大相撲力士の勝武士(しょうぶし)さんが5月13日に、28歳の若さで亡くなった。このニュースは、世界中に驚きを持って伝えられた。
主要メディアだけでなく、たまたま調べただけでも、ナイジェリアの新聞、ジンバブエの新聞、インドのケララ州のマラヤラム語の新聞、フランス語、ドイツ語、スペイン語、ポルトガル語、イタリア語、ロシア語、アラビア語、ギリシャ語、デンマーク語、ポーランド語、ハンガリー語、トルコ語、中国語、インドネシア語、マレー語、タイ語など、ほとんど全ての言語のメディアで、Shobushiという名前、相撲レスラー、28歳、新型コロナで死亡ということが報道された。上の画像は、たまたま目にした各国のニュースの見出しのみを切り貼りしたものだが、国際的にはほぼ無名のアスリートの名前が、世界の隅々にまで知れ渡ったことが、これまでにあったろうか。
ナイジェリアの新聞、Sundiata Postの見出しは印象的だった。
Tears Flow As Sumo Wrestler, Shobushi Dies Of Coronavirus At Age 28
(相撲レスラーの勝武士がコロナウィルスで28歳で亡くなったことに涙が止まらず)
ナイジェリアの人たちが日本の相撲のことをどれだけ知っているかわからないが、勝武士さんの名前、年齢をきちんと伝えてくれていることに感動してしまう。この”Tears Flow”という表現は、ジンバブエなどアフリカのいくつかの国の新聞でも使われている。
私はシンガポールに住んでいるが、シンガポールの新聞、ストレーツ・タイムズの記事を読んで、涙が止まらなかった。
He developed a fever over April 4-5 but had trouble contacting the local public health office because phone lines were constantly busy.
4月の4日、5日に、熱が出たが、地元の保健所が常にお話し中で、電話が繋がらないという問題があった。
He was then turned away by several hospitals before finally being admitted to a Tokyo hospital on the evening of April 8 after he started coughing up blood, it added.
いくつかの病院に断られ、4月8日、血痰が出た後、最終的に東京の一つの病院に入院。
先進国と言われている国家で、電話が繋がらないために治療が受けられない、そして結局は救える命も救えずに、結局は亡くなってしまう。電話回線が行き届かない途上国の僻地の話ならわかるが、東京都心でそのようなことが起こるなんて、なんともやるせない。「4日間は自宅で様子を見る」という目安の問題、保健所が全てのスクリーニングの権限を持つというシステム、確認方法がアナログの電話という手段しかないという問題、そんなことで、将来のあるアスリートの命を救えなかった体制のなんと情けないことか。
勝武士さんの所属する高田川部屋は、江東区の清澄白川にある。小名木川の南側で、清澄通りと、万年橋通りのちょうど間あたり。東京の実家は門前仲町にあるので、正月には、深川七福神でお参りをするのだが、この地域には相撲部屋がいくつもある。熱を出したとき、さぞ大変だったんだろうなと思う。
日本のマスコミは、「日本はコロナの封じ込めに成功していて、死者が圧倒的に少ない」と報道している。本当だろうか。欧米に比べれば感染者数も、死者の数も圧倒的に少ない。それで喜んでいてよいのだろうか。どのようなファクターによるのかは専門家でないので、なんとも言えないが、中国を除いて、たまたまアジア諸国が感染者数、死亡者数が低かったというだけで、日本の対策が優れていたからということは言えないのではないだろうか。
感染者のうちどれだけ死に至ったかを致死率というが、欧米に比べれば低いというものの、アジアの中では、決して低くない。5月15日時点の数字で、日本の致死率は4.38%。そして不気味なことに、日本の致死率は徐々に増加している。これは何だろう。こちらのグラフは日本の致死率の増加を示している。
一方、シンガポールは、感染者は増えているが、死者をあまり出していないので、致死率はどんどん低下している。中国を含めて、アジアの他の国も、横ばいか、低下してきている。こちらはインド、オセアニアを含むアジア諸国の致死率の推移のグラフ。コンスタントに上昇しているのは日本だけだ。
5月15日時点の各国の致死率の数字だけ並べたものがこちら。
死亡者数の数でいくと、中国、インド、インドネシア、フィリピンは日本よりも多いが、他の大半のアジアの国々は日本ほど死者を出していない。日本は高齢者が多いという問題はあるだろうが、新型コロナの死者を本来はもっと低く抑えられたのではないだろうか。医療設備や医療キャパの不足、医療レベルの低さが原因とは思えない。勝武士さんが、もっと早く治療を受けていたら、助かっていたとは断言できないが、様々な理由で、治療を受けられなかったから症状が悪化してしまった方も多くいるのではないかと思う。それを思うと、16日の時点で725人の新型コロナでの死者の数を、こんなに少なくてよかった、と自慢するのは間違っていると思う。725人もの方が亡くなっている。これからさらに増加していくかもしれないが、死に至る人を一人でも少なくできるようにしていただきたい。
最後に、勝武士さんの今年の二月の初切(しょっきり)の動画があるので、ご紹介したい。初切とは、相撲の禁じ手を面白おかしく紹介する見世物で、相撲の取組の前に、決まり手四十八手や禁じ手を紹介するために江戸時代から行われていたものだが、勝武士さんは、この初切の名手だった。エンターテイナーだ。返す返すも惜しい青年を亡くしたものだと思う。悔やんでも悔やみきれないだろうが、天国でもみんなを楽しませてほしい。勝武士さんのご冥福をお祈りいたします。
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