今日の朝日新聞・科学欄
(ユリイカ!)北磁極の動き、謎の加速
2019年5月9日05時00分
地球は巨大な磁石であり、磁場の向きは方位磁針でわかる。針が示す「北」である
「北磁極」は北極点とは位置が違い、常に移動している。
そのスピードが、昔に比べて非常に速くなり、地球物理学者たちを戸惑わせている。
加速したのは20世紀後半からだ。それまで年に10キロほどだったペースが、
2000年ごろには約50キロになった。北磁極はもともとカナダ北部に位置して
いたが、18年にはついに日付変更線を越えてロシア側の東半球に入り込んだ。
地磁気のほとんどは地球の核を流れる電流によって発生・維持されているが、
何か異変が起きているのか。京都大の田口聡教授は「速く動いている理由はよく
わかっていない」と話す。また、東京工業大の松島政貴助教は、「現在の地磁気
は過去500万年の平均的な強度の2倍程度あり、消失や逆転につながるとは言
えない」とも語る。
方位を調べるため、航空機やスマートフォンにも地磁気センサーがついている。
今のところ大きな影響はないが、地の底で何が起きているのか、ちょっと気になる。
(勝田敏彦)
⚫北磁極はカナダ北部と思っていたところ、日付変更線を越えてロシア側の東半球
に移動したという。
気象庁 地磁気観測所 HPから
地球電磁気の Q & A
Q3.地磁気の極と地理上の極は違うのですか?
A3.
違います。とは言ってもちょっと事情が複雑です。なぜなら、地磁気の極には「磁極」
と「地磁気極(または磁軸極)」という2つの極があるからです。
さて、現在の日本では方位磁針のN極(通常は赤いほう)の指す方角は「真北」では
なく、少しだけ西の方に偏ります。実はこれと同時に方位磁針のN極は下を向いてい
るのです(実際の方位磁針はこのことを考慮して針の重量バランスを取っているので
ほぼ水平になります)。真北から偏る角度を「偏角」、下を向く角度を「伏角」と言
います。この偏角の方向、つまり方位磁針のN極の指す方へ向かってずっと進んで行
くと伏角は次第に大きくなり、ついには方位磁針のN極が真下を向くところにたどり
着きます。この地点を「北磁極」と言います。逆に、方位磁針のS極の指す方へ向か
ってずっと進んで行くと、今度は方位磁針のS極が真下(N極が真上)を向く地点に
たどり着きます。この地点を「南磁極」と言います。この2点が「磁極」です。
1980年には、「北磁極」はカナダ北方のN77.0°、W102.0°、「南磁極」は南極大陸
近傍のS66.5°、E139.09°にあったとされています(図3-1)。
図3-1 磁極、地磁気の位置
ここで簡単な問題を1つ。「南北2つの磁極はどちらがN極でどちらがS極でしょ
うか?」。勘違いしやすいのですが、北磁極はS極、南磁極はN極というのが答です。
磁石のN極はS極に引かれます。方位磁針のN極を引きつけるので、北磁極はS極な
のです。
ところで、地球上の各地で地磁気の観測(偏角や地磁気の持つ力の観測)をすると地
磁気の分布図ができます。ここで地球内部に1つの棒磁石(正確には磁気双極子)が
あると考えましょう。この棒磁石が存在することによって計算される地磁気の分布が
観測された分布図と同じになるよう棒磁石の方向を設定します。こうして考えられた
棒磁石の長さ方向への延長線が地表面へ出てくる2地点をそれぞれ「地磁気北極(北磁軸極)」、
「地磁気南極(南磁軸極)と言います。この2点が「地磁気極(磁軸極)」です。
1990年現在、「地磁気北極」はN79.1°、W71.1°、「地磁気南極」はS79.1°、E108.9°
にあるとされています(図3-2)。
図3-2 磁極の移動、左:北磁極、右:南磁極
「磁極」と「地磁気極(磁軸極)」の定義は上述のとおりです。ここまでに気付いた
方もいると思いますが、「地磁気極」は地球の中心に対して対称な位置にあり、一方、
「磁極」は対称な位置にはありません。地磁気極が対称な位置にあるのは定義から明らか。
では磁極が対称になっていないのはなぜか。これはれっきとした観測事実なのですが
その原因は地磁気の成因とも深い関わりがあり、まだよくわかっていないのが現状です。
終わりにもう1つ。上の説明の中で「◇○年現在、極の位置は・・・とされています」
という表現にしているのを疑問に思った方もいるでしょう。地磁気の観測が始まって
200年近くになりますが、その歴史の中で図3-2のように「磁極」が移動していること
が判明しました。さらに、岩石の生成過程で岩石中に閉じ込められた磁気(残留磁気)
を分析するという手法で過去に遡ってみると、磁極は移動どころか「逆転」している
時代もあり、その逆転も何度も繰り返されていることがわかっています。そのため、
このような表現になってしまうわけです。
(ユリイカ!)北磁極の動き、謎の加速
2019年5月9日05時00分
地球は巨大な磁石であり、磁場の向きは方位磁針でわかる。針が示す「北」である
「北磁極」は北極点とは位置が違い、常に移動している。
そのスピードが、昔に比べて非常に速くなり、地球物理学者たちを戸惑わせている。
加速したのは20世紀後半からだ。それまで年に10キロほどだったペースが、
2000年ごろには約50キロになった。北磁極はもともとカナダ北部に位置して
いたが、18年にはついに日付変更線を越えてロシア側の東半球に入り込んだ。
地磁気のほとんどは地球の核を流れる電流によって発生・維持されているが、
何か異変が起きているのか。京都大の田口聡教授は「速く動いている理由はよく
わかっていない」と話す。また、東京工業大の松島政貴助教は、「現在の地磁気
は過去500万年の平均的な強度の2倍程度あり、消失や逆転につながるとは言
えない」とも語る。
方位を調べるため、航空機やスマートフォンにも地磁気センサーがついている。
今のところ大きな影響はないが、地の底で何が起きているのか、ちょっと気になる。
(勝田敏彦)
⚫北磁極はカナダ北部と思っていたところ、日付変更線を越えてロシア側の東半球
に移動したという。
気象庁 地磁気観測所 HPから
地球電磁気の Q & A
Q3.地磁気の極と地理上の極は違うのですか?
A3.
違います。とは言ってもちょっと事情が複雑です。なぜなら、地磁気の極には「磁極」
と「地磁気極(または磁軸極)」という2つの極があるからです。
さて、現在の日本では方位磁針のN極(通常は赤いほう)の指す方角は「真北」では
なく、少しだけ西の方に偏ります。実はこれと同時に方位磁針のN極は下を向いてい
るのです(実際の方位磁針はこのことを考慮して針の重量バランスを取っているので
ほぼ水平になります)。真北から偏る角度を「偏角」、下を向く角度を「伏角」と言
います。この偏角の方向、つまり方位磁針のN極の指す方へ向かってずっと進んで行
くと伏角は次第に大きくなり、ついには方位磁針のN極が真下を向くところにたどり
着きます。この地点を「北磁極」と言います。逆に、方位磁針のS極の指す方へ向か
ってずっと進んで行くと、今度は方位磁針のS極が真下(N極が真上)を向く地点に
たどり着きます。この地点を「南磁極」と言います。この2点が「磁極」です。
1980年には、「北磁極」はカナダ北方のN77.0°、W102.0°、「南磁極」は南極大陸
近傍のS66.5°、E139.09°にあったとされています(図3-1)。
図3-1 磁極、地磁気の位置
ここで簡単な問題を1つ。「南北2つの磁極はどちらがN極でどちらがS極でしょ
うか?」。勘違いしやすいのですが、北磁極はS極、南磁極はN極というのが答です。
磁石のN極はS極に引かれます。方位磁針のN極を引きつけるので、北磁極はS極な
のです。
ところで、地球上の各地で地磁気の観測(偏角や地磁気の持つ力の観測)をすると地
磁気の分布図ができます。ここで地球内部に1つの棒磁石(正確には磁気双極子)が
あると考えましょう。この棒磁石が存在することによって計算される地磁気の分布が
観測された分布図と同じになるよう棒磁石の方向を設定します。こうして考えられた
棒磁石の長さ方向への延長線が地表面へ出てくる2地点をそれぞれ「地磁気北極(北磁軸極)」、
「地磁気南極(南磁軸極)と言います。この2点が「地磁気極(磁軸極)」です。
1990年現在、「地磁気北極」はN79.1°、W71.1°、「地磁気南極」はS79.1°、E108.9°
にあるとされています(図3-2)。
図3-2 磁極の移動、左:北磁極、右:南磁極
「磁極」と「地磁気極(磁軸極)」の定義は上述のとおりです。ここまでに気付いた
方もいると思いますが、「地磁気極」は地球の中心に対して対称な位置にあり、一方、
「磁極」は対称な位置にはありません。地磁気極が対称な位置にあるのは定義から明らか。
では磁極が対称になっていないのはなぜか。これはれっきとした観測事実なのですが
その原因は地磁気の成因とも深い関わりがあり、まだよくわかっていないのが現状です。
終わりにもう1つ。上の説明の中で「◇○年現在、極の位置は・・・とされています」
という表現にしているのを疑問に思った方もいるでしょう。地磁気の観測が始まって
200年近くになりますが、その歴史の中で図3-2のように「磁極」が移動していること
が判明しました。さらに、岩石の生成過程で岩石中に閉じ込められた磁気(残留磁気)
を分析するという手法で過去に遡ってみると、磁極は移動どころか「逆転」している
時代もあり、その逆転も何度も繰り返されていることがわかっています。そのため、
このような表現になってしまうわけです。