とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

憧れの薬師丸ひろ子

2010-09-10 22:20:16 | 日記
憧れの薬師丸ひろ子



 ある学校で、すでに結婚している三十代後半の私をつかまえて、「先生の好きな女性のタイプはどんな人ですか?」などと女性徒が幾度か質問したことがあった。とっさのことなので答えに窮していると、今度は、「女優でいうと、誰ですか?」といつも重ねて質問がくるので、私は「薬師丸ひろ子なんて感じがいいね」などと少しサービス精神を発揮して答えていた。当時は彼女の全盛時代だったと思う。
 しかし、そのことが生徒間で広く知れわたっていることは、全く分からなかった。後でよく考えてみると、廊下ですれ違うと、男子も女子も、くすっと笑うような仕種をし出したという変化はあった。でも、私はそのことが原因だとはそのときは気づかなかったのである。
 ある時は「先生は薬師丸さんのどこがいいんですか?」とある生徒が尋ねた。(また来た)と思いながら、教員もある意味で人気稼業だと思っていたので、「シャイなところがいいね」などと相当勇気を出して答えていた。事実、変に女優っぽくないところが魅力的だった。
 そんなやりとりが、卒業式のときに大きくはねかえってきたのである。
「先生、卒業記念にポスターあげます」。「ぼくは今薬師丸の似顔絵を描いているから、卒業式がすんだら持ってきます」。ある年の女子と男子の卒業生がそんなプレゼントをくれたのである。私は、涙が出そうになるのをこらえながら、大型のポスターと鉛筆画を受け取った。
 今、そのポスターは二階へ昇る階段の壁に額に入れて飾り、鉛筆画はときどき出して見ている。(ほんとに昔はいい時代だった)。プレゼントを見る度に、私はそう思っている。
                             (2007年投稿)

倒れない自転車

2010-09-10 22:16:39 | 日記
倒れない自転車



今月十五日、遅い花見に妻と出かけた。所は斐川町の出雲村田製作所。椿を見そこねたので、今度こそと思って出かけた。
 正門を入ると大駐車場があり、昨年よりずいぶん多い車が駐車し、桜並木には人が溢れていた。抹茶のサービスを受け、総数三百五十本、五十九種類の里桜の美しさを私たちは堪能した。
 「ムラタセイサク君」はどこにいる? 私は自転車に乗る話題のロボットのデモンストレーションにも興味を持っていた。出合った知り合いのお方に会場は建物の中だと教えられ、心躍らせて会場へ足を運んだ。
 若い数名のスタッフから、会社が環境に配慮した生産活動をしていること、世界№1のシェアを誇っているセラミックコンデンサーのこと等について説明を受け、いよいよ自転車乗りロボットが登場した。
 思ったより小さかった。子どもがヘルメットをかぶり、ランドセルを背負っているような姿をしている。体は純白。何と、乗ったまま静止していても自転車は転ばない! 私はそのメカニズムに驚嘆した。しかもバックで動くことも出来る。障害物があると、その前で停止する。また、幅二㎝の平均台の上を走ることも出来た。「アシモ君」よりこれはある面で超えているなあと内心思った。日本のロボット技術は素晴らしいレベルに到達していると実感して、私は何だか嬉しくなってきた。
 帰りに工場の渡り廊下の壁に張り出してある横断幕の言葉を間近に見て、これまた感心した。ユーザーの「期待を超える企業」を目指していると書いてある。「期待に応える」レベルでは世界の企業にはなれないのである。「超える」ことの厳しさを実感した一日だった。
(2007年投稿)