斐伊川を写す
斐伊川の美しい風景を写真に収めたいと苦心するが、どの位置から見てものびやかな姿を現さない。
斐伊川は二つの顔を持っている。増水期には濁った激流が流れ下り、堤防をぶち破るかのような勢いを見せる。しかし、渇水期には底の砂を見せて、これが川か思わせるような弱弱しい流れとなる。下流域では、川幅の中心のあたりを流れる細い川となり果てる。若い頃、南の山の中腹から写したことがあるが、迫力がなかった。その上最近は橋の数が増え、北神立橋から上流を見ると、いくつもの橋が視野を妨げる。とにかく写すには厄介な川である。
私は、先日、せめて真中の流れでも写そうと思い立ち、瑞穂大橋付近の土手から川原に降りて、古いカメラを提げて歩き始めた。草はすべて機械で刈ってあり、芝生の上を歩いているような感じがした。しかも、歩いてみてその川原の広いのに驚いた。水流までたどり着くと、息切れがするほどだった。振り返ると、土手に置いてきた車が小さく見えた。
しかし、流れの両岸には柳の木が茂っていて、視界が遮られた。木の隙間からは上流は見通せない。わずかに向こう岸が見えるだけだった。私が挫けそうになっていると、枝の間からウグイスの声が聞こえてきた。
柳の林、風の音、鳥の声……。私はここが大河の真中だということをしばし忘れていた。それから枯れ葦を踏んでひたすら歩いて下り、とうとう河口までたどり着いた。川は満々と水をたたえ、緩やかに湖に流れていた。土手に水仙が咲き乱れている。私はほっとしてカメラを構えたが、写す気持ちが湧かなかった。斐伊川を写す? 私の腕では到底できないと思ったのである。(2006年投稿)
斐伊川の美しい風景を写真に収めたいと苦心するが、どの位置から見てものびやかな姿を現さない。
斐伊川は二つの顔を持っている。増水期には濁った激流が流れ下り、堤防をぶち破るかのような勢いを見せる。しかし、渇水期には底の砂を見せて、これが川か思わせるような弱弱しい流れとなる。下流域では、川幅の中心のあたりを流れる細い川となり果てる。若い頃、南の山の中腹から写したことがあるが、迫力がなかった。その上最近は橋の数が増え、北神立橋から上流を見ると、いくつもの橋が視野を妨げる。とにかく写すには厄介な川である。
私は、先日、せめて真中の流れでも写そうと思い立ち、瑞穂大橋付近の土手から川原に降りて、古いカメラを提げて歩き始めた。草はすべて機械で刈ってあり、芝生の上を歩いているような感じがした。しかも、歩いてみてその川原の広いのに驚いた。水流までたどり着くと、息切れがするほどだった。振り返ると、土手に置いてきた車が小さく見えた。
しかし、流れの両岸には柳の木が茂っていて、視界が遮られた。木の隙間からは上流は見通せない。わずかに向こう岸が見えるだけだった。私が挫けそうになっていると、枝の間からウグイスの声が聞こえてきた。
柳の林、風の音、鳥の声……。私はここが大河の真中だということをしばし忘れていた。それから枯れ葦を踏んでひたすら歩いて下り、とうとう河口までたどり着いた。川は満々と水をたたえ、緩やかに湖に流れていた。土手に水仙が咲き乱れている。私はほっとしてカメラを構えたが、写す気持ちが湧かなかった。斐伊川を写す? 私の腕では到底できないと思ったのである。(2006年投稿)