明日、野球やめます 鳥谷敬 著 集英社
2003年から2019年までの16年間を阪神タイガース、2020年から2021年までの2年間を千葉ロッテマリーンズに在籍し、18年間プロ野球で活躍された鳥谷選手の引退後初の著書。プロ野球選手時代の鳥谷選手はクールであまりしゃべらないというイメージでしたが、引退後、プロ野球の解説やいろいろな番組に出演されて饒舌に語っておられたのを見てそのイメージのギャップはなぜなんだろうと思ったのがきっかけで書店で見掛けて読んでみようと思い図書館で予約してやっと順番が回ってきて読んだ本でした。
この本では18年間のプロ野球人生の軌跡、プロ野球選手をやめない理由とやめる理由、家族の話、人生を歩んで行く上での考え方や行動のしかた、これからはじめたいことなどについて飾らない言葉で素直に語られていました。
プロ野球選手時代、多くを語らぬようにされてきたのは野球に専念するための一種の対策であったようです。愛想を振り翳さない不愛想な鉄仮面をきちっと演じ切っておられたので、一見あまりしゃべらないクールな人なのかなと勝手なイメージが植え付けられたのだろうと思いました。そのクールに見えていた姿は野球人生の多くをスタメンで遊撃手として活躍され続けて来られるために考え尽くされた対策のひとつだったことがこの本を読んだらよく伝わってきました。引退後にテレビなどで映る鳥谷さんの姿や話し方は野球に集中するための不愛想な鉄仮面がもう必要でなくなったので、流暢に話をされたり素に近い普段の姿をお見せになられているのでしょうと思いましたし、そもそもそんなお姿が本来のお姿なのだろうと想像できました。
この本の中で印象に残ったことがいくつかありました。入団してからやめるまで、毎日試合に出る前の準備の仕方やトレーニングの仕方や遊撃手としての守備のしかたなどいろいろな準備を大切にし続けて毎日同じことを積み重ねて来られたことが唯一誇れるものだと言及されていたこと、悩むことがほとんどなく怒りも無駄と考えておられたこと、すべてのことに前向きに物事を捉えておられることでした。自ら選び自ら考え自ら実践して自ら責任を持って物事を進めて行くことはなかなかできないことですがそれを実践されている潔よさを感じました。常に確固としたポジティブな信念を持ち続けておられたのもよく伝わってきました。また、野球が好きで好きでたまらないという方ではなくサッカーが好きだったときがあったことや高校に入るときに野球を止めてサッカーをしようかと思ったときにお父さんが野球だけは続けて欲しいと言われたことが野球を続けるきっかけになっておられたこと、阪神のユニフォームを脱がないといけなくなったときに奥さんやお子さんたちからどんな形でもいいから野球に携わって欲しいと言われたことがそのまま引退されずにもう一勝負したいと思われた決め手になっていたことなどが特に印象に残りました。ロッテに移籍されてから阪神タイガースに在籍されていたときに恵まれていたことを改めて知られたこと、阪神ファンの有り難さにも言及されていたのも印象に残りました。
この本で語られていた内容は野球というひとつのことに一生懸命打ち込んで来られた鳥谷さんの経験をもとにいろいろな立場に置かれたときにどう考え対処できるかというヒントを教えてくれている本だった気がします。