まわる世界はボーダーレス

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シンガポールのこの一年、人々の心を支えてきた4つの曲

2021-04-09 23:07:28 | シンガポール
シンガポールでサーキット・ブレーカーと呼ばれる規制が始まったのが2020年4月7日。その日以降、しばらくの間、必要不可欠な業種以外は、在宅勤務のみとなり、学校は在宅指導、飲食店は持ち帰りまたは配達のみの営業となりました。バーや映画館、劇場、ナイトクラブ、カラオケなどは3月26日から閉鎖されており、学習塾や、宗教行事も中止となりました。

あれから一年。一時は外国人労働者が居住する寮でのクラスターが拡大しましたが、市内での感染は見事に押さえられ、基本的には市中には感染者がいないので、社会生活は安心して営まれています。現在でも、マスク着用や、ソーシャル・ディスタンス等は厳しく実施されていて、海外からの入国は厳しく制限されていますが、ワクチン接種も着々と進行していて、感染はきちんとコントロールされているのを実感します。

この一年、シンガポールの人々の心の不安を支えてきた音楽がいくつかあります。それをご紹介したいと思います。

12歳の小学生が作詞作曲した”Unite as One”



Jacob Neo (ジェイコブ・ネオ)という12歳の小学生(当時)が作詞・作曲した “Unite as One”(ユナイト・アズ・ワン)という曲があります。日本語に訳すと、「ともに力を合わせよう」という感じです。「ワンチーム」に近いニュアンスですね。

Fairfield Methodist (フェアフィールド・メソジスト)という小学校の6年生だったジェイコブ君は、前年参加したプログラムで曲の作り方を学んだばかり。新型コロナウィルスで頑張る医療関係者に対して、エールとなる曲を作りたいと思ったのです。

完成したこの曲は、2020年2月27日に、シンガポールのナショナル・ユニバーシティー・ホスピタル (NUH)の医療関係者に贈呈されました。また、その際に、クラスメート全員が、感謝のメッセージをカードに書いて、それも合わせて贈られたとのこと。病院のスタッフが感動したのはもちろんです。



この曲が、学校の先生たちの協力のもとミュージック・ビデオとなり、ユーチューブでも話題になりました。こちらがそれです。



この歌詞の翻訳をつけておきます。

You’re shut away, you’re isolated
あなた方は、閉じ込められ、隔離され、
Cut off from civilization
文明と切り離され、
All alone with your hopes and dreams
一人だけで、夢と希望だけを糧に
Shuttered, no longer free
遮断され、もはや自由はない
But I want you to know that
でも、皆さんに知っておいて欲しい
You’re not alone
皆さんは決して独りぼっちじゃない
And I want you to feel that
そして、皆さんに感じて欲しい
You are at home
皆さんは家にいるのだと

And the night looms, the sun goes down
そして夜が忍び寄り、陽は落ちる
Day bleeds and light’s just a memory, memory
陽は赤く滲み 光はただ記憶となる、記憶となる
The ‘crowns’ are invading us what can we do
コロナが我々を侵略してくる 僕らに何ができるだろう
This is agony, Yeah!
それは苦しみでしかない
But we’ll be together through thick and the thin
でも、どんな時も僕らは一緒だ
As one country we fight this virus and win
一つの国として、僕らはこのウィルスと戦い勝利するんだ
We’ll fight with our hearts and our minds and our souls
心で、精神で、魂で戦うんだ
Protecting this island where we call our home
僕らが「ホーム」と呼ぶこの島を守るんだ

Fearful yet advancing
怖いけれど、一歩前に踏み出した
Fulfilling your duty and call
そして自分の責任と使命を果たそうとしている
Knowing that there is a purpose
そこには大きな目的があると知っていて
Press on. Stand firm for all.
自ら進んで、みんなのために決意を固めている

Singapore. We’ll stay together
シンガポール、僕らは共に存在している
Singapore. The time has come
シンガポール、時は来た
Singapore. We’ll fight forever
シンガポール、永遠に戦う
Singapore. Unite as one
シンガポール、一つになろう


この曲は、もともとコロナとの戦いにおいて最前線で戦っている医療従事者に捧げられたものでした。しかし今の視点で見てみると、シンガポールに入国するために2週間ホテルに隔離になっている人たちなどのことも含まれるような気がします。当時12歳の少年や彼のクラスメートたちが歌ったこの歌は、隔離中の人々をも勇気づけているのだと思います。

私自身も2月末から2週間の隔離を経験したのですが、隔離することで、自分たちもシンガポールという国を守るために戦っているのだと思う瞬間がありました。部屋の中でじっとしているのは精神的に辛いのですが、みんなで協力して頑張っている、そんな気持ちがしました。

ちなみに、この歌詞の中に、’crowns’ are invading usという一節がありますが、ラテン語の「コロナ」というのは元々は、王冠という意味です。太陽のコロナは、王冠のように見えるのでそう呼ばれているのですが。コロナウィルスは、顕微鏡で見ると太陽のコロナのように見えるので、コロナウィルスと呼ばれるようになったのだそうです。

2020年4月25日夜空に響いた“Home”の大合唱



2020年4月25日の夜、7時55分から、シンガポールではおなじみの”Home”という曲をみんなで自宅の窓から歌おうというイベントがありました。医療従事者や生活に必要不可欠の業務に携わる人々、外国人労働者の皆さん、そして在宅でステイ・ホームする全ての人々への感謝のための合唱で、シンガポールのメディアが全面協力するイベントでした。



シンガポールの独立記念日のナショナル・デーのテーマ曲の一つで、1998年にテーマソングとなった曲です。最初に歌ったのは、女性歌手のキット・チャン(Kit Chan)。その後、何度かナショナル・デーで歌われるのですが、2011年に39人の歌手がフルオーケストラで歌うという企画があり、このビデオの演出はキット・チャンでした。こちらのビデオの最初に歌うのは、ディック・リー、2番目に登場するのがキット・チャンです。他にシンガポールの歌手が次々と登場します。



いろんなバージョンがあるのですが、こちらは、26人の最近の若手ミュージシャンたちが歌うバージョン。



歌詞とその翻訳をこちらに記載しておきました。

Whenever I am feeling low
気分が落ち込んだ時はいつも
I look around me and I know
周りを見渡すと、私はわかる
There's a place that will stay within me
心の中にずっと残っている一つの場所があると
Wherever I may choose to go
自分の選んだ行き先がどこであろうとも

I will always recall the city
いつも思い出すのはその都市のこと
Know every street and shore
通りや岸辺は知り尽くしている
Sail down the river which brings us life
船で下る河は私たちの活気の源
Winding through my Singapore
私のシンガポールを曲がりくねって流れている
This is home truly
ここは本当に故郷
Where I know I must be
私のいるべき場所はここだと知っている
Where my dreams wait for me
私の夢が私を待っている場所
Where that river always flows
河がいつも流れ続けている場所

This is home surely
ここは確実に故郷
As my senses tell me
自分の直感でわかる
This is where I won't be alone
ここにいると私は決して一人ではない
For this is where I know it's home
ここが故郷だとわかっている場所なのだから

When there are troubles to go through
何とかしないといけない問題がある時
We'll find a way to start anew
再始動する方法が見つかるもの
There is comfort in the knowledge
こんなことを思うと安心できる
That home's about its people too
故郷とはすなわち人々のことでもあると

So we'll build our dreams together
だから夢を一緒に作ろう
Just like we've done before
昔やってたみたいに
Just like the river which brings us life
私たちに生命を与えてくれる河のように
There'll always be Singapore
シンガポールはいつもここにある

For this is where I know it's home
ここが故郷だとわかっている場所なのだから
For this is where I know I'm home...
自分が故郷にいることを自覚できる場所なのだから


Homeという言葉を「故郷」と訳しましたが、本当は、「家」という意味、「住んでいる場所」という意味など色々な意味が込められています。また新型コロナと戦うためのStay Homeの物理的な家という意味ももちろんあります。


シンガポールの国歌

シンガポール人は誰でも知っている国歌は、マレー語です。この動画もサーキットブレーカー中にアップされていました。通常は誇らしげに、高らかに歌われるのですが、この動画では、しんみりと、スローに、これまでの長い静寂の期間を回顧するような雰囲気で歌われています。そして映像は、飛行機や、建物や、室内などに、プロジェクションで投影された写真が映し出されます。新型コロナでストップした時間です。そして、「時は変われど、我々の国民のスピリットは不変」というメッセージが現れます。最後に、首相の言葉が文字で登場します。「怖がらないでください。心を失わないでください。シンガポールの前進の歩みは決して揺るぎません」



感動的ですね。

2020年8月9日のナショナルデーソング



2020年のナショナルデーのテーマソングは、”Everythig I Am”という曲で、Joshua Wanが作詞・作曲し、ネイザン・ハルトノ(Nathan Hartono)という歌手が歌いました。サーキット・ブレーカーの期間のステイホーム、リモートワークの雰囲気に溢れています。曲調はスローで、パンデミックの中での思いやりや、絆を強調しています。



この1年間、いろいろと苦しい思い出もあるのですが、それを克服して、未来に向かって歩みつつあるシンガポールという国。みんなで頑張ってきたんだなという思いがあらためてします。

シンガポールを去らなければならなかった人、シンガポールに新たに来ることになった人、シンガポールに留まり続けた人、シンガポールに旅行や出張で来たくてもそれが叶わなかった人、それぞれが、いろいろな思いで、これらの曲を聴いていただけたかと思います。

シンガポールがこの一年、苦難を乗り越えてきた中で、これらの曲が人々の心を支え、応援してきたのだということを記録に残しておきたくて、これを書きました。最後まで読んでいただきありがとうございました。

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2 コメント

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Unknown (cremonaquartetto)
2021-04-11 17:44:26
いつも心温まるblog拝見しています。
イタリアから日本へ向けて帰国途中です、今までと全く違う渡航と隔離に臨みますがこちらの歌詞を読んで勇気が湧いてきました。ありがとうございます😊
返信する
Unknown (singaporesling55 )
2021-04-11 20:38:53
@cremonaquartetto コメントありがとうございます。翻訳した歌詞も読んでいただき嬉しいです。海外渡航や隔離はいろいろ大変ですが、頑張ってください。健康には気をつけてください。
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