「ミュージカルの時代」扇田昭彦著
私が観ることのできなかった舞台で映像に残っていないものはたくさんある。
この「異邦人」もそうだ。
なにせ、舞台の写真がどこにも載っていないので
未来永劫見れないかと思っていたら
こういう本に写真があって、一枚でも生の写真があると想像できて楽しい。
これはACTシリーズがもうスタートしている頃の加藤直演出の舞台。(1995年)
アングラ的なニオイがする?
「共産主義運動の政治用語や前衛芸術の用語がふんだんに出てくる作品に当惑した様子の沢田ファンも会場に見うけられたが、沢田研二の演技はこの暗くなりがちな舞台に輝きと柔らかさを与えていた。」
「つまりここには二種類の佐野碩がいるのだ。
第一は女たちを渡り歩くことで危機的な時代をしたたかに生き延びたピカレスク(悪漢)型人間としての佐野碩。
そして第二はスターリニズムによって変質した革命と粛清の時代を生きた、キリストのイメージさえ与えられた悲劇的受難者としての佐野碩である。」
「このうち沢田研二の魅力が輝くのは、むろん前者のドン・ファン的「女たらし」の面である。
しかも、甘さをたたえた沢田の明るい演技と聞かせる歌の力で、女性たちを手玉にとり、次々と捨てていく展開をとりながら、それが少しもいやらしく見えない。」
「三時間近い舞台を、装置としてふたつの大きな食卓だけで通した、加藤直の演出はなかなか洗練されていた。」
この本は演劇評論家の扇田昭彦さんが書いた本だが、
すごくわかりやすい批評で、無知な私にもよく舞台が想像できて、ほんとに嬉しいです。