のほほんとしててもいいですか

ソプラノ歌手 佐藤容子のブログです。よろしくお願いいたします!

創作『思い出からのメモ』

2008-04-26 | 『創作・短いお話』










雨あがりの街は、洗われたようにすっきりした空気だった。





手持ちぶさたになった傘を軽く回しながら、駅に向かった。





今朝は目玉焼きの形が少しよかったから機嫌がよかった。




歩きながら鼻歌を歌った。




ふと気付くと石塀の上に茶色の子犬がいて、こっちに向かって小さなメモを差し出した。




不思議な感じはしたけど、手が引き寄せられるようにして伸びた。




メモには 『東原公園で待ってる。思い出より。』 と、書いてあった。




なんかおかしくて少し笑いながら顔をあげると、もう子犬はいなかった。




東原公園は幼稚園時代に遊んだ公園だ。




引越してからかなり経つから最近は行っていない。




今日は大学に行く日だ。




地下鉄の階段を小走りに降りると、勢いよく改札を通り抜けた。




突然目の前に緑が広がって、そこは東原公園だった。





びっくりした…、朝から変わったことが続く日だ。





ふと気付くと、足元に緑のゴムボールと言った感じのフワフワしたものがあった。





『僕は思い出です。今日はありがとう。』 緑のフワフワは言った。




少し気持ちを落ち着けてから口を開いた。




『はじめまして。どんな御用かしら。わたし、今日は学校があるの』




すると、思い出は言った。




『僕は今日消えます。だからその前にお礼が言いたかった。』




『お礼?なぜ私に?』





思い出は言った。



『ずっと僕を覚えていてくれて、大切にしてくれて、ありがとう。』





思い出にお礼を言われることがあるなんて考えたこともなかったから、びっくりした。





『うん。思い出は大切よ。いつも私を励ましてくれたし、楽しくしてくれた。こちらこそありがとう。』





思い出は今日消えてしまうらしい。





でもすてきなお別れができたから悲しくならないと思った。





学校は遅刻だけど、いい日だった。



《おわり》








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