(2月19日)
前回の復習。
数え方には序数詞(nombre ordinal)と基本数詞(nombre cardinal)がある。序数詞とは数の順番でそれ自体に数量の意を持たない。日本語には序数詞が見あたらないが、投稿子は古い数え方の「チュウチュウタコ…」を挙げた。最後の「ナ」で5を分ける。基本数詞は数量を表すので、個別に(順番なし)でも用いられる。3姉妹と云えるけれど、「タコ」姉妹の用法はない。両の数詞を結びつけるmediateur(仲介)が基本数詞に含意される絶対数量であるとレヴィストロースは自説を展開する。
新大陸先住民は兄弟(姉妹)の名称に序数詞を用いる。兄妹、姉弟のあわせ数えは(引用される神話に限り)検証されない。あくまで男、あるいは女の数である。長兄、次兄と続いて6兄までの固有の序数詞が復元されている(らしい)。先住民は10進法なので兄弟は10で終わり。最後の10の弟を表すにbenjamin=末っ子末弟が都合がよい。先住民の語法では、この末弟にmediateurを通して10という神聖な数が被さる。10とは「plenitude, puissance, satulation充満、力、飽和」の意味がこもるとレヴィストロースは教える。
M476(289頁)Fox族の伝承は;
Benjamin末弟に課された義務は「失われた魔法の矢」探し、無事に戻ること。探査に10日帰還に10日の猶予が与えられた。一日探して村に宿を借りる、宿先では主に見込まれ「娘の婿に」を申し入れられる。benjaminの答えは「今は流浪の身、あの矢を探し出しての帰り道にきっと立ち寄るから」これを10夜繰り返し、魔法の矢を見つけ出しての帰り路は行きの逆で10の嫁を引き連れて村に凱旋した。
兄達に長兄には歳のいった娘、次兄にはその次と己の嫁を振り分けた。自身にはもっとも若く(見目の良い)娘を残した。この采配が兄達に嫉妬を引き起こす。

写真:有力部族ブラックフットの戦士10人組、数は幾分か多いが追軍下女らしきが混ざるので男は10。
この神話には幾つかの留意点が読み取れる。
1 矢探しは末弟への通過儀礼の隠喩である。矢を見つけだして20日で戻らなければ成人になれない。達成しないと集団は9の数のまま、未完成にとどまる。冒険に困難さが伴った。これは10という特別な数字を背負う者への必要条件であって、易しい試練で験したら達成しても、その者はひ弱かもしれぬ。すると本来持つはずのpuissance力が充満しない。(そもそも、多くの部族で通過儀礼は過酷。ベンテコスト島のバンジージャンプはその好例)
2 過酷な試練を失敗も犯さず末弟は成就する。すると10兄弟集団は長兄から末弟の統治に移行する。末弟による嫁の振り分けがその例。<<Dans le mythe des freres celibataires, l’aine le sait fort bien, et c’est la le motif de sa jalousie>(289頁)訳;独身兄弟の神話では、長兄はそれ(統治の代替わり)を知るから、末弟の成功に嫉妬する。M476では末弟は9人の兄に殺される。
3 嫁らはそれぞれが異なる家族の出。彼女らを10という単位に取りまとめなければならない。benjaminが一旦、すべてを己の嫁に迎えた理由が10の力の整合であった。すると10の兄弟にしても同じ両親の血を分けた兄弟とは限らないとも推察できる。同じ村落での10の同胞であろうし、9人集団が10番目の若者を試練でえり好みしていたかもしれない。一群の独身兄弟神話には父母の存在が希薄である。
4 10を達成した集団が次に求める数は11でも12でもない。もう一つの10である。11、12という序数詞は(投稿子は知らないが)無い。次の10を形成するため始めから「長兄、次兄...」と序数詞で呼ばれる。また10と10の邂逅で、M476では同盟の樹立となるが、神話が伝える多くは闘争である。10は例えば10の首級を求めるために、他方の10を殲滅して、集団puissanceを貯える。(1~4の論点は一部が投稿子解釈だが、多くはレヴィストロース文中の示唆による)
M475神話(Menomini族、東の空の姉妹)を紹介する。
東の空に10姉妹が住む。時折、地上に下り立ち男を誘惑し殺し、心臓を抜いて身は皆で食べ分ける。地上には女が一人、弟(ヒーロー)を育てるが、人食い天女を怖れ、用心深く弟を小屋の内に籠もらせる。ヒーローが成人(思春)を迎える年頃になった、見計らった10姉妹は地に下り前に立った。後ろには誘惑され殺された亡霊9人が生気なく従う。
ここでヒーローは亡霊に暖かい息を吹きかけ正気を取り戻させる。そして目の前の10姉妹、それぞれの誘惑にもっとも歳の行った(醜い)女を選んだ。この選択が賢明、実は一番若く綺麗で、夫への気遣いを惜しまない末娘だった。<<en realite elle est la plus jeune at la plus jolie ; la plus compatisante aussi, puisqu’elle revela a son mari l’endroit secret ou ses seors dissimilaient les coeurs ravis aux prisonniers> 夫に秘密の場所、誘惑した男どもから抜きとった心臓の隠し場所を教えた。
レヴィストロース「食事作法の起源」を読む(続き) 15の了
(次回2月22日を予定)
前回の復習。
数え方には序数詞(nombre ordinal)と基本数詞(nombre cardinal)がある。序数詞とは数の順番でそれ自体に数量の意を持たない。日本語には序数詞が見あたらないが、投稿子は古い数え方の「チュウチュウタコ…」を挙げた。最後の「ナ」で5を分ける。基本数詞は数量を表すので、個別に(順番なし)でも用いられる。3姉妹と云えるけれど、「タコ」姉妹の用法はない。両の数詞を結びつけるmediateur(仲介)が基本数詞に含意される絶対数量であるとレヴィストロースは自説を展開する。
新大陸先住民は兄弟(姉妹)の名称に序数詞を用いる。兄妹、姉弟のあわせ数えは(引用される神話に限り)検証されない。あくまで男、あるいは女の数である。長兄、次兄と続いて6兄までの固有の序数詞が復元されている(らしい)。先住民は10進法なので兄弟は10で終わり。最後の10の弟を表すにbenjamin=末っ子末弟が都合がよい。先住民の語法では、この末弟にmediateurを通して10という神聖な数が被さる。10とは「plenitude, puissance, satulation充満、力、飽和」の意味がこもるとレヴィストロースは教える。
M476(289頁)Fox族の伝承は;
Benjamin末弟に課された義務は「失われた魔法の矢」探し、無事に戻ること。探査に10日帰還に10日の猶予が与えられた。一日探して村に宿を借りる、宿先では主に見込まれ「娘の婿に」を申し入れられる。benjaminの答えは「今は流浪の身、あの矢を探し出しての帰り道にきっと立ち寄るから」これを10夜繰り返し、魔法の矢を見つけ出しての帰り路は行きの逆で10の嫁を引き連れて村に凱旋した。
兄達に長兄には歳のいった娘、次兄にはその次と己の嫁を振り分けた。自身にはもっとも若く(見目の良い)娘を残した。この采配が兄達に嫉妬を引き起こす。

写真:有力部族ブラックフットの戦士10人組、数は幾分か多いが追軍下女らしきが混ざるので男は10。
この神話には幾つかの留意点が読み取れる。
1 矢探しは末弟への通過儀礼の隠喩である。矢を見つけだして20日で戻らなければ成人になれない。達成しないと集団は9の数のまま、未完成にとどまる。冒険に困難さが伴った。これは10という特別な数字を背負う者への必要条件であって、易しい試練で験したら達成しても、その者はひ弱かもしれぬ。すると本来持つはずのpuissance力が充満しない。(そもそも、多くの部族で通過儀礼は過酷。ベンテコスト島のバンジージャンプはその好例)
2 過酷な試練を失敗も犯さず末弟は成就する。すると10兄弟集団は長兄から末弟の統治に移行する。末弟による嫁の振り分けがその例。<<Dans le mythe des freres celibataires, l’aine le sait fort bien, et c’est la le motif de sa jalousie>(289頁)訳;独身兄弟の神話では、長兄はそれ(統治の代替わり)を知るから、末弟の成功に嫉妬する。M476では末弟は9人の兄に殺される。
3 嫁らはそれぞれが異なる家族の出。彼女らを10という単位に取りまとめなければならない。benjaminが一旦、すべてを己の嫁に迎えた理由が10の力の整合であった。すると10の兄弟にしても同じ両親の血を分けた兄弟とは限らないとも推察できる。同じ村落での10の同胞であろうし、9人集団が10番目の若者を試練でえり好みしていたかもしれない。一群の独身兄弟神話には父母の存在が希薄である。
4 10を達成した集団が次に求める数は11でも12でもない。もう一つの10である。11、12という序数詞は(投稿子は知らないが)無い。次の10を形成するため始めから「長兄、次兄...」と序数詞で呼ばれる。また10と10の邂逅で、M476では同盟の樹立となるが、神話が伝える多くは闘争である。10は例えば10の首級を求めるために、他方の10を殲滅して、集団puissanceを貯える。(1~4の論点は一部が投稿子解釈だが、多くはレヴィストロース文中の示唆による)
M475神話(Menomini族、東の空の姉妹)を紹介する。
東の空に10姉妹が住む。時折、地上に下り立ち男を誘惑し殺し、心臓を抜いて身は皆で食べ分ける。地上には女が一人、弟(ヒーロー)を育てるが、人食い天女を怖れ、用心深く弟を小屋の内に籠もらせる。ヒーローが成人(思春)を迎える年頃になった、見計らった10姉妹は地に下り前に立った。後ろには誘惑され殺された亡霊9人が生気なく従う。
ここでヒーローは亡霊に暖かい息を吹きかけ正気を取り戻させる。そして目の前の10姉妹、それぞれの誘惑にもっとも歳の行った(醜い)女を選んだ。この選択が賢明、実は一番若く綺麗で、夫への気遣いを惜しまない末娘だった。<<en realite elle est la plus jeune at la plus jolie ; la plus compatisante aussi, puisqu’elle revela a son mari l’endroit secret ou ses seors dissimilaient les coeurs ravis aux prisonniers> 夫に秘密の場所、誘惑した男どもから抜きとった心臓の隠し場所を教えた。
レヴィストロース「食事作法の起源」を読む(続き) 15の了
(次回2月22日を予定)
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