獅子風蓮のつぶやきブログ

日記風に、日々感じたこと、思ったことを不定期につぶやいていきます。

佐藤優『日米開戦の真実』を読む(その36)

2024-12-18 01:16:39 | 佐藤優

創価学会の「内在的論理」を理解するためといって、創価学会側の文献のみを読み込み、創価学会べったりの論文を多数発表する佐藤優氏ですが、彼を批判するためには、それこそ彼の「内在的論理」を理解しなくてはならないと私は考えます。

というわけで、こんな本を読んでみました。

佐藤優/大川周明「日米開戦の真実-大川周明著『米英東亜侵略史』を読み解く」


今回は「文庫版あとがき」を引用したいと思います。

日米開戦の真実
――大川周明著『米英東亜侵略史』を読み解く

■文庫版あとがき


文庫版 あとがき   佐藤優

(つづきです)

実は1930年代初頭、大川周明もこれと似た危機意識を抱いた。そして、1932年5月15日に決起し、時の首相らを暗殺した。陸海軍の青年将校がこの決起に加わったが、青年将校たちは軍の武器や兵員を用いなかった。五・一五事件で決起した人々は、軍人も民間人も、あくまで1人の日本人として、社会の側から、世直しを試みたのである。
これに対して、五・一五事件の4年後に起きた1936年の二・二六事件は、官僚によるクーデターだ。二・二六事件の青年将校たちは、陸軍の武器を用い、命令で下士官・兵を動かして世直しを試みたのである。大川周明は二・二六事件に対して極めて批判的である。戦後、1953年に執筆した「北一輝君を憶ふ」の中で大川周明はこう述べている。

〈北君は、二・二六事件の首謀者の一人として死刑に処せられ、極めて特異なる五十五年の生涯を終へた。私は長く北君と往来を絶つて居たから、この事件と北君とのに如何なる具体的関係があつたかをしらない。北君が西田税君を通じて多くの青年将校と相識り、彼等の魂に革命精神を鼓吹したこと、そして彼等の間に多くの北信者があり、日本改造法案が広く読まれて居たことは事実であるから、フランス革命に於けるルソーと同様、二・二六事件の思想的背景に北君が居たことは拒むべくもない。併し私は北君がこの事件の直接主動者であるとは金輪際考へない。
二・二六事件は近衛歩兵第一聯隊、歩兵第三聯隊、野戦重砲兵第七聯隊に属する将兵千四百数十名が干戈を執つて蹶起した一大革命運動であつたにもかからず、結局僅かに三人の老人を殺し、岡田内閣を広田内閣に変へただけに終つたことは、文字通りに竜頭蛇尾であり、その規模の大なりしに比べて、その成果の余りに小なりしに驚かざるを得ない。而も此の事件は日本の本質的革新に何の貢献もしなかつたのみでなく、無策であるだけに純真なる多くの軍人を失ひ、革新的気象を帯びた軍人が遠退けられて、中央は機会主義、便宜主義の秀才型軍人に占められ、軍部の堕落を促進することになつた。
若し北君が当初から此の事件に関与し、その計画並びに実行に参画して居たならば、その天才的頭脳と支那革命の体験とを存分に働かせて、周匝緻密な行動順序を樹て、明確なる具体的目標に向つて運動を指導したに相違ない。恐らく北君は青年将校蹶起の覚悟既に決し、大勢最早如何ともすべからざる時に至つて初めて此の計画を知り、心ひそかに『しまつた!』と叫んだことであらう。支那革命外史を読む者は、北君が革命の混乱時代に必ず来るべき外国勢力の如何に恐るべきものなるかを力説したを看過せぬ筈である、北君は日本の国際的地位を顧みて、中国並びに米国との国交調整を国内改造の先決条件と考へて居た、昭和十年北君は中国行を計画して居たと聞くが、その志すところは茲に在ったと断言して憚らない。果して然らば二・二六事件は断じて北君の主唱によるものでないのみならず、北君の意に反して尚早に勃発せるものである。二月二十七日北君は直接青年将校に電話して「一切を真崎に任せよ」と告げたのは、時局の拡大を防ぎ、真崎によつて犠牲者をできるだけ少くしようとしたもので、真崎内閣によつて日本改造法案の実現を図ろうとしたのではない、現に北君は法廷に於て「真崎や柳川によつて自分の改造案の原則が実現されるであらうとは夢想だもして居らぬ」と述べて居る。北君を事件の首謀者といふ如きは、明かに北君を殺すための口実にすぎない。而も北君は冤枉(えんおう)に甘んじて従容として死に就いた。私は豊多摩刑務所で北君の処刑を聞いたのである。〉(橋川文三編集『近代日本思想大系 21 大川周明集』筑摩書房、1975年、366~367頁)

政党がしっかりせず、社会の側から国家に対する効果的な働きかけができないと、国家の生き残りを考えた官僚が「世直し」を行う。特捜検察による「国策捜査」、海上保安庁保安官による尖閣諸島沖漁船衝突事件のビデオ映像流出などは、官僚による「世直し」の序章なのである。二・二六事件の効果について大川周明は、〈此の事件は日本の本質的革新に何の貢献もしなかつたのみでなく、無策であるだけに純真なる多くの軍人を失ひ、革新的気象を帯びた軍人が遠退けられて、中央は機会主義、便宜主義の秀才型軍人に占められ、軍部の堕落を促進することになった〉と厳しい評価をする。過去の負の遺産から真摯に学び、官僚による「世直し」が国民に不幸をもたらし、日本国家を弱体化させることを自覚し、社会の側から日本国家を立て直す働きかけを強めることが重要だ。
本書が文庫化できたのは、小学館の衣袋丘氏の御尽力によるものです。深く感謝申し上げます。

 (2011年1月3日記)

 


解説
政党がしっかりせず、社会の側から国家に対する効果的な働きかけができないと、国家の生き残りを考えた官僚が「世直し」を行う。特捜検察による「国策捜査」、海上保安庁保安官による尖閣諸島沖漁船衝突事件のビデオ映像流出などは、官僚による「世直し」の序章なのである。

ここまで読んで、ちょっと驚きました。
佐藤氏は自分を陥れた特捜検察による「国策捜査」を、官僚による「世直し」と肯定的に捉えているのかと。


過去の負の遺産から真摯に学び、官僚による「世直し」が国民に不幸をもたらし、日本国家を弱体化させることを自覚し、社会の側から日本国家を立て直す働きかけを強めることが重要だ。

二・二六事件も官僚による世直しであるが、大川周明が指摘するように、この事件は国民に大きな不幸をもたらしました。
官僚による「世直し」は、国民の信託を受けることがないので、失敗したとしても無反省に繰り返されることがあります。
厳しく監視していく必要があるでしょう。

佐藤氏の言いたかったことも、そこなのですね。


獅子風蓮



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