
●8月6日(水)マチネ 筧・笹本・原田・岡・木村・泉見



何度観ても胸が一杯になってしまう。戦争…私も知らない世代であるけれど。
戦争はなぜ起こるのか?一部の国家レベル権力者が必要だと結論した時、戦争ははじまります。私たち一般民衆は踊らされるだけ。巧妙なプロパガンダを行えば民衆はついてくるのです。サイゴンの劇中で、クリスが叫ぶ「あの子を守りたかった。アメリカ人ならやれたはずだが…失敗した!何もかもだ!」これはベトナム戦争終結当時の多くのアメリカ人の思いであったのではないでしょうか?ベトナムを共産主義の浸透から救うためという名目でアメリカは介入したのですから。
ありんこ同然の私たちが、戦争という大きな壁に抵抗するには…?それは教育であると思います。信じることも大切だけれども、疑う事も同じくらい大事であること、ものごとにはいろいろな見方があることを知ること、様々な情報を集め、正しいことは何かを見極める力を付けること、そして自分にとって最適な道を見つけ進んでいく能力をつけること。そういう目を養う事が大切であるんではないかと。
そういう意味で、戦争にどっぷり巻き込まれるキムとクリス、トゥイは疑う事やずるい事を知らない純粋な人であってほしい。時勢に順応できるジョンやエンジニアは小狡く知的であってほしい。そういうイメージでのマイフェイバリットキャストは…!



今回は曲が変更になっていましたが…うーーん、どうかな?エレン、そんなにものわかりが良くていいのかな?次シーンの「どちらをとるの?彼女?わたし?」に繋がらないって感じがしました。
エレンについてはホテルでのシーンでのお衣装にモノ申したい。おっ?はだし?ここは欧米人らしさを出すためにも、ちゃんと靴(ハイヒールでなくて室内履きでもいいから)をはいていてほしかったかな。それからこの時代はリゾートファッションとか流行ったのかもしれないけれど…以前のフレアスカート・ブラウスの方が中流アメリカ人女性っぽくて良かった。
エレンについては毎回人物像が変わっているような気がします。まだ固まらないっていうか。必ずしも、今回のようなできた女性でなく、もっとわがままなエレンでもいいと思うんですけどね。

駒田さん。センターでのアプローズがこんなに様になるお方だったとは…(すみません


今期の原田クリスは圧巻でした。少年らしいナイーブさは影をひそめ、男らしく、よりGIらしくなっていたと感じます。感情の出し方もおなかの底から太く強く出す感じ。毎公演、毎公演こんなにガツンとした演技してて、大丈夫なのかしらん?と心配になります。毎回号泣でした



ちっちゃくて可愛い!タムとのシーンはちょっと姉弟に見えてしまう時もありましたが…。神田トゥイとの相性がとても良かった。神田トゥイと昆キムは、もし戦争がなかったら幼なじみのまま平凡な家庭を作って幸せに稲刈りでもしてたんじゃないかしら…なんてことを感じさせる温かいものが、あの残酷なやりとりの底にもほのかに流れていたように感じられたカップルでした。
今期サイゴンは5回観劇。1公演1観…もう言わない(笑)。市村エンジ降板等のアクシデントもありましたが、とにかくキャスト一体になっての熱い舞台でした。満足満足


劇場スタッフも頑張ってたよ!


ドリームランドのシーン、生々しすぎるという感想もあるようですが…あんなもんじゃない?日本の戦後を当てはめてはいけません。当時の北ベトナムはほほスターリン時代または北朝鮮。密告、監視、キャンプでの再教育、処刑、政府の美しいスローガンに隠される事実…そんな国家に飲み込まれる寸前の恐怖と絶望は壮絶だったと思います。一縷の望みをかけて米兵にアプローチする…そりゃあ何でもやったんじゃないかな。
そしてブイドイ。サイゴンでは何回か「恥」という言葉がでてきました。ベトナムは古くは中国の属国になり、フランスに占領され、今度はアメリカに国を許す。だからこそかも知れませんが…ベトナム人は民族としてのプライドが非常に高く、外国人嫌いの気質も相当持ち合わせているそうです。自国の女性が蹂躙されて辱められてできた子供…北の政権下では恰好な迫害の対象をなったことは間違いありません。そんな子供たちを生み出してしまった自分達の非を認め「みんな我らの子」とまで言えるようになる。岡ジョンの1幕と2幕の鮮やかな変身ぶりの背景には、相当な葛藤があったと思います。過去を受け入れ乗り越える強さとしたたかさがあると思うのです。ジョンの態度を傲慢ととらえるむきもありますが…確かにそうかもしれませんが、ブイドイを歌う岡ジョンには、同時に強さと美しさと哀しさを感じます。
ジョンはこのメンバーの中で、唯一自分の置かれた状況を客観視できていた人だと思います。ナイトメアでは「戦争だぞ、今は」「手遅れだ、ここで裏切るのは彼女だけじゃないのだ」…そして今期はなかったんだけど、ヘリに乗り込んだ直後に自分達のしてきた事を確認するかのように地上を一瞥するジョン(この演技、ぜひ復活してほしいです!)。私だけかもしれませんが、この舞台の中では、岡ジョンが一番共感できる。タムへの対応も、ジョンがクリス夫妻に言いたかった事は「キム親子の人生に中途半端にかかわるな」って事だったんじゃないかな~。覚悟もなしに係わればまた戦争と同じ間違いをおかすことになる。だから「間違っている」というつぶやきになるのではないでしょうか?
なんだかだらだら思うところを書いては消し書いては消しをしていたら、長い時間がかかってしまいました。ミスサイゴンという舞台で、私はなぜこんなに心がゆさぶられるのか…うーーん、極限に追い込まれた人々が見せる、奥底にしまいこまれた人間性というものが、醜悪でもあり純粋で美しくいじらしくもある…そういう事を感じさせてくれる舞台だからなんでしょう、きっと。
