素浪人旅日記

2009年3月31日に35年の教師生活を終え、無職の身となって歩む毎日の中で、心に浮かぶさまざまなことを綴っていきたい。

世間より25年も遅れたが 『サラダ記念日』買って読む日々

2012年02月13日 | 日記
 なぜ今頃『サラダ記念日』を買う気になったのかという話。始まりは“犬百人一首”の存在を知ったこと。プリントアウトして本歌と見比べながら読むうちに、眠っていた“歌もじり脳”が目を覚ました。そして、かつて快感を覚えた“もじり歌”の記憶がよみがえって来た。

 その中のひとつに『サラダ記念日』をパロディ化したテレビドラマ『カラダ記念日』というのがあった。小林薫扮するヤクザが『サラダ記念日』の歌集にぞっこん惚れて、歌集の歌をもじってヤクザな自分の生活、心情を綴りながら進行していくドラマであった。筋書きもパロディ化された歌もはっきり覚えていないが、ドラマを見た時の快感はしっかり残っている。

 ずい分昔の単発ドラマだから資料も残っていないだろうと検索してみたら意外とまだ中古ビデオ販売がなされていた。1989年2月4日に放送されたようだ。データーの中で、【原作:筒井康隆「薬菜飯店」】に目が留まった。原作があったのなら、それを読んでみたいと思いアマゾンで探すと中古本の在庫があった。さっそく取り寄せた。

 「薬菜飯店」(新潮文庫)は●薬菜飯店 ●法子と雲界 ●イチゴの日 ●秒読み ●ヨッパ谷への降下 ●偽魔王という夢と現実をいったりきたりする奇妙な味わいの6つの短編が続く。今の私にはいささか消化不良になる珍味といってよい。その最後に●カラダ記念日があった。解説を書いている俵万智さんは6つの短編は筒井康隆主人が腕をふるってつくられた美味珍味の料理、「薬菜飯店」という短編の中に登場する料理と呼応している。そして栄えあるデザートとして最後に出されるのが「カラダ記念日」である。という。

 てっきり短編物語だと思っていたら大違い。「カラダ記念日」は「犬百人一首」と同じパロディ歌集であった。しかも、その数が半端ではない。「サラダ記念日」がベストセラーになった当時は社会現象とまでも言われたぐらい世間では、短歌のパロディがあふれていた。そのことにもふれながら俵万智さんはこう書いている。

 『「作者としては、どういう気持ちです?こういうのって」という質問をよく受けた。あるいはもっとストレートに「やっぱり腹がたつでしょ。おちょくられているみたいで」と言われたことも多い。が、私はべつに腹がたたなかった。パロディが成立するということは、モト歌が親しまれているということだ。そう思えばむしろ嬉しく感じてしまったくらいである。

 ただ、言葉が好きな人間としては、あまりにもお手軽なものが多いのには、ちょっぴり寂しい気がした。(中略)そんななかで出会ったのが「カラダ記念日」だった。びっくりした。ここまで真剣に遊んでもらったら、モト歌たちも本望だろう。

 まず、数がすごい。半端ではない。しかも、一首一首を恣意的にパロるのではなく、全体を通して、「短歌を作るのが好きな一人の極道」の姿が浮かびあがってくるという仕組み。
 そしてタイトルに象徴されるように、できるだけモト歌の言葉に近い音であることが、心がけられている。パロディなんだから、あたりまえじゃん、と思われるかもしれないが、この「音への執着」が「カラダ記念日」全体を、とてもおもしろくしていると思うので強調したい。

   大きければいよいよ豊かなる気分東急ハンズの買物袋

   大きければいよいよ豊かなる気分盗品入った買物袋

 意味的にも「盗品」はうまくつながっている。そのうえで「トウキュウハンズ」と「トウヒンハイッタ」の音の類似が、楽しい。

 「貝殻(カイガラ)」⇒「亡骸(ナキガラ)」、「東京」⇒「独房」、「土曜日」⇒「検挙日(ゴヨウビ)」(これは別にケンキョビでも、意味やリズムに支障はないが、音の点からいえば断然ゴヨウビだ)「揺れるコスモス」⇒「隠れる組長(ボス)」・・・などなど、あげればキリがない。

 まったく同じ言葉でも、状況が変わると、こんなにも色合いが違ってくるのか、と驚いた例も多かった。(後略)』


 こうなるとこのパロディからチョイスされた歌を組み立てて作られたドラマのことはどうでもよくなった。「カラダ記念日」という歌そのものを味わいたくなったので、万智さんの長い解説も途中で読むのをやめた。しかし、

 『最後に大切なことをもうひとつ。見てきたように、「カラダ記念日」は「サラダ記念日」と併せ読むことによって、その真のおもしろさがわかるように作られている。つまり「薬菜飯店」と一緒に「サラダ記念日」も買われることを、あなたに強くおススメいたします。あはは。』 

 という締めくくりの言葉は王手飛車取りの一手であった。聞きかじりのわずかな知識しかない私にはぐうの音も出ない。買うしかないだろうとなった。
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