のほほんとしててもいいですか

ソプラノ歌手 佐藤容子のブログです。よろしくお願いいたします!

創作『ヴィリアの歌』

2008-04-11 | 『創作・短いお話』






オペレッタ『メリーウィドウ』の中に、主人公の未亡人ハンナが歌う『ヴィリアの歌』がある…。




ある朝、若い狩人が森の中で、美しい妖精ヴィリアを見かけた。

狩人はヴィリアの神々しい奇跡的な美しさと、魂を溶かす妖しい魅力に心を奪われる…。








森が静かにお喋りを始めた朝。




光がこぼれる木々の間を、白いレースがふわりとすり抜けたように見えた。





きっとヴィリアだろう。





人間の時間を持たないヴィリアは、いつも、時よりも素早い速度で動く。




なかなかその美しい肢体をじっくりと眺めるのは、難しい。






ヴィリアに魂を奪われたあの日から、生け垣のハイミストは5回花をつけたはずだ。


もうそんなに経つのだな…。




私はヴィリアのすべてを手にいれたはずだった。



美しいヴィリアを青いツタで自分に縛りつけ、常に隣で過ごし、ヴィリアのすべては自分のものだと思った…。



なのに、この空虚はなんだろうか。




それは、やはりヴィリアが妖精で、禁じられた恋だからか…。


私は今、空虚の出処がもっと恐ろしい物であることに気づきかけている…。




ヴィリアは、幾夜も幾夜も私に縛りつけておいても、私の身体に溶け込むことはなく、ヴィリアはヴィリアのままだった。



私はヴィリアのすべてを欲しかった。



身体や心だけでなく、ヴィリアの時間も思考も視線も纏う香りに至るまで、私の物にしたいと思うようになっていた…。



近くにいればいるほど、二人がお互いに違う生命を生きていることを痛感した。





ヴィリア、私は欲張りすぎたようだ…。




少なくとも空虚と言う言葉は撤回しよう。



そんな言葉を出したことの方が空虚だった。



あなたを森で見かけたこと、そして恋に落ちたこと、そしてあなたがまだ私の前で微笑んでいること。




それらの事実が私の持つ事実であり、おそらく幸せと呼ばれるものだ。







心が落ち着いたら、ヴィリアへの花を摘みに渓谷へ出かけよう…。








《おわり》





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