そうだ私はマリーンギャルになろう。
と何の前後の脈略もなしに唐突にそう決めた私はその朝、
太平洋を遥か水平線まで見渡すホテルのバルコニーに立ち、
小林麻美をはんぺんにして煮すぎてしまったような面構えを斜に構えながら
コーヒーを飲んでい・・・げはぁーーーーーーーーーーーーーっ?!
コーシーは飲めないと口を邦衛にして何度も言ったろがーっ!
何で私のカップにまでコーシーを注ぐのだ、え、ジャイアンよ!?
まったくもぅ、隙もへったくれもありゃしないわ。ん? そういえば
隙という言葉の意味はわかるけど、へったくれって一体どんな意味なのかしら?
へったくれ?
ヘッタ・クレさんという人が過去に存在していたのだろうか?
それとも、「へ、ったく~、レだよな、最近はよぉ~。」という
「レレレのおじさんのレ語」のヤング荒波語なのだろうか?
ふ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~む・・・・・・・・・・・・あ、
何の話をしていたのかしら?
そうだ、そうだわ、マリーンギャルになる決意をした話だったわね。
そうなのだっ!!!
私はマリーンギャルになる。
この旅先で眺めた北カリフォルニアの海を目の前にして、
理由もなく私はそう決めたのだ。人はそれを「思いつき」というかもしれない。
しかしそんなことは別にいいのだ。そもそも理由なんて
自分の行動を納得させたいが為に後付けされる影絵みたいなものなのよっ。
とにかく今日から私はマリーンギャルなのだ。
ハイビスカス模様のビキニなんかを着て砂浜を颯爽と駆け抜け、
たまには思い出したようにサーフィンなんかもしちゃうかもしれない。
お腹のたるみはこの際無視できないほどたるんでいるけどせっかくだから
この際無視しよう。え、なんですの、ジャイアン?北カリフォルニアの海は
寒流だからアホ以外は泳げない?
ぬわぁんですってぇええええええーーーーーーーーーーーーーっ?!
アホになるわけにはいかないわ、これ以上。
何事も事を成すというのは至難の技なのね、うぅ・・ハッ!
ビーチでビキニになれないですって?! それでは私は
これからどうすればいいのっ? このお腹の脂肪はどうすればいいのっ?!
誰か責任とって頂戴!!!
と海に叫んでも仕方がないので、
やむを得ずカヤックに挑戦することにしたあたくし。フ、
これで私も立派なカヤック・クィーン。
とレンタルカヤック店に到着する前からそう決めた私ときたらなんていう
意思の堅さの持ち主なのかしら。自分でも呆れちゃうわ。ワイルドだわね。
そんな私のことを人は密かにワイルド・キャッツと呼ぶかもしれない。フッ。
照れるじゃないか。
などと思っているうちにレンタルカヤック店に到着した私とジャイアンは、
レンタル契約書類にささっとサインをした後、ロッカールームへと行き、
そこで華麗なるカヤックスタイルにチェンジ開始!
そうそうカヤックといえばヤッケよね、青色だけどまぁそれもマリンだから
OKってとこかしら、それからズボンね、ん?ちょっとブカブカの
防水加工がついたスキーパンツみたいだけどこれはサーフアンドスノーで
ユーミンチックってとこなのかしら?それと一番大事なのはこれ、
ライフジャケットよね。ふむ、なんだか使い古した防弾チョッキみたいだけど
色はオレンジなのよね、ま、今日のラッキーカラーはオレンジなのかもしれない。
これを装着してこれで準備万端だわっ。鏡に映った私はまるで、
「オ~ラ~イ、オ~ラ~イ、工事中だからね~片側通行だけだよ~」
って夜間交通整理のオバちゃんかよっ?!
おかしい。
華麗なるカヤック・クィーンになるはずが、何故に交通整理のオバちゃんに?!
これは何かの陰謀なのかもしれない。油断は禁物だわ。
張り詰めた緊張の中、私とジャイアンは浜辺へゴー。
そこで待っていたのはアルバイトオーラばりばりのインストラクター。
私の姿を一目見るや否や、「ニホンジンてすか~? ニホンジンてすね~。
ボクニホンにスンデタことアッタから~ニホンゴバッチリすごいよね~。
ニホンダイスキ。ナットーもOK。ボクはデビトといいます。ヨロシク。」
デビト?
デイビットの間違いなのではないだろうか?
とは思ったものの彼の気持ちを傷つけなくはないので
発音の訂正はしないでおいた。大和撫子なら当然とる処置だろう。
カヤックで海へと出る前に、きっとハードなカヤックレッスンをするに
違いないと思っていたのにそれはたったの三分で終わってしまった。
デビトはただのカヤック立ち話解説員なだけらしい。
しつこく怪しいニホンゴを話しかけてくるデビトに別れを告げ、
私とジャイアンはいざカヤックで海洋へ。
オールを漕ぐごとに深まる海の色。
遥か彼方に広がる水平線。
どこまでも果てしなく広がる青い海。
素晴らしい!
なんて素晴らしい開放感なのかしら~!
と思ったらオールが巨大ワカメ軍団に絡まってしまった。
ひゃぁ~~~~どないしょ~~~~~~~、にっちもさっちもブルドッグ~
わぉ!!!
なんて歌っている場合じゃないんだったわ。
なんとかしてこのワカメ軍団から脱出しなくては。
いや、待てよ、パニクッてしまうのはよくないのだ。
ピンチのときこそ冷静にならなくては。そうだ、ここは冷静に。
冷静に呼吸を整えて海面を見つめ・・・・・ってなにこれ、え?
だひゃァ~~~~~~!!!!!生命維持装置を外したダースベーダーが
海中真下から私を見つめてるぅぅうううううわぁあああーーーーーっ!!!
ばっちり目が合っちゃったわぁーーーーーーー、You are not my father~~~!
すごい勢いでオールを漕いでその場から脱出した私は
北京にいたらカヤック競争金メダル獲得間違いなしだったと思う。惜しいことをしてしまった。。。
ってそんなことよりなんでダースベーダーが海中にっ?!
と思ったのもつかの間、再び背後に視線を感じて振り向くと
またもやダースベーダーがぁ~~っ、今度は礼儀正しく海面上に顔を出して
こんにちは~!!!
しかもさっきよりちょっと成長してるわっ!
きぃゃぁ~~~~~~~~~~~助けてぇ~~~~~~~~~~って
よく見たらそれはアザラシくんだった。。。
人騒がせな。
こんなところで顔を出すんじゃなくってよっ! とっとと海にお帰り!
ってここは海だったわ。
そうよ私は海の上にいるのよ~。
ワカメ軍団とアザラシベーダーに気をとられて
すっかり気を取り乱してしまったわ、あたくしとしたことが。
でもそのお陰でワカメデンジャラスゾ~ンから脱出できたし、
めでたしめでたし。
それにしてもなんて透明度の高い海なのかしら~。素晴らしいわぁ~。
しばらく波に揺られていよう~っと。
見上げるとどこまでも高く澄み渡った空。
髪をやさしく撫でていく海風。
私を囲む海面はユラユラとピンクに凪いでいる。
綺麗だわ。
でもなんで海の色がピンクなのかしら?
どうしてなのかしら~?
どうしてここだけ・・・・・・・・・・ってクラゲだっはぁああーーっ!!!
いつの間に巨大ピンククラゲたちに囲まれていたのかしらぁっ?!
一匹ならまだしもこんなに沢山うようよ~んしてるなんて怖いじゃないかぁ~。
しかもスーパーサイズなのよぉおおおおおおおお。
ここから動きようにも漕いだらオールが君たちにぶつかっちゃうじゃないか!
どないせばええんじゃっ?!
とうろたえているうちにいつの間にかクラゲくんたちのほうでどいてくれた。
フッ。危なかったぜ、クラゲ一味。
なめんなよ。
そうこうしているうちに我がカヤックはまたしてもワカメ水域に突入。
しかし慌てるなかれ。
私はこの海で何度も危機を乗り越えてきた今や海上自衛隊員なのだ。
ワカメ水域なんてへっちゃらなのよ。
わ~かめ わ~かめ すきすき~ わ~かめ わ~かめ すきすき~♪
どう? 余裕の鼻歌交じりでカヤックを漕いでるのよ。
ワ~カメ ワ~カメ スキスキ~ ワ~カメ ワ~カメ スキスキ~♪
今度はカタカナで歌ってみました。
しかし私のカヤックは何か目に見えない力によって、ある物体へと
どんどんどんどん引き寄せられていきコントロール不可能に。。。
一体そこにぽわんと浮かんでいる物体は何なのだ?
どんどん近づいていっちゃうわぁ~~~。
ひょぇぇ~~~~~~~~~~~~~~~~。
だめよ、落ち着いて。落ち着くのよ。
若芽~ 若芽~ 好き好き~ 若芽~ 若芽~ 好き好・・・・・・・・吉岡くんっ?!
こんなところに吉岡くんがぁ~~~~っ?!!!!!
吉岡くんが私をここに引き寄せてくれてたのねーっ!
運命のめぐり合わせだわっ、吉岡く~~~~~~~~~~~~んっ!!!
と思ったらラッコだったわ。
危なかったぁ。
すんでのところでさらってしまうところだった。。。
危機一髪だったわね、ヒデラッコ。
ってカヤックが止まらないのよー。このままいくとぶつかっちゃうのよーっ!
なんでラブリーな顔をしたままこっちを見つめてるのっ? 危険なのよっ!
わかってるのっ? どかなきゃだめよーっ、ヒデラッコーッ!!!
とその時、ヒデラッコは左手をシュタッと挙げて、
「やぁ!」
と私に挨拶したのだった。
確かにそう挨拶したのだ。
この目で見たのだから確かなのだ。
そしてそのままヒデラッコは海に潜って去ってしまった。
さよなら、ヒデラッコ。
ひとときの友情をありがとう。
君のことは一生忘れないよ。
ヒデラッコとの友情を胸にしまい込みながら浜辺へと戻った私は、
さっそくその話をジャイアンに言うと彼は、
「それはそのラッコが、“止まらんかいおらぁ~!”
って伝えようとしたサインだと思う。」
と言及。
フッ、
こりだからアメリカンはよ~。
私は信じる。
あの時確かにヒデラッコは「やぁ!」と私に挨拶してくれたのだ。
鰯の頭もカルシウム入り
なんて深い言葉なんだ・・・・。
この旅で得た教訓、それは、
私はマリーンギャルにはなれない。
人は旅から様々なことを学ぶらしい。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます