夏の風世界はノイズに満ちている 鈴木伸一 【夏石番矢賞2018】 「吟遊」80号より*アマゾン通販中
作者が所属する同人誌には、縁あって私も参加させていただいている。私の同人歴は昨年の春からに過ぎないので、気安く仲間などとは言えない。現に会ったことはない。彼は私より4歳下であるが、国学院大学在学中から40年を超える句歴がある。結社にも15年所属したが、その閉鎖性に嫌気が差して退会し、1998年の「吟遊」誌の創刊以来、同人誌のみを活動の場として来たという。群馬県の新聞のジュニア選者などの活動もしている。さて、掲句に取り込まれた《ノイズ》とは何なのだろうか。作者は多くの社会批判の句を発表している。代表の受賞理由も【平易な言葉の俳句創作による継続的な社会批判】とある。その中のいくつかを紹介してみたい。
権力を持たぬ手軽し夏野行く
氷菓より世界が先に融けるだらう
基地を囲む冷たい金網摑んでみる
空家ばかり目立って建国記念の日
毛虫這ふこれも世界の一部分
なかでも『基地を囲む冷たい金網摑んでみる』の一句に注目した。この《冷たさ》は季感とは異質な、基地と周囲とを隔絶する《金網》の人々の手触りを表現している。『摑んでみる』とあるから、実際に普天間や辺野古での体験がベースになっているものと思われる。それに比べると、掲句の【世界はノイズに満ちている】という単刀直入な心象表現は、それに比べるとずいぶんと飛躍した世界観を感じる。実のところ両句は同じ年に発表されたものなのだが、作者の日常性の奥深く侵食するように響いて来る《ノイズ》と基地を囲む金網の《冷たい》質感は、わずか17音の【定型】の表現の表層にあって自在に共存するに至った。後はこの世界を席巻する《ノイズ》の出自と『金網』の質感の関係付けを【定型】の中で追求することが迫られる。これがもし果たされれば、作者にとってひとつの達成なのかもしれない。