ぎりぎりの傘のかたちや折れに折れ 北大路翼 話題のベストセラー句集『天使の涎』より
ビニール傘というものは昔は無かった。発売されたのは1990年代に入ってからだと思う。通常、急な雨などでコンビニで購入し、止めば帰宅以前に捨ててしまう。台風や突風などの時は、まるで役に立たず、すぐにバラバラになり放置される。ぎりぎりの傘のかたち、とはもはや《傘》の役割を喪くしたあとのことである。よく見ると《傘》だったとわかるが、もはや《傘》としての存在感は喪われている。下五の『折れに折れ』と畳み掛ける作者の目線には容赦が無く、まるで《傘》自身の責任であるかのように言い放つ。この【ぎりぎりの傘のかたち】とは、作者の現在の姿でもある。路傍の《傘》から目を転じて、作者の自身の来歴と自己を映し出す鏡としての【俳句形式】を見る目にも容赦は無い。作者もまた、まさにギリギリの【大きな喪失】を経て来たに違いない。・・・《続く》
ALBERT AYLER 『LOVE CRY』