れたら、すぐに火をとめてください。
削り節が沈んだら、ざるに取るか、箸で削り節を取り出してください。
それで、おわりです」
「すたら 簡単さ、最高級の出しが もげるのが!」
「ワレは阿保か。最高食材を使えば、サルでも最高級の出しが取れるわい」
そんなことも分からないのかお前は、と安岡が横から笑う。
「すたらこと言われても、 こんただ高級品を使うのは、初めてだ」と
美人のママが、顏に恐縮の色をうかべる。
「ええからワレはもう、それを持って帰れ。
ワシは男同士でぇ、ちょびっと幸作と内密の話が有る」
「わからないことがあれば、電話してください」幸作が
美人ママに向かって、ほほ笑む。
それで安心したのか。美人ママが、本枯れ節と削り器を持って立ち上がる。
本枯れ節は丁寧に、自分のハンカチの中へ包み込む。
だが大きさの有る削り器の処置に、すこし困る。
第一。花柄のワンピースに、むき出しの本枯れ節の削り器は似合わない。
見かねた幸作が、「これを使ってください」と風呂敷を差し出す。
「旅の土産だ」と言われて、陽子から日本酒をもらったことがある。
そのときの一升瓶は、二四巾(90㎝)の、洒落たちりめんの風呂敷に包まれていた。
「ホントはね。風呂敷のほうが高いんだ。あっはっは」と陽子は笑っていた。
ちりめんの風呂敷は、そのときいっしょにもらったものだ。
何気なく幸作が手渡した風呂敷が、のちに大きな騒動を生む。
だが今の幸作は、そんなことにはまったく気が付いていない。
ただの親切心で、美人ママへ削り器を包むために手渡しただけだ。
「洒落た風呂敷やな、それ。ええもんやないのか?」
若頭の安岡が、器用に動く美人ママの手元を見つめている。
ママの白い指先が削り器を包んでいく。
あっという間に風呂敷の中へ、削り器が隠れていく。
のちにこれが大騒動のもとになるともしらず、美人ママが、風呂敷包みを
大事に胸に抱いて、幸作の居酒屋から出ていく・・・
(49)へつづく
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