山陰本線・岩美駅より日交バスで10分程のところ、1300年の歴史があるとされる岩井温泉は、平安時代の「八古湯」の一つに数えられる歴史ある温泉です。
江戸時代半ばには16軒の旅籠が並び、藩主専用のものも含めて8箇所の温泉がありました。山陰と京都を結ぶ街道の沿いにあるため、温泉としてだけでなく、街道の宿場町としても栄えたようです。
明治末期に鉄道が通じると京阪神方面からの観光客が訪れるようになったが、鉄道ルートから外れていたため、大正時代に最寄り駅から軽便鉄道を敷設して客を運んだが、戦局の悪化により休止、その後再開されることはなく廃線となりました。
岩井温泉を有名にしたのは、「湯かむり」という独特の入浴法が伝わっていることです。これは湯治の際に手ぬぐいを頭に被り、専用の柄杓で湯を叩きながら「湯かむり唄」を吟じながら頭に湯をかぶるという奇習です。
ゆかむり温泉HPより
現在、閑静な温泉街の岩井温泉には「岩井屋」「明石屋」「花屋」のたった3軒しか旅館はありません。しかしそのどれもが温泉情緒を感じさせるしっとりとした小旅館です。今回はこのうちの「岩井屋」に宿泊することにしました。
建物は古めかしいが矍鑠とした館のある木造三階建ての立派なもの。他の旅館も同様の品のある造りで、これらが街の景観を風情あるものにしています。
館内は床が全面畳敷になっていて、スリッパの必要がありません。調度や絵画、生け花が主張しすぎない程度に配置され実に上品。お香がほのかに香っています。渡り廊下の両側には日本庭園。時折り池の鯉がチャプンと跳ねる…これぞ日本旅館の様式美やなあ…
この旅館の上品なお料理の数々はこちら。
この中庭を渡ったところに、この温泉街が決して紛い物ではないことを体現する、実に豊かなお湯があります。この時間帯の男湯は「祝いの湯」。浴室に入ると左手に洗い場、右手に坪庭が設えられています。この坪庭では時おり鹿威しがカコーンっと鳴る。環境音でも楽しもうという趣向。
この内湯の浴槽はひとつだけ。艶やかな御影石の縁のある浴槽の中には澄明なお湯が掛け流されています。匂いは希薄だが舐めてみるとやや苦い。浴槽の中央部はかなり深くなっていてその底はスノコ。このスノコの隙間から時おりプクプクとあぶくが湧いてきます。貴重な足下湧出を実感できます。
新鮮なお湯のこと湯口から柄杓で飲泉もできるようになっていて、独特の硬質な味わいを楽しむこともできます。
夜になると男湯は「長寿の湯」に変わります。こちらこそこの旅館のメインの浴室。広々とした浴室に大き目の浴槽。こちらも「祝いの湯」と同様、かなり深くて、その底はスノコになっています。
大きい分、温度がやや低めで実にまったりした浴感。純日本風の造作ながらステンドガラスの照明がモダン。こういったセンスがいいですね。
こちらには露天風呂も併設されていますが雰囲気はいいものの、お湯には特に特徴はない。でもまあクールダウンには丁度いいかな。
貸し切り湯はかなり小さいものの、こちらも御影石の浴槽が奢られています。ここももちろん足元からお湯が湧いていて、このお湯がいちばん湯の花が舞っていました。
実に上質な温泉の数々、ここはやはり宿泊しないと、その真価を味わうことができませんね。
・場所:日本交通・岩井温泉BS
・泉質:カルシウム・ナトリウム‐硫酸塩泉 47度
・訪問日:2011年4月15日
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