愛媛の伝承文化

大本敬久。民俗学・日本文化論。災害史・災害伝承。地域と文化、人間と社会。愛媛、四国を出発点に考えています。

被害の大きい北関東の町並み 全国町並み保存連盟より

2011年05月14日 | 災害の歴史・伝承
本日(5月14日)の夕方、全国町並み保存連盟に加盟している「地域ネット研究会UWA」の会合があったので参加してきました。大洲市の澄田恭一先生の講演がメインで、演題は「足もとを掘れ、そこに泉湧く」。大洲の歴史や文学に関する話題をわかりやすく教えていただきました。澄田先生ありがとうございました。

さて、本日の会合で、全国町並み保存連盟「町並み・みに・かわら版」の号外(2011年4月18日付)が各会員の手元に配られました。2008年10月に愛媛県西予市を主会場に全国町並みゼミ卯之町大会の準備や開催・運営のお手伝いをした縁で、保存連盟に加盟している全国の団体や会員さんとのつながりがありますが、3月11日の東日本震災以来、具体的な被災情報が集約されてこなかったので心配していたところでした。

以下、その「かわら版」号外に掲載された内容をピックアップして紹介します。

昨年度、町並みゼミを開催した岩手県盛岡市(盛岡まち並み塾)。余震やライフラインの断絶、物資不足に悩まされたが、大きな被害はなく、ゼミ会場だった鉈屋町の旧番屋を拠点に、沿岸部の支援活動を行っているとのことです。

また、「美しい角館を守る会」(秋田県)、「恊働組合会津復古会」(福島県)、「大内宿保存会」(福島県)、「喜多方のれん会」(福島県)、「栃木蔵街暖簾会」(栃木県)、「NPO川越蔵の会」(埼玉県)、「NPO佐倉一里塚」(千葉県)からも大きな被害はないとの連絡があったそうです。

長野県、静岡県でも大きな地震がありましたが、「越後村上・城下町まちなみの会」(新潟県)、「妻籠を愛する会」(長野県)、「奈良井宿保存委員会」(長野県)からも被害がないとのことです。

被害の大きい町並みは北関東に多く、あと、町並み保存連盟でも、東北地方で状況把握のできていない地域もまだあるそうです。

「NPO共楽館を考えるつどい」(茨城県日立市)
共楽館は、耐震補強工事を終了しており、被害はない。

「NPO龍ヶ崎の価値ある建造物を保存する市民の会」(茨城県)
登録有形文化財の旧小野瀬家は修理済みで被害はなかったが、登録文化財の候補が数件被害を受けている。

「NPO小野川と佐原の町並みを考える会」(千葉県)
液状化が起こり、町並みの中でも、千葉県指定文化財の土蔵を中心に、瓦が落ちる、土壁が崩れるなどの被害がでている。伊能忠敬旧宅も大棟が落下。近年修理していた建物は被害が小さい。被害状況は、同会のホームページでも紹介されています。
http://www.sawara-machinami.com/


また、昨年、国の重伝建地区に選定された茨城県桜川市真壁では、石蔵、土蔵が倒壊、多数の家屋で瓦が落ちるなどの被害を受けています。

関東ブロックゼミを昨年開催した群馬県桐生市の本町一丁目、二丁目地区は、伝建地区指定に向けて準備を進めていましたが、瓦や棟が落下、多くの土蔵で漆喰や土壁が落ち、有隣館も被害を受けています。

連盟が数年前に景観調査をした茨城県つくば市では、登録文化財の宮本家住宅の屋根が崩落。つくば参道の町並みは、旧郵便局のポストの方向が変わり、石垣が崩れているなどの被害が出ています。

以上が全国町並み保存連盟からの情報です。

なお、全国町並み保存連盟のホームページはこちらです。
http://www1.odn.ne.jp/~cah24160/matinami.index.html



二宮忠八と「幡詞」

2011年05月14日 | 地域史

八幡浜出身の二宮忠八。明治時代に飛行機原理を発見した人物としてよく知られているが、現在、八幡浜市民ギャラリー・郷土資料室では、二宮忠八の飛行機に関する業績だけではなく、彼の書いた掛軸や書簡が数多く紹介されている。

忠八の号は「幡山」。八幡浜の八幡神社の近くに生家があり、京都八幡に住んでいたことからこう称したのだが、「幡山」の詠む句を「幡詞」。それを掛軸に墨で書き、絵を描いたものが「幡画」とされる。

二宮忠八が「幡詞」、「幡画」の定義をまとめている。これは大阪製薬株式会社社長時代で、昭和4年に発行された『幡詞歌』の中で紹介されたものである。

<幡詞の文義>
 1 幡詞の文縁
  著者の故郷は、伊予八幡浜、京都八幡に廬をむすび、
  飛機の思い出、文にもらして、ここに創むる、新体幡詞。
 2 幡詞文味
  男山なる、岩根に湧きて、新にいづる、幡詞を汲めば、
  胸もすがすが、気もさわやかに、口すさびよき、味わひ知れず。
 3 幡詞文意
  幡詞の文が、時代に副へる、雅俗の葉、綾おる栞。
  作り難かる、平仄詩なり。読み書き判り、易く楽しむ。
 4 幡詞文例
  幡詞はすべて、七音口調、四句を単句に、八句を連句。
  詩は自然でふ、思ひの侭に、起承転尾に、綴る文芸。
 5 幡詞文格
  幡詞の文は、音訓自由、国語漢詩の調子を揃へ、
  作り楽しみ、奏でて共に、意気揚々と、歌ふ格なり。
 6 幡画筆意
  幡画の式は、景色世相を、想像実写、思ひの侭に、
  毛筆のみに、彩り作り、幡詞を題し、描く法則。
 7 幡詞筆致
  粗密撰ばず、巧拙問はず、筆致墨色、気韻を持たせ、
  趣味を豊かに、筆を揮ひて、雅号落款、そらふ芸術。
 8 著者の希望
  和歌や今様、俳句に続き、歩み出せる、幡詞の文が、
  世に愛でられつ、親しむならば、如何に行手の楽しかるらん。

以上は、八幡浜市民ギャラリー・郷土資料室で開催中の企画展「風をとらえた人々」の解説文および『二宮忠八展』(泰申会出版、平成23年発行)から引用し、新字体に改めたものである。

この幡詞。七言四句で思いのままに綴ってみるという決まりで、あとは特に縛りのないものである。二宮忠八はこの幡詞を数多く綴り、二宮幡山著『幡詞』などに著している。ただし、忠八亡き後、現在に到るまで七言四句の幡詞が詠まれているかどうか。地元八幡浜出身でもよく知らない。上記の定義からすれば、幡詞は忠八が定型化したものであり、後世の人、今の人、これからの世代が継承してもおかしくないものだと、今日、八幡浜市民ギャラリー・郷土資料室の展示を観覧してあらためて思った。