愛媛の伝承文化

大本敬久。民俗学・日本文化論。災害史・災害伝承。地域と文化、人間と社会。愛媛、四国を出発点に考えています。

さあ、八幡浜市民ギャラリーに行くべし!

2011年05月08日 | 地域史
現在、八幡浜市民ギャラリー・郷土資料室では八幡浜郷土史企画展「風をとらえた人々-二宮忠八・西井久八・山下宅治と渡航者たち-」が開催されている。会期は5月29日まで。二宮忠八と言えば、世界に誇る飛行機の父。西井久八はアメリカ移民の父。山下宅治はアメリカでの市民権運動の先駆者であり、いずれも明治から昭和にかけての八幡浜人の進取の精神を体現してきた人物である。この企画展の開催のきっかけは、昨年、千葉県の佐倉市にある国立歴史民俗博物館において「アメリカに渡った日本人と戦争の時代」という展示コーナーが設けられ、そこに八幡浜市内からも数多くの資料が出品されていたことにある。その展示が終了し、資料が地元に返却されるため、八幡浜市教育委員会が個々の所蔵者に返却する前に一度、地元でも披露する意味もあって開催することになったようだ。しかし、国立歴史民俗博物館での展示をそのまま移動展示しているわけではない。国立歴史民俗博物館では展示されていなかった新たな地元資料を数多く組み込み、再構成した内容となっている。移民史だけではなく二宮忠八に関する新資料も紹介している。その意味で、展示はバージョンアップした内容となっている。私も佐倉で展示されていた際には2度、八幡浜の移民資料を見たが「移民母村」のコーナーで密航とアメリカの風の紹介が中心で、排日運動や強制収容、送還、そして強制収容後の移民・日系社会などに関するコーナーでは他県の資料や事例が紹介されていた。今回の八幡浜の展示は、地元資料を新たに加えて再構成しており、まさに八幡浜のアメリカ移民史の集大成といえる。

私は以前にも紹介ことがあるが、八幡浜はある意味、国際都市であると主張している。というのも明治時代以降、渡米した人が非常に多く、今でもアメリカに親類が住んでいるという住民は非常に多く、現在、在米の八幡浜出身者は約1万人いるという八幡浜市誌の記述もある。現在の八幡浜の人口4万人に対しての1万人である。海岸部の向灘や川上、真穴などでは、その割合はさらに増す。八幡浜の近代の歴史を語る上では、アメリカ移民史は欠くことのできないテーマなのである。

今回の展示は、歴史的事実としての明治・大正・昭和の夢と希望と挫折と克服の物語である。史実としての重みは非常に大きい。ドラマではない。小説でもない。地元の事実としての歴史を感じることができるものだ。会期は5月29日までと短いが、八幡浜の人にはぜひ一度は足を運んでほしい。