小間使いの女はいつも、お姫様の身の回りの世話をしていた。
今日もそうだった。
昨日もそうだったように。
お姫様は美しかった。
小間使いの女もまあまあ美しかった。
小間使いの女は思った。
お姫様の美しさと私の美しさは大して変わらない。
お姫様の目の方が、ほんのちょっとパッチリしているだけだ。
なのに、なぜお姫様はお姫様で、私は小間使いなんだろう…。
でも、小間使いはお姫様が時々見せる不安そうな横顔を見ると、少し優越感を感じていた。
なぜなら、お姫様の運命は王様のそれによっていた。
王様の最後の愛妾であるお姫様は、王様の死と同時に城から追われる。
そして、卑しい身分に引きずり落とされる未来だ。
人は落差に強くないらしい…。
小間使いの私は落ちようがたかが知れていた。
お姫様が卑しい身分に身を落とせば、その痛みはひとしおだろう。
きれいな衣装で月を見上げるお姫様の心の痛みも、惨めな衣装で月を見上げる私の心の痛みも、大して変わらないと思うと、可笑しい。
そんなとき、人の幸せはどこにあるんだろうか…、と思う。
そうは言っても恐らくは明日も、お姫様にはお姫様の明日が、私には小間使いの明日が来るのだろう。
川の水が高みから下へ下へと向かうように、私も流れ落ちる明日をそのままこの身に受けようか。
明日の朝目覚めた時に、もし明日が目の前に横たわっていたら、そうしよう。
《おわり》
〇空の写真は20日の朝8時頃に、部屋の窓から撮りました。
この日は、昼間はくもっていましたが、朝はひと時だけきれいな空が見れました。