愛媛の伝承文化

大本敬久。民俗学・日本文化論。災害史・災害伝承。地域と文化、人間と社会。愛媛、四国を出発点に考えています。

笑い話「日本は3倍広い」

2008年01月26日 | 口頭伝承
*以前、八幡浜市向灘で聞き取りした話をもとに大本が構成した話です。


 まだ自動車道路がない頃の話。

 前は宇和海、後ろを山に囲まれた港町・八幡浜の親子が、山側の米どころ宇和盆地にある山田薬師・花祭りに行こうとして、笠置峠を登った。

 花祭りでは甘酒も振舞われて、近郷近在、多くの参詣者が歩いて集まってくる。父親は何度か行ったことがあるが、息子は花祭りが初めてで、甘茶が飲めると聞いて、とても楽しみにしていた。

 峠の頂に着いた瞬間、宇和盆地の景色が目の前一面に広がった。平地の少ない八幡浜で育った息子は「とっと、宇和はがいに広いなあ。たまげた、たまげた。」と素直に驚く。

 そこで父親は真面目に答える。「坊よ。たまげたらいけん。宇和もこんだけ広けんど、日本はなあ、この三倍も大きいがやけん、よう覚えとけよ。」

 息子ばかりか父親も「井の中の蛙、大海を知らず」。ただし、息子は父親の言葉を真に受けて、少しは「世間」というものを知って、ひとつ大人に近づいたような気持ちになったとさ。


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