去年、父と母と亡くしたわけだが、実は、もうひとり知り合いを亡くしている。それが山本さんだ。山本さんは去年、ちょうど70でガンで死んだ。いろいろあって、歳はかなり離れているが、10年近くのおつき合いだった人だ。カラオケ教室の先生で、歌がうまかった。プライベートでCDも出していた。
山本さんはちょっと変わった人だった。何となく悟りきっているような人だった。歳を食って、それまで特殊な生き方をしてきた人は何かの拍子でこんな感じになるのだろうかと観察していたのだが、そうではなかった。それ何なのかが、ようやくわかったのは、彼が死んでからだ。
最期は、ガンが発覚して、そのときには、もう医療の手の施しようがなく、自然に死したのだが、自分の葬式の準備をきっちりやったり、周りの人にあいさつして回ったり、あわてず、ずいぶんと落ち着いて死を迎えた。
実は、ワシが知り合いになるうっと前に、いちどガンにかかっていて、その時に死を覚悟したらしい。いっぺん死を見てそれを身近に感じたところから、悟りきった印象を与えていたようだった。生前、カラオケで歌を聴かせてもらったが、何とも味のある歌であった。不思議な魅力が歌ににじんでいた。