日本における犬の飼育頭数はおよそ1,310万頭(2008年の拡大推測値。ペットフード工業会調べ)。日本の全世帯数が約5,000万世帯ということですから、犬を飼っている世帯が占める割合はかなりの割合だといえます。
世界には700から800種類の犬がいるといわれていますが、国際畜犬連盟によって公認されているのは339犬種(2008年6月現在)。JKC(ジャパンケネルクラブ)ではそのうち187犬種を登録しています。つまり日本には公認されている純血種だけでも187犬種がいて、飼育数を考えればそのほかミックス犬と呼ばれている犬たちも数多くいるわけです。
それでも続々と新たな犬種を作ろうとしている人たちがいる。一昨年、こんな謳い文句で購買意欲を煽っているペットショップのチラシが新聞に折り込まれてきました。
「アメリカでは『デザイナーズ・ドッグ』として数年前からブームのMIX犬がついに日本上陸! 異なる純血種同士の愛の仔・MIX犬たちは、カワイイとこどりでオリジナリティたっぷり!! 最近では血統書のあるミックス犬もでてきました。」
もう充分じゃないか、と思いましたね。愛玩犬にしろ使役犬にしろ、これだけさまざまな犬種が作出され、選択の幅も広がっているのに、もう充分じゃないかと。しかもミックス犬に血統書がある? このショップが任意団体を作って、勝手に発行しているのだろうか。
決してミックス犬を否定しているわけではありませんよ。
「トイ」グループに属する、いわゆる愛玩犬と呼ばれる小型犬たちも愛玩目的に作出された犬種ですから、純血種として固定化されるまでは、ほかの犬との交配を重ねたミックス犬の時代があったわけです。
秋田犬だって、四国の土佐犬や明治になって入ってきたマスティフと思われる犬、ジャーマン・シェパード、グレートデーンなどとの交配も行われ、大型犬としての秋田犬が誕生したといわれています。
ですから、ほとんどの犬種が意図的なブリーディングによって作出されたといっても過言ではないのだと思います。ですが、種が固定化するまでには長い歳月が必要で、1代、2代の話ではありません。
チラシにある「愛の仔」とか「カワイイとこどりでオリジナリティたっぷり!!」などの浮かれた言葉からは、どういう犬をどういう目的で作出しようとしているのか全く伝わらないどころか、犬種の特性や遺伝疾患を深く考えず、見た目の可愛さや珍しさのために安易にかけ合わせ、購買意欲をくすぐろうとしているとしか思えない軽薄さを感じてしまう。
現在、ミックス犬とかハーフ犬と呼ばれている犬には、こんな犬種名がついているようです。
パグル(パグ×ビーグル)
ボーグル(ボクサー×ビーグル)
ヨーキプー(ヨークシャーテリア×プードル)
シーポン(シーズー×ポメラニアン)
パピマル(パピヨン×マルチーズ)
パピチーズ(パピヨン×マルチーズ)
マルダックス(マルチーズ×ダックス)
ヨーチー(チワワ×ヨーキー)
パピプー(パピヨン×プードル)
ラブラドゥードル(ラブラドール×プードル)
ラブラドゥードルのように、ラブラドールの抜け毛の多さを、抜け毛の少ないプードルとかけ合わせることでカバーしようという意図で作出された犬種もありますが、だからといってラブラドゥードルはまだ作業犬(特に盲導犬や介助犬)には使われてはいません。
純血種だろうがミックス犬だろうが、遺伝疾患の重大性を理解せずに繁殖するべきではないと思うし、それよりもまず、犬にブームを作りなさんなと言いたい。アメリカやヨーロッパで流行しているなんて言われようが、CMで愛くるしい仕草をしようが、そんなことだけで犬を飼う気になってはいけませんと言いたい。