あ、どうも朴です。
今回は「人の縁(えにし)」について思い出したいと思います。
《四季報と云ふもの》
今はどうか分かりませんが、当時の証券会社では3ヶ月に一度のイベントがありました。そのイベントはライトスパーリング大会のように一回休みというわけには行かないものでした。
「四季報配り」という行事なんですが、皆さま「会社四季報」や「会社情報」をご存知でしょうか?
それらは全上場企業の業績見通しや簡易な財務・株価のデータが季節ごとに更新される投資家必携の書籍です。全上場企業のデータが掲載されますので一冊が結構重く、値段も安くありません。投資家とするとタダで貰うと嬉しい一品です。
営業マンは◯◯証券会社と自社名が入った「会社四季報」をお得意様や見込みのお客様に四半期ごとにお届けするんですね。証券会社と手広く取引されているお客様のご自宅では、様々な証券会社から贈られた中身が全く同じの「会社四季報」がうず高く積み上がっていてそれを自慢したい方もいらっしゃれば、他者名を見つけては「負けるもんか!」と闘志を燃やす証券マンもいたりして、人間模様を観察できる機会でもありました。
《彷徨》
入社1年目の暑い日のこと。まだ「四季報」を渡せるような取引先も獲得できていない時期、とりあえず見込客に「四季報」を差し上げることをきっかけに商いを取るしかない状況の私。
両手に「四季報」10冊が入った大きな紙袋をさげて東池袋から大塚の辺りを彷徨っていました。安くない「四季報」は誰にでも上げていいものではなく、配布先は後から報告しなければなりません。
「もうどうせ~ちゅうの!配るところなんてあらへんがな!古本屋に持ってったろか!」と毒づきながら、当てもないまま肩がちぎれそうな重さの「四季報」を抱えて彷徨っていました。
容赦なく照りつける太陽、熱中症一歩手前です。「どっかで休もう・・・」と見渡しても喫茶店があるわけでもなく、あったとしても汗が冷えると気持ち悪いし・・・ ほとほと困りかけた時に眼に入ったのが「都営荒川線」の「向原駅」でした。路面を走る都電、駅といっても外気に晒されていますが、屋根と椅子があるだけましです。とりあえず足をひきづって誰もいない「オアシス」に滑り込みました。
(写真はGoogleより)
《兆し》
「もうやってられまへん!もう辞めたろか!」と靴を脱いで両足をだらしなく投げ出し、無脊椎動物の如くにベンチに埋まりそうな恰好で休んでいますと、
「横、よろしいでしょうか?」と優しげな眼差し、物腰の柔らかい銀髪の老人が
私を覗き込んできます。
寝かけていた私はその声に呼び戻され、詫びながら隣の席の「四季報」の入ったふたつの紙袋をどけました。
横に座った銀髪の老人は程なくして日経新聞の証券欄を広げて次の電車を待ち始めました。と、突然「私ね。4月まで女子高の校長をやっていたんですけどね。定年になりましてね。呆けたらいかんと思い株式の勉強し始めたんですよ。新聞とか字が小っちゃいでしょ。もう見えなくて困りますわ。ほほほほ」と和やかに私に話しかけてきたのです。通りで紳士的なわけだぁ・・・
「へぇ、そうなんですかぁ。で、どうですか勉強の具合は?」「まあ、そこそこです。家内も応援してくれているんですよ。呆けないようにってね。」と話しているうちに電車がガタゴトとやってきました。銀髪の元校長が立ち上がろうとした時、不意に「あ、これどうぞ!」と「四季報」をひとつ取り出し差し上げたのです。「頂いていいんですか?」「いいんですいいんです。売るほどありますし重いですし、では呆けないように頑張ってくださいね。」と銀髪の校長が行ってしまうまで見届けていました。
「あ~、どうすんだよ。誰に上げたかどう報告するんだよ。」
《縁(えにし)》
さてその翌日、私は昨日のことなどもうすっかり忘れていたのです。証券マンの資質として「早飯、早糞、早く忘れる」は重要ですから。
で、昨日と同じように重い「四季報」を抱えて汗だくで回った後、支店に戻ってみるとなんと「あの銀髪元校長」の姿があるのです。
私を見るなり「あ~やっぱりここの人でしたか。四季報に会社名あるし、近くの支店ってここしかありませんからね。ほほほ・・・」と優しい目で微笑んでいます。「私ね。考えている銘柄があってね。島津製作所なんですがね。5,000株ほど買いたいんですよ。あなた昨日何も言わずに四季報下さったでしょ。家内に話したら、そりゃ取引しなさいってことなのよって言われてしまいましてね。それで来たわけですよ。ほほほ・・・ で、あなたお名前は? あ~朴さんですかぁ。私は●●です。宜しくお願いしますね。」
私、感激してしまって泣きそうになりました。「あとね。証券マンって色々煩く薦めてくるでしょ。私自分で決めますから色々薦めないでくださいね。昨日会ったとき、あなたは煩く言わない人だと思ったんですよ・・ほほほ」。
その後も「銀髪の元校長」は私がいない時も勝手に来られて売買されて手数料を下さって、全く「自己責任」の方でした。
異動の時は「あなたに合わなかったら株式やらなかったかもしれません。ほら証券会社って怖いでしょ。あ、これ家内です。あなたが本店に行かれるからってお祝いをってきかないいですよ。ほほほ・・・」
私は何もして差し上げていないのにこんなに感謝されて申し訳なくて申し訳なくて、嬉しくて嬉しくて泣いてしまいました。
「縁(えにし)」って本当に不思議です。「相性」っていうのもあるんでしょうが・・・。
ジムメイトやトレーナーとの仲もそうですが「良い縁(えにし)」って本当に不思議で有難いものだとつくづく感謝しています。